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【広告投資プランニング】メディアクレディビリティ(信頼性)の大切さ


I. メディアクレディビリティとは?

メディアクレディビリティ(Media Credibility)とは、その名の通りメディアが提供する情報や内容に対する信頼性や信用性のことを指します。情報が正確であるかどうか、バイアスや偏見が含まれていないか、情報源が信頼できるものかなどを消費者それぞれがそのメディアやメディアが発信する情報から複合的に判断した結果になります。 広告は企業と社会の接点の中でも比較的大きな役割を担っています。もし私がメーカーの社長で長い期間と強い情熱を持って素晴らしい製品を開発したとします。当たり前ですが「その製品があれば社会はもっと良くなる」と信じて開発を続けてきました。いざ発売までこぎつけ広告によってその想いを広く伝えるべく、素晴らしいクリエイティブやコピーも作りました。そしてそのメッセージが「消費者が信頼しない怪しげなメディア」を通じて発信されていたとしたら直感的にも「いやいや、どんな良いメッセージもこんな(怪しい)メディアでは伝わる訳が無いし、伝わらなければ(当然)売れる訳もないじゃないか」と当たり前ですがそう思うんじゃないかなと思います。 勿論これは極端な例えではあります。ただ実際に「メディア 信頼性」とググれば多くの調査結果が発表されており、どの結果も大体は「メディアの信頼性は近年低下傾向である」という結論になっていると思います。

このように多くの広告費が「消費者に信頼されないメディア」に投資されるという、大体の広告主が好まないであろう環境に自然となってきています。このような中、いずれは従来型のリーチ&フリークエンシーだけに頼ったメディア投資計画が通用しなくなる事は直感的にも明らかで、私達広告投資プランナーは投資計画に新たな視点を加えこの課題を解消する必要があります。

正直、最初はその解消に向けた一つの要素として「メディアクレディビリティもあるかもね」くらいに考えていましたが、社内・社外での議論を続けていく中で「メディアクレディビリティは今のコミュニケーション設計において非常に重要な役割を持つ要素なのでは?」と考えるようになりました。 今日はそう考えるに至った流れを簡単にご紹介させて頂きます。

II. コミュニケーション戦略の変化

私達がメディアクレディビリティに注目したのは「信頼性が下がってるなら、ちょっとでも信頼性の高いメディア選定をした方が(多分投資効率が)良いよね」と考えた事がキッカケです。 しかし広告プランニング領域のイツメンである戦略プランナーやクリエイティブディレクター達と多くの議論を重ねる中で「(メディアクレディビリティは)思った以上に今のコミュニケーション設計上、有効な考え方かもしれない」と思うようになりました。それはコミュニケーション設計上の課題のいくつかを同時に解決可能な視点だったからです。

昨今、広告は単に告知するという役割を大きく超え、広告主の社会的意義を体現するツールへと変化しつつあります。 同時に消費者の情報に対する受容性(取捨選択)はより複雑化しており(参考 : スモールマス時代のメディアアプローチ)消費者とブランドを繋ぐ接点となるメディア投資戦略も「単にインプレッションが出ていれば = リーチが取れていればおk」という訳にはいかなくなっています。

Ⅲ. ブランディングの中心がアイデンティティからパーパスへ

●「ブランドアイデンティティ」を軸としたコミュニケーション設計におけるメディアの役割
私が広告を心から楽しいと思うようになった大きなキッカケは「デイヴィッド・オグルヴィ」の著書に出会った事でした。オグルヴィが生み出した考え方の一つが「ブランドイメージ」という概念でありそれが世に言う「ブランディング」の始まり(※)であったと言われています。
※諸説あるようですが、私はこの説を信じています(笑)

オグルヴィは1955年にブランドイメージについて下記のように語っています。

"Every advertisement is part of the long-term investment in the personality of the brand."
すべての広告は、ブランドの個性に対する長期的な投資の一部である。

"We hold that every advertisement must be considered as a contribution to the complex symbol, which is the brand image - as part of the long-term investment in the reputation of the brand."
すべての広告は、ブランドイメージという複合的なシンボルに対する貢献 として、つまりブランドの評判に対する長期的な投資の一部として考慮されなければ ならないと私達は考えている。

by David Ogilvy (1955) Text of talk given at the American Association of Advertising Agencies

ちなみにこれは、アメリカ広告代理店協会(4A’s)での講演の際の発言ですが、この講演全体の内容は広告主が中長期的に最も高い利益を上げ、十分なマーケットシェアを拡大する為の手法として好意的なブランドイメージを作る事を目的として広告投資を行うべき、という内容でした。戦略領域は門外漢なので誤りがあったらぜひ指摘して欲しいのですが、これ以降、エクイティ(ブランドが持つ資産を活用する手法)、アイデンティティやインテグリティ(差別化を軸とした手法)等、様々なブランディング手法が生まれましたが全ては「ブランディングしたら売れる=大きな利益を得る事が出来る」即ち「売る為のブランディング」でした。

そういった環境の中、当然の事ながらメディアの役割は「(ブランドの)アイデンティティやUSPを知ってもらう」事になります。即ち必要なリーチを十分な回数重ねる事で達成される認知形成を軸としたプランニングを行っていく事になります。

●「ブランドパーパス」を軸としたコミュニケーション設計におけるメディアの役割
この10年程、パーパスブランディングという手法がよく使われるようになりました。これも誤りがあったらバシバシ指摘頂きたいのですが、私が理解するパーパスブランディングは自社の社会的存在理由を因数分解し世の中に明示する事で、消費者が能動的に「ファンになりたくなる」価値をブランドに付与する手法だと理解しています。 従来の広告が「売る広告」だとしたら、パーパスブランディングは(消費者が)ファンになりたくなる、即ち「買う(買いたくなる)広告」であると言えます。
私はオグルヴィの名著「売る広告」にちなんで「買う広告」とよく言っていますが、厳密には「買いたくなる」が正しいニュアンスです。

広告投資プランニング(メディアプランニング)の観点から言うと、従来は「知ってもらう為にリーチを獲得する」事が主目的でしたが、パーパスブランディングにおいては「買いたくなるリーチを獲得する事」、即ち従来の単純接触・単純認知を超え一歩踏み込んだ「Effective = ファンになりたくなる(買いたくなる)リーチ」を獲得する事が目標となります。
この変化をまとめると下記のようになります。

●メディア別信頼度と購入意向の関係
ではこの「Effective = ファンになりたくなる(買いたくなる)」要素とは具体的にどういう事でしょうか?残念ながら一つの答えがある訳では無く、「めちゃあるだろうし、全メディアプランナーが日夜探し中」といった状況です。私達も同じくそれを常に模索していてます。模索する作業は即ち「どういった因子がEffectiveに繋がっているのか?」を探していく作業になります。

私達なりに模索し自主調査を繰り返していたところ「メディアへの信頼性はどうやら購入意向(買いたい)に関係しているようだ」という事が分かってきました。

そもそもメディアが発信する情報への信頼性が低下している現状、私達広告投資プランナーもより信頼性の高いメディア選定を行っていく事で、広告メッセージに対する信頼性を少しでも向上させていく事は今後重要な視点になってくると考えられます。そういった信頼性の観点は広告表示品質を向上させるだけでなく先日の「オンラインメディア購入意向度調査」の解説でもお伝えした通り、購入意向度にも繋がる事が分かっています。私達はメディアクレディビリティがEffectiveリーチを生み出す為の要素の一つである可能性が高いと考えています。

媒体別信頼度・購入意向度の関係【MF20-64】


Ⅳ. 【まとめ】実際のプランにおけるメディアクレディビリティの使い所

以上のように私達はメディアクレディビリティが「メディア信頼性の低下」、「Effectiveリーチの獲得」といった昨今の広告における複数の課題を同時に解決出来る重要な視点の一つだと考えています。更に今後も消費者の「メディアに対する不信感」が高まっていくとすれば、もしかしたら今よりもっと必要性は高まっていくかもしれません。勿論、キャンペーンの目的によっては従来からあるリーチ&FQでのアプローチも十分有効ですし、そもそも広告が「広く告知する」ツールである以上、メディアクレディビリティのみでプランニングを行う事は不可能です。いくら信頼性が高いといっても広くリーチ出来なければ広く告知出来ません。ただ従来の手法から一歩踏み込んだプランニングを行う必要がある時、こういった視点も必ず役に立つと思いますので、ぜひプランニングに悩まれた際は思い出してもらえると幸いです。

最後にメディアクレディビリティによって解決出来そうな広告投資戦略上の課題を再度まとめさせて頂きます。

メディアクレディビリティが解決出来そうな広告投資戦略上の課題

  • メディアクレディビリティは】ブランドパーパスを起点にコミュニケーション設計する場合、メディア戦略において考慮する必要があるEffectiveリーチを作る因子の一つである可能性が高い。

  • メディアクレディビリティは】消費者が広告に抱く「不信感」に対してメディア領域での直接的な解決策になるだけでなく、商品やサービスへの能動的な気持ち(買いたくなる)を誘う有効な広告体験を生み出せる可能性がある。

  • メディアクレディビリティによって】投資メディア選定の際、リーチコストだけで判断するのでは無く、よりKGI(売上等)に近い視点で選定可能になる。

このような視点が皆さんの広告投資プランニング(メディアプランニング)の幅を広げる一助になると幸いです。


執筆者 : 三宅規仁

株式会社VOSTOK NINE
VOSTOK NINEは2023年現在、国内で唯一(※)の「広告(6媒体)メディアプランニング」に特化した会社です。所属する全員が一定(目安10年以上)の経験を持ったメディアプランナーのみ、という一風変わった組織です。広告が社会にとってより役に立つ存在になる未来を目指し2022年1月にメディアプランナーである三宅と江口の2名で立ち上げました。メディアプランニングに関する知見はブラックボックスになりがちですが私達は” 可能な限り広く共有されるべきである “という「メディアプランニングの民主化」を掲げて活動しています。その為、これからも様々な考察や自主調査データをnoteで公開していきたいと思っています。詳細はこちら
※VOSTOK NINE調べ


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