見出し画像

アーカイブの入口は「整理」から ―アーカイブの専門家に聞く!#1【前編】

こんにちは、バリュープラス アーカイヴ プロジェクトです。

私たちバリュープラスと同じメモリーテックグループの株式会社クープ(qooop)では、映像/音響の編集のほか、フィルムやビデオテープのアーカイブ業務にも取り組んでいます。

今回は株式会社クープ 営業部長の酒見弘人さんに、映像コンテンツのアーカイブについてお話を伺いました!


株式会社クープ 営業部長の酒見弘人さん

―クープではどのようなアーカイブ業務に取り組まれていますか?

酒見 まず一つ目は、旧作のフィルムのデジタル変換(5Kスキャンによる高画質化やHDR化)といったフィルムの「デジタイズ業務」です。同様にビデオテープについても、デジタルファイル化する業務を行います。
基本的にアーカイブの概念というのは「整理」から始まるので、保管されている物を整理するということもお手伝いします。
映像メディアと同様に保管されている紙資料、例えば台本やデザイン画、ミュージックキューシートをスキャンしてデータ化するといった業務やメタデータの作成業務もしております。
また、生成されたデジタルデータを運用できるように、「KaleiDA-Arc(カレイダアーク)」というメモリーテックのシステムをお客様に提供して、その運用サポートも行っております。
あと、最近はハードディスクなども保管されている会社さんが多いので、それらのエラーチェック、棚卸なども行って総合的なアーカイブの取り組みをしております。

―フィルムやテープなどの各種メディアを扱われていますが、比率としてはどれが多いのでしょうか?

酒見 最近はテープが非常に多いですね。以前はフィルムアーカイブが多く、いわゆる旧作をデジタルリマスターした素材をパッケージソフトとしてBlu-rayなどで販売するという需要が多かったんですけれども、今は配信が主流となり、なかなかディスクソフトが売れないという状況になっています。
一方でVTRの「2023年問題」というのがありまして、HDCAM、HDCAM-SRのデッキの保守が終了してしまうという問題を抱えていて、過去のテープ素材をまずデータ化しようというような動きが活発化されています。映画業界、アニメ業界、放送業界、皆さん必死にテープをデジタル化しているというような状況です。

―その中で酒見さんはどのような役割でお仕事をされていますか?

酒見 私は営業部という形で営業が仕事なんですけれども、単純に仕事を取るとかではなく、アーカイブの重要性を伝えるというスタンスで取り組んでおります。
というのも、ただデジタル化すればいいというわけではなく、間違った知識を持っている人がいて、データ化したらすぐに元のテープやフィルムを捨ててしまうという認識をされている方が多いです。
まずは、保管されているメディアがどういう状況なのか。私はお医者さんのようになって、その企業の映像資産の「健康診断」をする、そしてカルテを作成してさまざまな治療プランを提案する、そのような形の営業のスタイルでやっています。
予算を考えながら、例えば「まず今期は整理だけしましょう」とか、フィルムについてはまだそこまで劣化がしていない、「ビネガーシンドローム」が進んでいなければ、今期は巻き返して風通しだけをして、将来のための資金作りが終わったところで、ビジネスモデルを一緒に考えながら「4K HDR化までしましょう」というような形など、いろいろと提案をしております。
それが我々のアーカイブを伝えるという営業の役割だと思っています。

―お話に出た「ビネガーシンドローム」というのはどのようなものでしょうか?

酒見 簡単に申し上げますと、フィルムを形成する素材が空気中の水分と結びついて分解する現象(加水分解)です。お酢のような酸っぱい臭いがするのでビネガーシンドロームを呼ばれております。それによってフィルムが収縮や変形していくんですよね。フィルムが縮こまって最終的にはクシャクシャになって固形化してしまうんです。収縮が始まるとワカメのような状態になったりするんですけど、そうなったら一刻も早く平面化させてデジタイズしないと、もうそのフィルムが映像資産としての価値がなくなってしまう。言い方は悪いけれどゴミになってしまうので、どのくらい劣化が進んでいるか、今すぐデジタル化すべきなのか、まだ延命措置ができるのかというような判断をします。

クープで所有している、フィルムをデジタルスキャンする機材「Scan Station」

―メディアを保管・管理することの大切さや難しさを教えてください。

酒見 まずは環境ですね。環境がメディアを保管する上で一番大事なことなので、フィルムやテープに適した環境というのを、常に我々は気にして保管しております。
フィルムに関しては、倉庫内が高温にならないことと、湿度があまり高くならないようにすることです。高温多湿になることによって劣化が非常に早く進みますので、よく企業で一般的な倉庫に保管されていることがありますが、それはフィルムにとっては良くないです。フィルム専門の倉庫というのは2~5℃の低温にして保管しています。クープで作業をする際も、フィルムを扱う保管場所に関しては、常にエアコンを回して一定の温度で、湿度も30%前後に保つようにしています。
一方で、テープの場合はあまり湿度を下げすぎて乾燥してしまうと静電気が発生してしまうので、低温を保ちつつも、湿度に関しては60%以上ぐらいで保管しています。
一番怖いのは、フィルム缶を開けるとフィルム本体がビニール袋に入っていて、これは製作当時に現像所がネガフィルムを納品するときに入れている袋なのですが、袋に入れているから大切に保管されているのではないかと思ったら大間違いで、ビニール袋の中でガスが充満してしまうんですね。とにかくビニール袋からは出して、常にフィルム本体に風を当てるということが大事です。
ビネガーシンドロームを防ぐために、小さな穴の空いたアーカイブ缶と呼ばれる製品もあり、そのような缶に入れ替えることによっても延命措置することができたりします。
こういった判断というのは非常に難しいので、なるべくご自分で判断せずに、フィルムの専門家に聞いた方がいいかなと思っています。

フィルムをスキャンする「スキャンルーム」の入口は二重扉になっており、エアブロワーで衣服に付着したホコリなどを取り除いてから入室する。

―フィルムやテープ以外にも、例えば製作当時の台本や資料、宣伝用のチラシやポスターなどを同時に保管してあるというところもありますね。

酒見 紙も湿度を嫌いますね。やはり湿気はカビの原因になります。カビというのは一箇所できると、それがどんどん広がっていきます。ご家庭のタンスの中のように、虫が喰ったりすることもありますし。
いずれにしても、段ボール箱などに何でも詰めてしまうと、中身が見えなくなってしまうので、なるべく箱から出して風を当てること。箱に何が入っているのかというのを常に記録するというのが大事だと思いますね。

―長年保管されていて、担当者も当初と変わってしまうなど、自社の倉庫に何があるか把握できていない会社も多いと思います。

酒見 先ほども言いました通り、アーカイブで最初にやるべきことは整理です。まず自社に何があるのか、どの作品のどんな素材があるのかというのを調べる「棚卸調査」というのがアーカイブの入口になります。そういった業務を我々クープもやっていますし、グループのバリュープラスという会社も―あっ、目の前にいましたね(笑)―そのような棚卸業務をやっていますので、グループ会社でうまく連携しながらサポートしております。

後編に続く】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?