スモールマス時代のメディアアプローチ
はじめて投稿した「広告投資プランニングの面白さ」を読んでいただいた方、誠にありがとうございます。
今回は「スモールマス時代のメディアアプローチ」といったテーマで、私たちのメディアへのアプローチの考え方を書いてみました。
I. スモールマスとは?
元々、花王の吉田勝彦氏が作った言葉で簡単に言うと、”今までのように多数を大きな枠組みで捉える考え方では無くターゲットをいくつかのクラスターに細分化して捉えていく”という考え方になります。完全に個人個人に合わせた(パーソナライズされた)商品開発とは異なり、マスとパーソナライズの丁度中間にあたるターゲットクラスター毎に細分化された商品群を開発していくという考え方です。 元々は商品開発手法のアイデアでしたが、この考え方は広告にも転用可能で実際に私達VOSTOK NINEの広告投資プランニングにおける一つの手法と活用していますのでご紹介させて頂きます。
II. 広告版スモールマスとは?
簡単に言うと、ターゲット像を可能な範囲で細分化して捉えていく考え方になります。限界まで細分化すると「個」をターゲットとするダイレクトマーケティングの世界になりますので、オカシな言葉になりますが可能な限り「広く」細分化していく事が広告版スモールマスとなります。 基本的には戦略レイヤーで行うターゲットクラスタリングと同じ考え方になりますが、我々が担当する広告投資プランニングは「ターゲットとの有効なタッチポイントを探る」事からスタートしますので戦略レイヤーで行うターゲットクラスタリングに加え「メディア接触傾向の違い」の視点を加えたクラスタリングを行っていく事が特徴です。イメージとしては下記のようになります。
広告メディアの特性上、期待する戦略クラスター”のみ”に広告接触を促す事は不可能なので、可能な限り小さな円 = 最小費用で戦略クラスターをカバー出来るようにします。場合によってはこの絵の戦略クラスターAのように、どうやってもPaid ADではカバー出来ないケースも出てきますのでその場合は戦略PRやSNSキャンペーン、プレイスメント広告、パブリシティの獲得等…Paid広告以外の手法を検討するか、潔くそこへのリーチは諦めるか、になります。
III. 広告版スモールマスが活用出来るケース
一回の情報(広告)接触に最低15秒はかかっていた時代から、デジタルの出現によりほんの0.5秒程度で情報接触出来てしまう時代になりました。同じ時間で30倍の情報に触れる事が当たり前の今、消費者の中で情報の取捨選択が無意識に行われるようになっており、結果として自分の興味が無いものにはほぼ振り向かない時代になっています。
仮に若いファミリー世代向けの冷蔵庫の広告を行う場合を考えてみます。ターゲットはMF1(既婚)としてみます。この時、単にリーチしたいだけならYoutubeとInstagramに大量投資すればターゲットの90%以上にリーチ可能ですし、TVCMを加えたら95%以上のリーチが獲得ます。 ただこのように"単にリーチ出来たから"といって思ったように認知や購買意向は上がらない事が多いのも現実です。その要因は複数あると思いますが、その中でも大きな要因の一つが「情報の取捨選択の中で捨てられてしまっている事が原因ではないか?」と我々は考えています。 可能な限り捨てられない情報になるにはどうしたらよいか…それを解決する手法の一つが広告版スモールマスだと考えています。
IV. 広告版スモールマスの具体的アプローチ
メディアクラスタリングを行う
広告版スモールマスは戦略クラスターに対して「メディア接触傾向の違い」を加えていくとお伝えしましたが、私たちの経験上メディア接触傾向に違いが生まれやすい主なポイントは下記となります。
◯ターゲットデモグラフィック
これは言わずもがな…かなと思います。性・年代、未既婚、個人年収…そういったものになります。当然メディア接触傾向に大きな違いが出てきますので、各戦略ターゲットの差を確認します。
◯ターゲット居住地
実は居住エリアはメディア接触傾向に差が出やすいポイントなので戦略クラスターを居住地別のメディア接触傾向で整理すると違いが見えてくると思います。都道府県などで見るとそれだけで最大×47のクラスターに細分化されてしまいますので、プランニングを行う現実的なラインとして7地区別に差を見ていくのが現実的でしょう。
◯ターゲットが影響されるタッチポイント
何かをするのに影響を受けるタッチポイント(商材別に多くの調査結果があると思いますが大体、”友人・知人からの口コミ”、”オンライン動画広告を見て”…といった項目で調査されていると思います)を戦略クラスター別に見ると差が見えてきます。
デジタルのみで広告展開を行う場合はこういったメディアクラスタリングを機械学習に任せるケースも多いと思いますが、この視点で見るとデジタルもチャネル別に結構差が出たりするため非常に興味深いです。
クラスタリングの粒度はターゲット規模や予算、キャンペーン戦略によって異なると思いますが、最終的に10クラスター以内に収まるようにするのが現実的かと思います。
メディアクラスターを整理する
メディアクラスターが完成したら、戦略クラスター(一般的にこれに基づいてクリエイティブが制作される)別にマトリックスを作成すれば広告展開イメージが整理されます。
V. 広告版スモールマスの良いところ
最後に私たちが日常的に「広告版スモールマスのアプローチをして良かったな」と思う事をお伝えしたいと思います。
チャネル毎に展開すべき広告素材(訴求内容)が明確になる
プランニング作業の初期に戦略別の展開メディアが整理出来るので、クリエイティブ開発への示唆が明確に提示できるようになります。広告代理店に所属していた際に、プランナーやクリエイティブディレクターから「メディアPOV(Point of view)を出して欲しい」というリクエストを受けていましたので、そういった環境にいる広告投資プランナーにとってはこのアプローチはとても便利だと思います。クラスタリングに接触態度や態度変容効果指標を加えている為、情報が捨てられ難い
これは仮説にはなってしまいますが、マスマーケティング手法を取るより、チャネル×戦略クラスター毎の態度変容効果に基づいて設計が成される為、統計データ上は「より捨てられにくい広告接触 = 少なからず広告費用対効果の高い広告展開」になると考えています。作業が簡単で、アウトプットが分かりやすい
国内にいるクロスメディアプランナー(私たちは広告投資プランナーと呼んでいます)はそこまで多くは存在しません。各代理店の広告投資プランナーは毎日大変な量の業務をこなしている事になりますから、大きな方向性を1時間もあれば整理可能なこの手法は便利なアプローチとなりえます。 また、上記の通り「マトリックス一枚絵で伝わる」分かりやすい整理が可能ですので、一先ずこの1枚の資料を社内メンバーへ展開して、プランニングの方向性を合意・議論することが可能になります。自分自身の整理になる
広告投資プランニングは、戦略やアイデアの意図を汲んでそれらが最善の手で世に出る手法を考える作業です。当然の事ながら全部を汲んでいくと膨大な変数がプランニングに入り込んできますので複雑怪奇な設計になりがちです。複雑過ぎる広告設計は実際に展開する際にミスやロス(無駄なDuplicationを産んでしまう)に繋がりやすく可能な限りプランニングのアプローチはシンプルにすべきだと考えています。広告版マイクロマスは「ちょっと複雑になりすぎてるなぁ」と思った時に立ち戻れる指針になるはずです。
「スモールマス時代のメディアアプローチ」について今回は執筆しましたが、いかがでしたでしょうか?また次回、別のテーマで執筆してみたいと思います。