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ドラフト回 大谷翔平を動かした日ハム奇跡のプレゼン

さて、本日は、ドラフト会議が明日に近づいてきたということで、ある球団のドラフト戦略に注目します。
それは日本ハムファイターズです。この放送ではここからは日ハムと略します。

このnoteはVoicyの過去の放送を文字に起こしたものです。

なぜ、大谷翔平選手は日ハム入団を決めたのかについて

日ハムですが、その年のナンバー1を選ぶというコンセプトのもと動いており、独自性は度々注目されます。その中でもここ10年で最もインパクトが大きかったものは、大谷翔平選手のドラフト1位指名と私は思います。

当時、大谷選手は、メジャー挑戦を表明していましたが、
・日ハムがドラフト1位で単独指名したこと
・そして交渉の末に、日ハムに入団
・投手とバッターの二刀流の挑戦を表明したこと

は、リスナーの皆さんも驚かれたのではないでしょうか?

決め手となったのは、入団交渉時のプレゼン資料にありました。

本日は、何故、このプレゼンが大谷選手の心を動かしたのかについて考えていきたいと思います。題して「大谷翔平選手の心を動かした日ハム奇跡のプレゼン」です。

ポイント1 何故、プレゼン資料を作ろうと考えたのか?

それでは、まずプレゼン資料に入る前に、簡単に大谷翔平選手の経歴についてです。
・高校2年生の時に、甲子園で投手最速タイ記録を出す等、早くから日本球団やメジャーリーグに注目されました。
・2013年にドラフト1位で日ハムに入団し、投手とバッターの二刀流として活躍
・2018年にエンゼルスに入団して、メジャー1年目から新人王を獲得するなど大活躍しています。

さて、冒頭でお伝えしたとおり、大谷選手は当時、メジャーへの挑戦を表明していたなかで、日ハムが攻めの姿勢でドラフト一位指名を行いました。

指名後の交渉にあたったのは、
・スカウトの大渕隆(おおぶちたかし)氏、
・山田正雄GM
・栗山監督 の3名でした。

当初から交渉は難航しますが、大谷翔平選手の視点にたって作成された日ハムのプレゼン資料を中心に根気よく交渉がなされました。そして、最終的には大谷選手の心を動かしました。

さて、ここからは、
・プレゼン資料を作るに至った経緯
・プレゼン資料の中身について
・プレゼン後の動きや細かいアフターフォローについて

それぞれ掘り下げていきます。

1)まず、プレゼン資料を作るに至った経緯です。

ここでは講談社が運営する「現代ビジネス」の記事を中心に抜粋します。
まず、日ハムの状況について。長年Bクラスを低迷していましたが、2004年に北海道に本拠地を移します。
そこから独自の評価制度を整えたり、強気の攻めのドラフト等をすることで、徐々に強豪になっていきました。

そんな中での、大谷翔平選手での指名でした。

唯一の望みは、9月18日にプロ志望届けを出してから、アメリカに行きたいと宣言するまでに時間を要して、結局ドラフト会議の4日前の10月21日まで、ずれこんだこと。

スカウトの大渕氏は「これはすんなりいっていないんじゃないか」と思ったそうです。

では、入団交渉に話は戻ります。
まず、交渉開始するにあたって何より大事にしたことは、「本人の気持ちを正しく理解する」というスタンスで臨んだようです。
「どうしてメジャー挑戦を希望しているか」の何故に注目してヒアリングを意識しました。

話を聞いていく中で見えてきたのは、単純に「メジャーでやりたいということではない」ということ。
この”単純に”というワードが大事です。

話をして見えてきたのが、大谷選手の希望は
・トップで活躍したい
・長く現役選手でいたい
・パイオニアになりたいということでした。

この3点から、「早くメジャーに行きたい」という願いに至ったと、大渕氏は理解しました。
であるので、この3つの希望への到達には、日本のプロ野球経由するという道のりもあるということです。

当時をこのように振り返っています。

その3つの希望に対して、具体的にどんな戦略で臨めばいいかを構築する。それが私の役割でした。会談の中では、大谷君のメジャーへの知識がそれほど深いものではないとも感じました。だから「資料を作ろう」と決めたんです。

また、大谷選手がきちんと人の話を聴くことができ、ご両親も頭の回転が良く、資料を渡せば必ず読んでくれるとも、思ったそうです。

このエピソードで、参考になるポイントは、まさにプレゼン前のヒアリング
・相手が求めているものはなにか、それを丁寧にヒアリングする、
・そこから、自分たちはどのように応えられるか、何を与えられるか
という視点です。

結構、前のめりになってしまうと、最初の段階から、「うちは〇〇が出来ます/うちはこんなにも環境が整っています」とか自社に出来ることをアピールしてしまいがちです。

この記事を見て、私も注意しないとなとハッとさせられました。

次のチャプターでは、プレゼン資料の中身について触れていきます。

ポイント2 大谷翔平選手の視点に立ったプレゼン資料の凄さとは?

さて、当チャプターでは、プレゼン資料の中身について考えていきたいと思います。ここでは、Gigazineというニュースサイトを中心に触れていきます。

まず、資料の表紙のタイトルについてですがこのようなタイトルでした。
「大谷翔平君 夢への道しるべ 〜日本スポーツにおける若年期海外進出の考察〜」

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このタイトルは結構秀逸だなーって思いました。
この言葉は分解すると
・"夢への道しるべ"というキーワードを出して相手の立場に降りつつも、
・その次に続く”日本スポーツにおける若年期海外進出の考察”で現状、現実もきちんと分析しています。

プレゼン資料は、26ページと別紙5ページにも及びました。
そして、このような4つの流れで構成されていました。

1.まず大谷選手の希望、夢の確認、それについての見解
2.そして、メジャーリーガーのトップに上り詰めるためのルート(日本球団か直接渡米か)についての考察
3.そして、実際のデータを元に考察をまとめたシート
4.最後に「まとめと日本ハムからの提案」
では、こちらについて少し内容を掘り下げていきますね。

1)まず大谷選手の希望、夢の確認、それについての見解についてです。
シートのタイトルは「大谷君の希望達成比較」

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このシートには、大谷翔平選手の希望の達成できるかの難易度が「日本のプロ野球」と「直接メジャー」の比較が表になってました。
そして、このシートで伝えたいメッセージはこちら

大谷投手の希望は「メジャーリーグトップの実力をつけたい」「トップで長く活躍したい」「パイオニアになりたい」の3つ。このうち、「パイオニアになりたい」を除くと、日本のプロ野球(NPB)から挑戦するのと、いきなりメジャーリーグへ行くのとは、どちらも「△」、いろいろ条件が付くことになります。

このシートの狙いは夢の確認をしつつ、日本球団、直接渡米ともに「△」をつけて、現実はどちらも甘くはないという事をまず、理解してもらうことです。


2)そして、メジャーリーガーのトップに上り詰めるためのルートの考察についてです。
シートのタイトルは「メジャーリーグトップまでの道のり」

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ここでは、「メジャーリーグでのトップに至るまでの道のりや育成環境」と「日本のプロ野球との比較」が図でまとめていました。そしてこのシートで伝えたいメッセージはこちら

メジャーリーグだとAAA、AA、A、ルーキーリーグと下部組織があり、デビューまで最速で3~5年かかります。また、競技レベルの差、ハングリー精神、身体能力など、いろいろな環境の違いもあります。
しかし、日本のプロ野球であれば環境の差は小さく、海外FA取得までにはだいたい9年。

ここでは、メジャーリーグの場合は、不利な環境に陥るリスクはあるが、日本球界の場合は、着実にステップアップできるということを伝えています。


3)そして、実際のデータを元に考察をまとめたシートについてです。
シートのタイトルは「日本人メジャー選手のキャリア一覧」

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ここでは、「日本人メジャーリーガーでのキャリア全般で言えること」 と「 別紙でそれぞれの選手の評価が書かれたもの」でした。
ここでの伝えたいメッセージはこちら

日本人メジャーリーガーで活躍している選手の多くは日本で多くの実績を挙げていた選手。今のところ、日本を経由せずに早期渡米しても、結果には結びついていません。

さて、4の結論のシートに入る前に1〜3の流れを復習すると、「大谷選手の希望を整理する」そして「それぞれの道のり」についての特徴やメリットデメリットに触れています。
また、これまでの日本人メジャーリーガーの実績というファクトについても触れており、大谷選手のこれからの野球人生を考える材料を与えていました。

4)最後に「まとめと日本ハムからの提案」。シートのタイトルはシンプルに結論。

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ここでは、結論が3点にまとめられていました。

・早期渡米と長期活躍は今のところ結びつきが確認できず、むしろ日本で実績をあげるなかで「野球技術の確立」「人としての自立を身につける」ことが「メジャー即戦力」「長期活躍の可能性」を高めている。
・若年期海外進出の効果は競技ごとに違う。日本野球においては、指導力を含む育成環境が世界トップレベルにあり、早くから海外進出する必要性に乏しい
・世界で戦うためには、身体能力を競うやり方ではなく、ストロングポイントとして日本人らしい技術や戦術を会得し、それを発揮することが賢明である。

以上がプレゼン内容の抜粋でした。

さて、前のチャプターでもお伝えしましたが、この資料はとことん相手の視点にたったプレゼンといえるのではないでしょうか?

「本人の希望を尊重しながら、夢を叶えるためのルートを考えてみました、そして最終的にうちの出した結論はこうです。」という姿勢が伝わります。

次のチャプターでは、このプレゼン後の日ハムの動きについてお話できればと思います。

ポイント3 プレゼン後のアフターフォローについて

さて、このチャプターでは、3回目の交渉であるプレゼン後のアフターフォローについて触れていこうと思います。

まず、最終的には、交渉は6回にも及びました。この回数は多いなという印象を私はうけました。それだけ丁寧に、大事に交渉を進めたんだと思います。では、プレゼン後〜大谷選手が入団を決めるまでの経緯について触れていきます。

・まず、3回目の交渉後
プレゼン時に資料は冊子として配りました。
これは家族で後でじっくり話し合ってもらう、対面の交渉だけではないという意図があります。
プレゼンだけの対面だと、伝えたいことが伝わりきらないので、じっくり考えてもらおうという意図がありました。


・プレゼン後の4回目の交渉は、山田GMとスカウトの大渕氏で臨みました。この回では、大谷選手の他に両親も同席しました。
育成プランの詳細も聴いてもらい、資料も読んでもらっているという感触はあったので、 山田GMは会話のすみずみで、「大丈夫ですよ」と声をかけ続けたようです。

これには、
・本人の意見を尊重するという事
・メジャーの宣言を翻意しても大丈夫です。うちの球団なら受け入れる土壌があるので安心してください

というメッセージも込められていました。
大渕さんは当時をこのように振り返っています。

最初に山田さんや栗山監督と確認した通り、「大谷君が自分で決断できるように」、あくまで大谷君の立場に立って考えることだけは貫こうと。やはり、本人にとっては人生の一大決心なわけですから、少しでも、彼を「騙すような」交渉にだけはしてはいけないと、細心の注意を払いました。

結局4度目の交渉では手応えをつかめなかったけど、両親からは「熱意が伝わり、息子のためだけに資料を作ってもらって感激した」と話してくれたようです。
少しずつ周りの風向きが変わってきました。


・5回目と、6回目の交渉には栗山監督の熱意にかけたようです。
大渕氏は当時をこのように振り返っています。

態度ははっきりとしない中でも、大谷君は交渉の席についてくれました。ならば我々も、「熱意」で応じようと。
5回目・6回目の交渉は、栗山監督の情熱に賭けた形になりましたね。
栗山監督は、「僕は高校3年間君のことを見てきた。今こうやってかかわれて、本当に喜んでいるんだ」と言ったんです。あの語り口で、「二刀流」の具体的なプランもどんどん出てくる。本人以上に真剣に「大谷君の将来」を考えているんだと、我々チーム全体の姿勢を、ストレートに大谷君にぶつけてくれました。私たちが止めても話し続ける人ですから(笑)。
山田GMも、「最後は自分で決めるんだぞ」と何度も語りかけてきました。

この、5回目、6回目の交渉でのポイントは、
「熱量」と「真剣度」です。ただ、ここまで行っても、ゴリ押しをしないで、最後は自分で決めると意見を尊重するという姿勢はぶらしませんでした。

そして、ついに大谷選手は「お世話になります」と言い、入団を決めました。

6回も交渉を進めながら、資料も作りながらも、焦らずに、大谷選手の野球人生、意見を尊重して待つというスタンス、この記事を読んで、”純粋に”凄いなって思いました。

また、おさらいにはなりますが、大谷翔平選手 及び ご家族の心を動かしたポイントは大きく3つあるかなと思いました。

1)大谷選手の目線に立って、提案したこと
これは、1回目と2回目の交渉時に、なぜメジャーに行きたいのかの確認をして、そこから3つの希望を導き出す、その道程について、非常に細かく考察していた。

2)クロージングをあえて行わず、本人の決断を待ち続けた
例えば山田GMを始め何度も語りかけるように「最後は自分で決めるんだぞ」という言葉や、ご両親に対しての「大丈夫ですよ」という言葉などです。

3)最後は熱量と真剣さです。
栗山監督の「僕は高校3年間君のことを見てきた。今こうやってかかわれて、本当に喜んでいるんだ」という言葉や「二刀流」の具体的なプランも出したりと、本人以上に大谷選手の将来を真剣に考えようとする姿勢などです。

このように、スカウト、現場、経営が三位一体となって、ONE TEAMで臨んだから大谷翔平選手の心を動かすことが出来たんだろうなと思います。

ちょっと、熱く語ってしまいましたが、次のチャプターでは、日常生活や仕事に活かせるTipsについて考えていきたいと思います。

学び "北風と太陽”と日ハムのプレゼンの共通点

さて、今回のTipsについてです。
放送内容をまとめながらTipsはどうしようかと考えていた時に、ある童話が思い浮かびました。

それは「北風と太陽」です。
北風と太陽はご存じの方も多いと思いますが、ざっくりのあらすじ。

ある時、北風と太陽が力比べをしようとします。そこで、旅人の上着を脱がせることができるか、という勝負をする。
まず、北風が力いっぱい吹いて上着を吹き飛ばそうとする。しかし寒さを嫌った旅人が上着をしっかり押さえてしまい、北風は旅人の服を脱がせることができなかった。
次に、太陽がさんさんと照りつけた。すると旅人は、今度は自分から上着を脱いでしまった。
これで、勝負は太陽の勝ちとなった。

日ハムのスタンスはこの「北風と太陽」でいうところの太陽かなと思いました。太陽のように、暖かく照らし、自分の意思でで決断してコートを脱いでもらう。

もちろんお互いが相思相愛であれば、条件面や環境面のアピールで契約に至ったのかもしれません。
ただ大谷選手のケースでは、日本のプロ野球への志望届けは出すが、本命はメジャーリーグでした。

であるので、北風のように「いきなり何が出来るかとか環境面とか条件面」とかのアピールではなく、大谷選手の気持ちに寄り添い、
・まず、何故メジャーを希望したのかを確認して
・一緒に夢をかなえるための道のりを整理する
・そして「大丈夫、最後にきめるのは自分だ」と後押しした事で、大谷選手の背中を押してあげる

ということ。
比喩にはなりすが、この「北風の太陽」の太陽というスタンスで、提案に臨むのが良いのかなと思いました。

なので、今日のTipsは「相手に寄り添おう。プレゼンは相手へのプレゼント」にしたいと思います。
ついつい、これを忘れると、自分たちの都合を優先してしまい、その方が楽なので、雛形にしたがって行動してしまいます。

プレゼンや相手への提案の本質を忘れてしまいそうになったときは、今回のTipsやこの「北風と太陽」の話とかを思い浮かべてもらえると嬉しいです。

最後に:いよいよ明日はドラフト会議

さて、本日の放送は、如何でしたでしょうか?
当初は、プレゼン資料だけに注目しようと思ったのですが、資料を作った理由とか、アフターフォロー等も素晴らしかったので取り上げました。

また、今回の放送は情報盛り沢山になってしまったので、放送で取り上げられなかったことあります。

Tipsで参考にしたのは、Voicyの人気パーソナリティである、荒木博行さんの書籍「藁を手に旅に出よう」での「北風は相手への憑依が足りない」という章などでした。
この書籍は、小説ではありますが、ビジネスパーソンに向けて作られており、童話を例に出しながら、働き方について触れられており、とても学びのある書籍でした。

また、今回はプレゼンの心構え等がメインでしたが、具体的な提案の考え方やまとめ方については、「スタートアップ営業ラジオ」なども参考になるかもしれません。

これらの話ももう少し、盛り込みたいなと思ったのですが、結果として放送時間が30分を超えてしまいそうなので割愛させて頂きました。
私がご紹介したこちらの二つも、お時間ある時ぜひ参考に頂けたらと思います。

さて、いよいよ、明日はドラフト会議ですね。
今年は、コロナの影響で、甲子園をはじめとした対外試合が組みにくい年ではありますが、どんな、ドラマが待っているか、楽しみにしたいと思います。

日ハムを初め、各球団がどんな選手を指名するのか、そしてその狙いも想像しながらみるのも、このドラフト会議の楽しみとは言えるのではないでしょうか。

このnoteはVoicyの過去の放送を文字に起こしたものです。
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