サピエンス全史マガジン3

サピエンス全史 #3 統一へ向かう世界

いらすとや図解シリーズ第一弾「サピエンス全史」の第3回、今回は統一へ向かう世界についてです。

前回は一万年前に農業革命が起こり、最初は村と言える大きさの集団どんどん大きくなっていった話でした。国家、法律、ヒエラルキーなど、物理的にも遺伝子の中にも存在しない「想像上の秩序」が重要な役割を果たした、ということでしたね。

今回は想像上の秩序のグレードアップ版、「普遍的秩序」にまつわるエトセトラです。

約3000年前から登場したこの「普遍的秩序」。この地球上どこでも誰でもいつでもこの秩序の支配下に収まることが可能なので、普遍的というわけです。具体的には、貨幣、帝国、宗教という3つのことをいいます。

貨幣は、商人が「全人類が潜在的な顧客だ」とみなし、全世界を単一の市場にすることを目指します。

帝国は、帝国建設者など征服者が「全人類は潜在的な臣民だ」とみなし、全世界を単一の帝国にすることを目指します。

宗教は、預言者などが「全人類は潜在的な信者だ」とみなし、全世界を単一の心理に内包することを目指します。

これらの強力な秩序の登場により、世界が小さな民族単位という混沌とした世界情勢が、一つの色に染まっていきます。秩序の影響が、大きくなったり小さくなったり波はありますが方向性は明確、「統一へ向かう」ことになったのです。

まずは、最強の征服者「貨幣」についてです。
アメリカの文化や宗教や政治を憎んでいたウサマ・ビンラディンでさえアメリカドルは大好きでした。宗教や国を超えて猛烈に信奉者を増やしていったことが最強たる所以です。

どうやって貨幣が世界を虜にしたのか。はじまりから見ていきましょう。

貨幣がないころは、物々交換で生活必需品などを交換していました。山の者の果物・肉と、海の者の魚などをなんかしらのレートに基づいて交換していました。鹿の肉ひと塊と、魚10匹とかね。

でも、交換レートに組み合わせの爆発が起きること、サービスなどその場で必要な時しか交換できないものの登場などにより、成り立たなくなってきます。

そしていよいよ、貨幣の登場です。最初はタカラガイ、貝殻ですね。ただ残っていたのが貝殻ってだけと予想しますが。他に貨幣の初期は穀物などが使われていました。貨幣の価値=貨幣に使われた物の価値だったので、交換は物理的に信頼ができるものでした。

貨幣とは「普遍的な交換媒体」です。最も効率的な相互信頼の制度であったので、信奉者がどんどん増えていきます。

そのうち違う国同士でも貨幣の交換が可能になっていきます。信頼を担保するために、国王の肖像などが刻まれた「硬貨」が登場します。今でも紙幣に人物が書いてあるのは、信頼の証とするためでしょう。信頼のためには神をも使います。現在のアメリカのドルも「In God We Trust」と書かれ、神の力を借りたままだったりしますね。

そして、硬貨・紙幣と発展していきます。それらが持つ価値の基準は、国の信用度となっていき、貨幣そのものが持つ価値より大きくなっていきました。福沢諭吉の似顔絵が印刷されたただの紙が、1万円の価値もある設定ですよね。国が持っている金の量って時代もありましたが、今は完全に国の信用だけでなりたってます。平和で豊な国の貨幣ほど価値が高いです。

さらに現代では、貨幣はビットになりました。銀行の残高を右から左へさせるだけで取引が成立しますね。
地球の硬貨と紙幣の合計が$47兆にもかかわらず、貨幣合計は$473兆と10倍です。私たちはなぜ、この貨幣という膨らみまくったスッカスカのホイップのような虚構価値が欲しいんでしょうね…、まったく恐ろしい宗教です。

貨幣の普遍的な原理をまとめると2つ。どんなものにも交換できる普遍的交換制と、国・宗教など立場を超えて信用できる普遍的信頼性です。

普遍的交換制は、例えば、人質を身代金とを交換など、どんな物理的なやりとりも可能ということです。物理的以外にも、医者が得た治療費で弁護士を雇い裁判に勝った場合は、貨幣を介して健康と正義を交換できたりします。

普遍的信頼性は、例えば、先ほどの例の通り、アメリカを憎むイスラム原理主義のテロ組織もキリスト教の神により信頼が担保されたドル紙幣を要求するなどです。

これらの原理により、貨幣には見ず知らずの人同士でも信用して取引できるなどのメリットがあるのです。

デメリットは、モラルを超えること。そして家族など親しい人よりも貨幣の方が信頼があり関係が崩れること。免罪符を買い罪を免れる、親が子供を奴隷に出すなどなど、社会が人をより金を優先することがこれまでの歴史では多々ありました。

このように人類の経済史は、デリケートなバランス芸を繰り広げてきたのです。

世界を統一といえば「帝国」ですね。どうしても、映画の影響で人々を蹂躙していき悪の限りを尽くすイメージが強いこの帝国制ですが、人類史を語るうえでは外すことのできない重要な政治制度なのです。どのように成り立っていったかを見てみましょう。

まず、認知革命(第一回まとめを参照してね)くらいのころには、集団というものは、150人とか数百人程度の親しい人たちから形成されていました。その集団で特定の条件をもつサピエンスのオスがリーダー、アルファオスとして頂点に立ち治めていました。特定条件は、力が強い、知性が高い、血筋、年寄などですね。この集団を部族といい、子供を産んで人を増やし、縄張りを拡大したりして広がっていきました。

その部族が大きくなり、民族となり国となりました。アルファオスは王と呼ばれ、階層社会を形成して統率していました。このころから国の縄張りと隣の国の縄張りが隣接していて、領土の奪い合いが発生しました。民族同士の戦いとなり、どちらかの国がどちらかを征服するようになります。そうすると、征服された国は消滅し、民族は迫害されたり奴隷化されて消えていきました。その領土から見ると「入れ替わり」ですね。

ここまでが帝国が登場する前までの流れです。

帝国は、国同様に征服をするのですが、民族はそのままで、帝国が必要な文化だけ被支配民に採用させる、というのが違いです。その領土から見ると「ミックス」ですね。しかも完全に全部じゃなく。帝国の広がり方も戦争だけではなく、婚姻や同盟など血を流さないこともありました。

そして帝国の頂点に立ち王たちを束ねるアルファオスが皇帝です。なんだかとてもかっこいい響きに聞こえるのは私だけでしょうか。ただ帝国には皇帝が存在しないこともあります。例えば18世紀の大英帝国は、王や女王はいましたが皇帝はいませんでした。国自体が皇帝の役割だったんでしょうね。

そして現代ですが、国際法・国連ができるなど国家の独立性がさがり地球を包括するグローバル帝国の様相となってます。民族を隔てないエリート層が一般の民を支配していることになります。エリート層は、政治家、経営側、大学・宗教の幹部などですね。

例えばFacebook。instagram、WhatsApp、oculus、などの買収が有名ですが、他にも無数の企業を買収し続けている帝国です。この10年間で売上と従業員数は指数関数的に増えていってます。

グローバル帝国は今現在のことなのですが、実感がないし見えないですね。魚にとっての水のように、さも当たり前になっているからでしょう。大英帝国の支配下の民も、きっとさも当たり前のように感じていたに違いありません。

そもそも帝国とは何か? その特徴をまとめるとこんな感じです。

1. それぞれが異なる文化的アイデンティティと独自の領土を持った、いくつもの個別の民族を支配している、ということ。
厳密にいくつから、というのはないのですが10~20を超えだしてから帝国という扱いになりますね。ですので領土的には小さくてもなりえるのです。

2. 変更可能な境界と潜在的に無人の欲を持つ、ということ。「支配するのは、お前たちのためなのだ」という帝国建設者たちは臣民のためにという名目で、領土を広げていきます。そういうモチベーションなので、全世界を統一するまで無尽の欲ということになります。

また帝国には、成長サイクルがあります。帝国文化が領土内に広がって浸透する、しばらくすると被支配民が対等の価値を要求しだす、というものです。その結果、支配権を失うことになります。しかしながら、支配前の文化に戻るのではなく混ざり切った帝国文化が残り続ける、ということも特徴です。インドにはイスラム教の帝国化の名残であるタージマハルや、大英帝国支配下の時に建設されたヴィクトリア駅はそのまま「インド」として残ってます。

このように、帝国内で文化が拡大・浸透しやすいことが帝国のメリットの一つです。支配下と普及する文化がまざりつつ、支配下の文化からも吸収し、帝国支配国に移っていくからです。そして、過去2500年間では、帝国はもっとも安定した政治秩序でもありました。これもメリットですね。

一方のデメリットは何か? いいところばかり述べましたが冒頭にもある通り、支配下の民族を迫害しまくったのは事実です。支配側と被支配側の格差が大きく抗えないもので、奴隷制など残酷なものも多かったのでした。また、いろいろな民族のとがった特徴を帝国文化へと平滑化したロードローラでもあり、多様性が激減したということもあります。

このものすごいパワーを持って文化が混ざりあっていく帝国制、まさに統一への道の強力な推進力といった感じです。

最後、普遍的秩序の「宗教」について。
日本人だとどうしても胡散臭く感じる傾向にありますね。戦前まで天皇が神という設定だったからとか、近年の新興宗教の拝金主義や凄惨な事件などが影響しているのかもしれません。

しかしながら世界の視野でみると、中世の宗教が全盛だった時代だけではなく、科学が進んだ現在でも大きな影響があります。淘汰されないところをみると、サピエンスにとって何かしらのメリットがあるのは事実でしょう。

というわけで、宗教の定義から。
宗教とは「超人的な秩序の信奉に基づく、人間の規範と価値観の制度」です。超人的な、というのは神だけではありません自然や人間自体も含みます。超人的な秩序いわゆる真理です。この真理は絶対的な基準なので、それを元に人間の規範と価値観が定義され、「いい」・「わるい」などの判断がなされるのです。

そのなりたちですが、最初は「アニニズム」です。その土地ならではの信仰で、その対象は岩・木・山などの自然、キツネなどの動物、死者の霊や精霊などでした。科学が未発達だったころ、自然の不思議さが信仰を生みました。例えば、子牛がちゃんと生まれてくるかどうかは、神頼みだった、などです。しかし、部族内だけで通用する秩序で、他の部族から見ると奇妙なことに見えるものでした。

国が大きくなったり、国同士の交易が盛んになると、影響力がつよい「多神教」が発明されていきました。ギリシャ神話、北欧神話、ヒンドゥー教などです。

多神教はやがて「一神教」と「二元論」を生みました。一神教のユダヤ教から分派したキリスト教は、ローマ帝国の宗教に採用され帝国の推進力と一緒になり世界を席巻していきます。一神教の信者は多神教よりも熱狂的という特徴も相まってでしょう。

ゾロアスター教など世界と善き力と悪しき力であるとする「二元論」の宗教も、帝国の特色である文化融合によりキリスト教など一神教に吸収されていきました。キリスト教のサタンなどです。

宗教は神が存在するとは限りません。
仏教には神が存在しません。2500年前、ゴータマが苦悩・不安の悪循環から脱する方法を開発したのが始まりです。悲しみが去ること、喜びが強まることを渇愛しなければ、心が平穏になり幸福を得るという教えです。渇愛することなく今をあるがままに受け入れられるよう心を鍛錬する方法、すなわち瞑想法と倫理的規則のセットが仏教です。

渇愛の悪循環からの脱した状態を悟りといいます。悟りは非常に難しいため、悟りを開いたゴータマや悟りを開いた人々を「ブッダ」「仏様」として崇め始め、悟りへの色んな攻略ルートが出始めたりたりして宗派が分かれ、多神教のような様相になっていきました。

ちなみに、このサピエンス全史の作者はユダヤ人であるものの仏教というかゴータマの教え推しです。他の宗教や戒律、科学の中で特筆的すべきほど幸福に論点に置いているからでしょう。ゴータマの教えは「サピエンス全史」の重要なポイントですので、また後程の出てきます。

宗教は2つの特徴を持ちます。
1.超人間的な秩序の存在を主張する。
超人的な秩序は、神をはじめ自然法則など人間を超えるもののことです。相対性理論もこの1.に該当します。

2.超人間的な秩序に基づいて価値観を確立し、それには拘束力がある。
人間が守るべきことなので、人間の上位の存在というわけです。様々なルールが該当します。サッカーも守るべきルールがあるので2.の超人間的な秩序です。

この1.と2.の特徴をあわせもつのが宗教です。
一神教のイスラム教、神不在の仏教だけでなく、イデオロギーの共産主義もこの1.と2.の特徴を併せ持つ宗教です。イデオロギーのうち、人間至上主義はサピエンスを崇拝します。人間至上主義は主に三つの宗派に分かれます。自然主義、社会主義、進化論的人間至上主義です。それぞれ、「人間性とは何か?」の真理を主張しています。

自由主義は、「『人間性』は個人的なもので、奪うことのできない神聖な権利」と主張します。内なる心の声は聖域として、害や侵入から守るべきというものです。神の存在も自由なので、他の宗教とハイブリッドとなりとてもパワフルです。キーワードは「人権」「自由」です。現在のアメリカをはじめ、憲法に「人権」「自由」などが入る国は自由主義の宗教下にあります。日本も思いっきり人権を信奉してますね。

社会主義は、「『人間性』は個人ではなく集合的なもの、種全体が神聖」と主張します。財産や福祉など平等にすべき、という戒律です。キーワードは「平等」「共産」です。旧ソビエトや中国などですが、共産主義自体はほとんどみられなくなってもう一度したい!っていう人も着実に減ってますね。ただ、日本を始め多くの国で「平等」だと信じている人が多いですね。日本は、社会主義と自由主義をいっぺんに信じている国と言えます。

進化論的人間至上主義は、「『人間性』は変わりやすいもの、超人にも人間以下に退化もある」と主張します。変わりやすいので、優越な種だけを残そうとする戒律です。自由や平等など神の系譜があるキーワードが多いなか、進化論的人間至上主義は、神と縁を切った科学的な宗派と言えます。キーワードは、「優越性」「闘争」などです。第二次世界大戦時のナチスがこの宗派です。日本を始め多くの国でも、ダウン症など障害を持った胎児を堕胎して優越性を保とうとします。平等をうたったり優越性を保ったり、なんだかもうめちゃくちゃです。

まとめ

普遍的秩序である、貨幣、帝国、宗教を見てきました。この秩序は猛烈にパワフルだったので、2500年前から500年前くらいまで世界を統一せんばかりに地球上に広がり一つを目指していきました。

あらためて言いたいのは、この普遍的な秩序、すべて「虚構」です。自然には全く見られない「ただの設定」にもかかわらず、地球全体を飲み込む膨大な影響力。虚構の信奉こそ人間らしさの極みです。活発さが足りない日本人は特に、宗教をもう一度見直すべきなのかもしれませんね。

次回は500年前から起きた科学革命から説明します、お楽しみに!

つづく


この記事が参加している募集

いただいたサポートは「心の豊かさ事業」の元手にさせていただきます! 誰かがハッピーになります。それで私もハッピー。