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CI技術(コンセンサス・インテリジェンス技術)とは何か

今回は、CI技術(コンセンサス・インテリジェンス技術)が既存の意思決定をアップデートする仕組みについて、データサイエンスチームより紹介させていただきます。

本記事のサマリ
・CI技術は、最善の意思決定をする上で、単独者・多数決のトレードオフを解消する技術
・CIアルゴリズムは、投票結果から投票者の目利き力を数学的に算出し、投票に重み付けを行うことで、最善の選択肢を選ぶ精度を高めるアルゴリズム
・投票シミュレーションにより、CIアルゴリズムが
最善の選択肢を選ぶ仕組みを解説した

単独者・多数決の意思決定におけるトレードオフとCI技術

一般的に、世の中の意思決定には、単独者によるものと、合議(多数決)によるものとが存在します。前者はワンマン創業者による経営判断などがイメージされ、他方、後者のケースとしては、ビジネスコンテストにおいて複数人による投票で最優秀エントリーを決める場合などをあげることができます。

こうした意思決定は、原始より人間社会の至るところで行われてきましたが、その手法の主流は非常に単純な方法=多数決方式からアップデートされることはありませんでした。しかし『決め方の経済学』において、一人一票の多数決は必ずしも投票者の総意を反映しないという問題があげられているように、これらの旧来的な方法は必ずしも最善の意思決定を導きません。

ここで話を簡単にするため、単独者の意思決定と多数決による意思決定を比較し、最善の意思決定をする上でどのような利点、欠点があるかを整理してみます。

単独者による意思決定
・意思決定者が十分な判断能力が備わっている場合、最善の意思決定ができる可能性が高い
・意思決定者が判断をするに十分な材料を持ち得ていない場合、判断能力が十分でなかった場合など、意思決定者に依存した失敗リスクを孕んでいる
多数決による意思決定
・集合知によって、投票者ひとりひとりの判断より良い意思決定ができる確率が高まる
・投票者の中で判断能力に高低があったとき、その意思決定は平均的な能力値に収束される

将棋を例として考えてみると、トッププロ棋士でさえ常に最善手を選べるとは限らず、ときに悪手を指してしまうことがあります。何名かの棋士が集まって多数決をすれば最善手を選ぶ確率は上がりますが、投票者を増やしすぎて、例えば一般アマチュアまで一人一票で投票に参加すると、総意として凡庸な選択肢が選ばれてしまうことは容易に想像されることでしょう。極端な場合、多数決において判断能力(目利き力)のない投票者の参加割合が増えると、無作為(サイコロ振りと同じ)の意思決定に近づいていってしまうのです

そして、将棋の例であれば棋力(段位など)を基準に、あらかじめ判断力の確からしさを推し測ることができますが、一般的な合議においては、誰がその議題について高い判断力を持っているか、誰がそうでないかは事前に分からない場合がほとんどです。あなたの会社の経営課題について議論するとき、誰が真に高い判断力を(表面的にではなく実際に)有していて、誰が実は自信がないと感じているのかを数値化することが難しい、というシチュエーションは想像に難くありません。

このように、属人化による失敗リスク(=単独者)と集合知による判断力の平均化(=多数決)はトレードオフの関係にありますが、CI(コンセンサス・インテリジェンス ※1)とは、数学的なアプローチによってこのトレードオフを解消する技術と位置づけられます。

言い換えると、CIは投票結果から投票者の目利き力を数学的に算出し、その目利き力の高低に応じて投票に重み付けを行うことで、最善の選択肢を見つけることをアルゴリズム的に確度を高めているものだと捉えることができます。

多数決 v.s. CIアルゴリズム: シミュレーション検証

投票結果から投票者の目利き力を推定し、最善の選択肢を算出する問題は、鶏と卵の関係にあります。つまり

・真に最善の選択肢は、投票者の目利き力の重みが分かることによって決めることができる
・投票者の目利き力の重みは、選択肢の真の良し悪しが分かることによって求めることができる

という依存関係を同時に解決しなければならないのです。一見するとこれらの両立は不可能のように見えますが、CIアルゴリズムでは、機械学習や音声認識で用いられる反復法アルゴリズムをこの問題に適用し、数学的に最適解を導いています(※2)。

ここでは簡単なシミュレーションにより、その効果を検証してみたいと思います。

投票シュミレーションの設定
・投票対象:選択肢A〜Eの5択
   真の価値の序列が存在する:A(良)〜E(悪)
   ただし真の価値は実験中は明らかにされない
・投票者:計10名
   Wise:選択肢の序列を高い確率で当てる目利き
   Random:ランダムにポイントを割り振る人
・投票方法
   投票者はA〜Eに対して、1〜5ポイントを1つずつ割り振る
   多数決(Majority Vote, MV)では、ポイントの総和が最も高かった選択肢を選出
   正解率(選択肢Aを選出できた確率)を計測
・シミュレーション
   独立した(=毎回投票対象、投票者をシャッフルした)1000回の投票

まず、ここまで注釈なく書いてきた「最善の意思決定」について定義します。現実の投票においては、どの投票対象が最善かあらかじめ分かっている場合はありませんが、シミュレーションでは投票対象A〜Eの真の価値を仮定することができます。その真の価値は順にAが一番高く、Eが一番低いものとします。したがって、投票結果から、総意として投票対象Aを選ぶことができれば、最善の意思決定が行えたと定義することができます。

投票者は計10名とします。投票者は投票対象A〜Eの真の価値を知ることはありませんが、高い確率でその高低を推測できる投票者(ここでWiseと呼びます)と、ランダムに投票を行う投票者(同様にRandomと呼びます)がいるものとします。投票は10名が投票対象A〜Eに対して1〜5点をひとつずつ割り振ることによって行います(この投票法は一般にボルダ方式と呼ばれています)。

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ただし、実験中はどの投票対象が価値が高い・低いのか、どの投票者がWise・Randomなのかは伏せられています。10名の投票結果のみを用いて、どの投票対象が最も価値が高いかをより多く当てることが目標です。

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この実験について独立した1000回のシミュレーション投票を行い、多数決とCIアルゴリズムのそれぞれのロジックで、1000回中、何回の投票において投票対象をAと当てられたかの確率(=意思決定の精度)を算出しました。まず前提条件としてWise、Random一人だけの単独投票を見てみると、Aに5点を割り振れた確率はそれぞれ、約80%、約20%になります。5つの選択肢から完全にランダムにAをピックアップできる確率は20%なので、Randomはそれと等しい確率でAを選ぶことができ、Wiseはかなりの高確率でAを選ぶことのできる人物となっていることが分かります。

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次に、10人の投票結果の総和を計算する多数決方式(Majority Vote, MV)によってAが最高得点となる確率を見てみます。このとき、投票者10人全員がWiseと仮定した場合、100%に近い確率でAを選ぶことができました。これは集合知によってWise単独の判断より確からしい意思決定ができたことを示しています。しかし、投票者の中にRandomが含まれる割合が増加するとその確率は低下していき、投票者全員がRandomであった場合、総意としてAを選べる確率は約20%へと下がりました。これは、RandomがWiseと同等に持つ一人一票が、最善の意思決定をする上でのノイズとなっていることを示唆しています。

一方で、CIアルゴリズムを採用すると、WiseとRandomの投票者の割合が50%同士の場合においても、最善の意思決定確率が100%近く維持されていることが分かりました。同じ条件で、多数決での最善意思決定確率が75%を下回っていることと比較すると、その差は明らかです。これは、CIアルゴリズムが投票結果を分析し、投票者の目利き力を推定することで、それぞれの投票に対して適切な重み付けを行ったことを示しています。

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最後に、CIの挙動を確認するため、具体的な投票結果の例を見てみます。上の1000回のシミュレーションの中から、1回の投票をピックアップしました。図の例では、Wiseが4名、Randomが6名いる場合ですが、目利き力の低いRandomが数多く投票に参加したことにより、多数決最多得点(35点)は最善の選択肢ではないB, Cによって獲得されてしまいました。

一方で、CIアルゴリズムを用いると、投票結果のみから投票者の目利き力(CI目利き力)を計算することができます。アルゴリズムはどの投票者がWiseでどの投票者がRandomか、どの投票対象が真に価値が高いか低いか、を事前に知り得ることなく計算を行いますが、結果として出てきた目利き力をみると、Wiseの目利き力を高く、Randomの目利き力を低く見積もれていることが分かります(※3)。そして、この目利き力をによる重み付けを行って投票対象のスコアを推定(CIスコア)することによって、最善の選択肢Aが最高スコア(61.3点)を獲得することができました。このように、CIアルゴリズムを採用することで、多数決では選べなかった最善の選択肢を算出できる場合があることが分かります。

テクノロジーによる意思決定の精緻・加速化

以上のようなシミュレーションにより、CI技術による目利き力の重み付けによって、最善の意思決定ができる確率が高まる仕組みを示すことができました。説明のため、本シミュレーションは非常にシンプルな条件を仮定して行いましたが、目利き力が連続的に分布する現実問題においても、CIアルゴリズムは同様のロジックによってCI目利き力とCIスコアを算出することができます。

このようなCI技術によって意思決定の精度を上げたり、アイデア発想力・評価力をスコアリングする仕組みは、近年、政府による補助金審査で利用されたり、優秀な学生を選抜する新卒採用のプロセスに組み込まれるなど、現代社会における意思決定をアップデートしつつあります。

我々の文明社会は日々、無数の意思決定の連続によって成り立っています。VISITS Technologiesでは、CI技術を含め、世の中のイノベーションを創発するテクノロジーを研究・開発する仲間を募集しています。採用CI技術の適用に関して関心のある方はお気軽にご連絡ください。

(執筆者:データサイエンスチーム 村尾一真)

※1 株式会社VISITS Technologiesが開発、特許取得するアルゴリズム
※2 アルゴリズムの数式的な部分は企業秘密ですが、CI技術の全体は特許6249466特許6681485として公開しています。ご覧ください
※3 Randomの目利き力に高低があるように見えるのは、1回の投票結果においては偶然正しい序列に近い評価をしていた場合があるため。精度評価においては1000回のシミュレーションによってこのような偶然性を相殺し、確率的にCIアルゴリズムのほうが多数決方式よりも最善の投票候補Aを選べる可能性が高いことを示している

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