フォークとロック、その違いはドラムにあり!!

TBSラジオで毎週金曜日8時30分~午後1時まで放送の「金曜ボイスログ」
シンガーソングライターの臼井ミトンがパーソナリティを務める番組です。

このnote.では番組内の人気コーナー
「臼井ミトンのミュージックログ」の内容を書き起こし。
ちなみにyoutube版では動画も公開しているのでそちらも是非。

フォークとロック。その違いはドラムにあり!


これってフォークなの?ロックなの?

前回前々回、と小坂忠さんのお話をしました。
小坂忠さんしかり、「はっぴいえんど」しかり、70年代初頭の日本語ロック黎明期に関する話をしてその頃の音楽をかけますと、これは果たしてロックと言うのか?フォークじゃないのか??というコメントを必ずと言って良いほど頂くんですね。

僕は、はっぴいえんどであったり、70年代の小坂忠さんの諸作品は、
フォークではなくてロックミュージックだと思っています。

それは何故か?まぁ、音楽においてジャンルの線引きをするっていう行為
自体がそもそも不毛である。ということはもちろん大前提としつつも、
そもそもじゃあフォークミュージックってなんなのか?ロックとの違いはどこにあるのか?という部分をせっかく小坂忠さんを忍んだ流れでお話ししたいと思います。

そもそもフォークとは?

ファッションの世界でフォークロアなんて言葉使いませんか?
ちょっと民族衣装っぽいテイストが入っているお洋服とかスタイルのことをそういう名前で呼んだりしますよね。

フォークっていうのは、英単語の意味としては「民族」とか「民謡」とか、そういう意味を持つ単語なんですね。で、〝Lore〟っていうのは英語の接尾語で〝Learn〟教えとか伝承、というような意味になりますから、「Folklore」っていうのはつまり「民族に古くから伝わる〜」とか
「民間伝承の〜」っていう意味になるんです。

というわけで音楽の世界でもフォークと言うのは、そもそもは、世界各地で民衆の間に伝わる音楽のことなんです。音楽を録音して記録に残せるようになったのはこの100年の話ですから、そうやって記録されるようになる以前から口伝えで各地で伝わって来た民俗音楽・伝承音楽のことを
「フォークミュージック」や「フォークロアミュージック」と言うんです。

〝音楽ジャンル〟としてのフォークは…

音楽のジャンル分けが生まれたのは、そもそもはラジオとかレコード産業が勃興しまして音楽を商品として区別しないといけなくなったからですよね。レコード産業の中心地はアメリカですから、いつの間にかフォークミュージックというのはアメリカ合衆国に昔から伝わる民謡、民俗音楽のことを指すようになりました。だから、アフリカとかアジアとかのアメリカ以外に伝わる民俗音楽は「ワールドミュージック」なんていう別の名前がつけられて、区別されるようになったんですね。

というわけでフォークの音楽的な定義は、
アメリカ合衆国に古くから伝わる民俗音楽のこと」に変化します。
ただ、古くから伝わるといってもアメリカ自体がわりと新しい国ですから、そのほとんどはアイルランドやスコットランドの移民がもたらした音楽が
ベースになっています。
アメリカでつらい肉体労働に駆り出されたのはアフリカ系の人々だけではなくて、アイルランド・スコットランド系、その他、あとからやって来た移民達は新大陸で皆本当に大変な思いをしました。
そんな中で肉体労働をしながら歌う、あるいは仕事後に酒場で歌う、ヨーロッパ系移民の人々にとってのフォークミュージックっていうのは、アフリカ系の人々にとってのブルースにあたる魂の音楽なんですね。

使う楽器は主にアコースティックギターとバイオリンとバンジョーとウッドベース、あとはハーモニカやアコーディオンが使われることもあります。
ちなみにドラムセットが誕生して普及していったのは1930年代くらいのことですから、伝統的なフォークミュージックではドラムは使いません。

ラジオ・レコード産業の勃興でフォークはポピュラー音楽に

このフォークミュージック。もともとは民俗音楽なので、もちろん古くから伝わる伝承歌を歌うわけなんですが、ラジオ放送が始まりレコード産業が
勃興しますと、この伝承歌のスタイルにオリジナルの自分の言葉を乗せて
歌う人が登場します。というか、もともとみんな好き勝手に歌詞をアレンジして歌うみたいな文化は当然あったと思うんですが、レコードやラジオというメディアの出現により言葉を乗せるセンスがめちゃある人っていうのが
可視化される世の中になったわけです。

そうやって第二次世界大戦前後に脚光を浴びたのが、Woody Guthrieとか、Pete Seegerといった人たちなんです。文学的な言い回しで言葉をメロディに乗せる達人が現れたわけですね。
というわけで20世紀にレコード産業が成立して以降のフォークミュージックの定義は、アメリカ合衆国に古くから伝わる民俗音楽をベースにしたポピュラー音楽、というものにさらに変わっていきます。

戦後フォークミュージックは赤狩りの対象になったりして一時期ちょっと
下火にはなるんですが、1960年代に差し掛かる頃になると、アメリカもどんどん豊かになって若者たちの間でこういった古い民族音楽文化のリバイバルが起こります。
Bob Dylanとか、Peter, Paul & Maryとか、フォークの世界でのスターが沢山誕生し、またシーンが盛り上がるんです。しかも、このフォークっていうのは民衆による民衆のための音楽というルーツからしてプロテスト性が強く、公民権運動だったり、ベトナム反戦運動とも結びついて若者の間に広まっていくんですね。この時期アフリカ系の若者の間でソウルミュージックが流行ったように、白人の若者の間で流行ったのがフォークミュージックだったわけです。

THE BEATLESの登場とフォークが受けた影響

ただ、この1960年代以降のフォークミュージックは、
それまでのフォークミュージックと決定的に異なる点があります。
それは「THE BEATLES」の存在です。

THE BEATLESと言いましたが言い換えればつまりロックミュージックです。1960年代以降っていうのはロックの時代ですから、フォークも例外なく
ロックの影響を受けることになります。

ロックの影響って何かって言ったら、一言で言うなら楽器です。
ロックは新しい音楽ですから20世紀に入ってから生まれた楽器であるドラムセットだったり、エレキ楽器を使って演奏するんですね。

それに対してフォークはあくまでも伝統民族音楽ですから、近代的な楽器であるドラムはおろか、エレキギターを使うなんてことは保守的なフォークミュージックのファンからすれば言語道断だったわけですよ。
だから当時はジャンルとしてはそれはそれは明確な線引きがあったんです。エレキとドラム使ったらもうその時点でそれはフォークじゃない、と。

エレキを持ってフォーク。Bob Dylanの存在

そんな古式ゆかしいフォークミュージックの文化に風穴を開けたのが、
Bob Dylanであります。1965年のニューポート・フォーク・フェスティバルというフォーク音楽の祭典で彼はエレキを持って、ロックバンドを伴って
出演してフォークを聴きに来た観客から大バッシングを受けます。

それでもバッシングにめげずエレキギターとドラムセットを使い、つまり
普通のロックバンドのフォーマットで作品を次々にリリースします。
それらが大ヒットすると、じゃあロックバンドの編成でやるフォークは仕方ないからフォークロックって別の名前で呼ぶことにするか。
なんて流れになるんですね。

フォークは新しい大衆音楽であるロックの要素を吸収しますし、ロックは
ロックでフォークの伝統である文学的に世相を切り取る歌詞という要素を
吸収しまして両者の線引きが非常に曖昧になっていったわけです。

お客さん側としても「あ〜なんかアコギじゃかじゃかとかき鳴らして、ちょっと反体制っぽいメッセージソング歌ってるとフォークなのかな?」なんていうくらいの認識になってくるわけですね。

では、フォークとロックの明確な違いは?

なのでフォークミュージックの成立の背景を知った上でロックとフォークを明確に分けるものを一つ挙げろ!と言われれば、それはやっぱりドラムで刻まれるエイトビートなんですよ。ロックはルーツがダンスミュージックですから、ドラムによって刻まれるビートが非常に重要な要素なんです。
特に2拍目と4拍目をスネアで強調するリズムパターンですね。
そこが伝統的なフォークミュージックとは一番違うところ。

小坂忠さんや「はっぴいえんど」界隈の音楽が、アコースティックギターが主役になっていることが多いもので、そういう特徴でもってこれはロックじゃなくてフォークだと言われることも非常に多いんですが、彼らは明らかにドラムのエイトビートというものを軸に音楽を作り、メロディを作っていました。そう言う点で、やっぱりフォークではないんですよ。

彼らは単に、Bob Dylan以降の、つまりフォークとロックが混ざり合って
以降の当時の最新のアメリカンロックを追いかけたもんですから、結果的に当時のトレンド的にフォークの要素を含むことになった。というだけの話なんです。

逆に言うと、かぐや姫の「神田川」も、吉田拓郎の「結婚しようよ」も、
ドラムセットでエイトビート刻もうと思えばいくらでもやれるのに、
フォークらしさを強調するために恐らく意図的にそういうことをしなかったんですね。ドラム入れたとしても軽くキックを踏むくらい。
つまり逆に言えばフォークをフォークたらしめるのは、ドラムセットで
8ビートを、バックビートを刻まないことにあるんです。

今日は、バンジョーとかアコギとか、そういう要素に惑わされずに、そこにロックドラムが鳴り響いているか?という点に注目して小坂忠さんの1972年のライヴ音源をお聴きいただきましょう。
小坂忠さんのファーストアルバムが「これはロックじゃなくてフォークだ」と評論家に書かれたことに対する自虐で、四畳半フォークの四畳半を一部、英語にモジって「フォージョーハーフ」と名付けた伝説のバンドを率いての演奏です。
ドラム林立夫、バンジョー松任谷正隆、ペダルスティール駒沢結城。
70年代の彼らの音楽をロックたらしめる、ドラムのエイトビートにご注目。

小坂忠とフォージョーハーフで、「ありがとう」
※サブスクにはないのでこちらから雰囲気だけでも

ちなみに、吉田拓郎「結婚しようよ」も、ほぼ同じメンバーでバンジョーが松任谷正隆、ドラムが林立夫なんですが、林立夫さんはハイハットもスネアも叩いていない、曲を通してキックを軽く踏んでいるだけなんですね。
間違いなく吉田拓朗さんは敢えてそうさせたんだと思います。
聴き比べると面白いので、是非そちらはフォークのスタイルの代表例として聞いていただきたいです。

youtube版では動画で同様の内容をご覧いただけます。

金曜ボイスログは毎週金曜日8時30分~午後1時にて放送。
AM954/FM90.5/radikoから是非お聞きください。