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過去の映像を後世に残す意義とは? ―アーカイブの専門家に聞く!#1【後編】

こんにちは、バリュープラス アーカイヴ プロジェクトです。

私たちバリュープラスと同じメモリーテックグループの株式会社クープ(qooop)では、映像/音響の編集のほか、フィルムやビデオテープのアーカイブ業務にも取り組んでいます。

今回は株式会社クープ 営業部長の酒見弘人さんに、映像コンテンツのアーカイブについてお話を伺いました!

【前編】はコチラ



―フィルムやテープなどのアナログメディアをデジタル化することの意義について教えてください。

酒見 やはり昔の戦争であったり、歴史というのはもう変えることができないし、再現することもできないので、それを残して後世に伝えるということは非常に大事なことだと思っています。次世代への教育の場でも使用できますので、我々としても昔の映像資産をきっちりと正しい形でアーカイブしていきたいです。
また、デジタル化した映像を高精細化するような技術を持っていますので、きれいに見せるということにも取り組んでいます。
例えば最近、ベトナム戦争の記録フィルムをデジタル化しました。さらに、モノクロの映像だったので、弊社の技術を使ってカラー化しました。それは単にカラーにすると面白いということではなく、モノクロのままだと結局、今の子どもたちが見たら「モノクロの時代のもの」で終わっちゃうんですよ。現実世界のものとしての実感がないんです。それがカラー化されることによって現実化されるんです。自分たちが今、生きている世界でも戦争は起こりうるんだなっていう。そのためにも、私はそういったモノクロ時代の戦争や事件などのドキュメンタリーをカラー化したいと思っているんですよね。
ただし、何でもかんでも加工すればいいというものではなく、あくまでもオリジナルも残すというのを常に頭に入れています。
フィルムについては、単純に4Kスキャンするのではなく、パーフォレーション(※フィルムを巻き取るために端に規則的に空いている穴のこと)も含めて5Kでスキャンして情報を全てデータにして、デジタルの複製版というのを作るというような形でアーカイブを進めています。それがいつの年代のどこのメーカーのフィルムなのか、そういった情報も残しています。
テレビ放送の作品であれば、「安全フレーム」といって画面の上下左右には映像として見えない領域があるのですが、それがアニメであればちゃんと端の方まで描かれていたりとか、端の方に消しゴムで消した後もあったりとか、いろいろと見えてくるものがあります。そのような今まで見えなかったことが見えるというのも、もう一つのアーカイブの面白さだと思いますので、そういうのも全部残すということを心がけております。
それに、各地域には図書館であったりとか、いろいろなアーカイブがあると思うんですよね。また、ご家庭でも子どもの頃の8mmフィルムの映像ですとか、おじいちゃんの若かった頃の映像をお持ちの方もいると思うんですけれども、そういうものも含めて一つの歴史であり、伝統であり、文化であり、大事なものであると思います。ビジネスというだけではなく、それらもアーカイブするお手伝いをしたい。それも我々の使命だと考えております。

フィルムの缶に同封されている「タイミングテープ」。
一見するとただの穴の空いた紙だが、ネガからポジにプリントする際の色補正情報が記録されている。

―高精細化とはどのようなものでしょうか?

酒見 例えば35mmフィルムであれば、デジタル画像に換算すると6Kぐらいの情報量が含まれているといわれています。人によっては8K、或いは12Kあるという人もいますが、一般的には6K相当と考えられています。
昔はそれを映画館で上映していましたが、今でいうHD(2K)よりも少ない情報量で上映されていました。つまり、当時の映画を観ていた方々は、非常に情報量の限られたものを観ていたことになります。
現代のスキャナーというのはとても高性能になりましたので、5Kでスキャンすると、当時見えていなかったものもくっきりと見えてきたりします。例えば夜空のシーンとかですと、今まで見えていなかった星が見えてきたりして、アニメの場合は「アニメーターさんがここまで細かく星を描いていたんだ」というのもわかります。先程の安全フレームの話でも出ましたが、間違えて消しゴムで消して描き直したところもくっきりと見えてきたりもしますね。
一口に「4Kリマスター」といっても、ただきれいというだけではなく、見えなかったものが見えてくるという面白みがあると思います。

―この記事は、旧作をお持ちだけどまだ活用できていない会社の方などもお読みになっているかと思うのですが、そういった方々にご提案だったり、アドバイスはありますでしょうか?

酒見 やはりどうしても会社を経営するということは、利益を出すというのが経営者の使命であり、単年度の利益を追求するのは当たり前のことだと思うんですよね。ですが、予算策定の時点で、アーカイブ費を少額でも構わないので長期的に予算計上していただけると、アーカイブの取り組みというのはどんどん進むのかなと思います。
単に今年度は利益が出たから、「じゃあ税金対策のためにアーカイブしよう」ということですと計画性が低く、実際にもう(フィルムの劣化などの)取り返しのつかないことになるというのはあると思います。
まずは自社がどんな映像資産を持っているのか、どの順序でアーカイブするべきなのか。
それは例えば売れる作品からやるというのもありますし、年代の古いものからやるという方法もあります。また、まず状態を調べて、劣化しているものから優先するというやり方など、いろいろな考え方があると思います。アーカイブを進める上では、我々のようなプロにご相談いただければ、さまざまなプランを提案できますので、闇雲にアーカイブしないでほしいなと思います。
また、最近は安価にデジタル化するという業者も増えてきたのですが、どうしても安いところでやってしまうと、映像を人の目でチェックしないのでデジタルノイズが入っていることに気づかないとか、フィルムを切ってしまったりとか、トラブルが発生するリスクが高まります。安かろう悪かろうということにせず、ぜひしっかりとしたポストプロダクションに依頼されることをおすすめいたします。

―先ほどの「2023年問題」(【前編】を参照)もありますから、お早めにというのもあるでしょうか。

酒見 そうですね。早くしないと機材がなくなってしまう。ビデオテープのデッキに関してはヘッドがなくなってしまったらもう再生できなくなるので、日本全国に存在しているテープの全てを救うことは、おそらくもうできないと思うんですよね。
そんな中で、やはり優先順位をつけて予算化して、なるべく10年以内に全てのデジタル化を終わらせるというのが理想かなと思っております。

―最後に、クープとして、或いはメモリーテックグループの連携として、今後このようにアーカイブに取り組んでいきたいということがあればお聞かせください。

酒見 アーカイブ後の将来的な利活用のしやすさも含めて取り組んでいきたいと思います。つまり、今お持ちの物理的なフィルム、テープ、紙資料の整理、デジタル化後のデータの整理、それらを全て紐づけて検索できるような「KaleiDA-Arc(カレイダアーク)」の運用のお手伝いなども含めて、10年後や20年後、もしくは50年後の方々が困らないように全て紐づけて管理するということを意識しながらアーカイブしています。「そうした正しいアーカイブ」の情報を発信していければなと思っております。

あとは、昔の野球の映像のアーカイブもやりたいんですよ。沢村栄治投手の映像をカラー化したら、多分めちゃくちゃ球速くて今の大谷翔平ぐらいに見えると思うんですよね。スポーツ系もやりたいなと思っています。

―本日はありがとうございました!


取材・構成 飛山拓也(バリュープラス)

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