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イラストレーション・漫画の二軸で表現の幅を広げる-イラストレーター小鈴キリカ-

日本を拠点にイラストレーターとして今年で5年目を迎える小鈴キリカ。昭和レトロな雰囲気を纏いPOPで愛らしいイラストレーションが特徴的で、ここ最近ではアジア圏からのファンも増え続けている今注目のイラストレーターです。
去年あたりから新たな試みとしてオリジナル漫画を描き始め、普段描いているイラストレーションもタッチを大幅に改良するなど、新境地を開拓し続ける彼女に、改めてこれまで歩んできた道のりや、自身の活動の向き合い方について掘り下げて語っていただきました。


-漫画が好きだった幼少期、イラストレーターを目指すようになったきっかけ

小鈴さんのイラストは気持ちのいい躍動感があり、伸びやかで軽やかな線が魅力的だなと感じますが、元々絵はどこかで習われていたのでしょうか?

絵に関してはどこかで習ったわけではなく、独学で描いていました。子どもの時から絵を描くのが好きで、幼い頃は漫画家になるのが夢だったので、イラストというよりは漫画をよく描いていましたね。小学生の頃は近所の幼なじみたちとオリジナルの漫画雑誌を作ったりしていて、1つのキャラクターを設定して、そのキャラクターを使用してそれぞれが違うストーリーの話を描くみたいなことをしていました。漫画だと基本線で表現していくので、現在の線画のタッチはその感じが残っているような感じです。
一番最初に読んだ漫画が「ちびまる子ちゃん」だったんですけど、作者のさくらももこさん自身が高校生の時に投稿し始めて漫画家になったというエピソードにすごい憧れて。 この話に結構影響を受けていると思います。

原点はさくらももこさんの書籍・漫画

幼少期から漫画を描き続けられていたと思いますが、イラストレーターを目指すようになったきっかけはありますか?

イラストレーターを目指そうかなと思い始めたのは社会人1年目の時でした。ちょうど友人がブログをやり始めて、そのブログ内で私が好きな音楽をイメージした絵を載せるコーナーを作るのはどうかな?という話になり、それから週に1枚、自分の好きな音楽をイメージしたイラストを掲載していきました。その時「自分の絵って需要あるんだ、載せたいと思ってくれる人いるんだな」と思って。自主制作で自分でSNSに上げるのではなく、他の方のプロジェクトで絵を描いて使ってもらえることが結構面白く思えて、イラストレーターで稼ぐことができるのかなと思えたのがきっかけです。

-イラストレーターになるまで

大学で学ばれていたことや、イラストレーターになる前のお仕事について聞かせてください。

大学では最初グラフィックデザイン科を専攻していたのですが、絵を描くというよりかは、主にデザインしたものに対して、なぜこのデザインにしたのかをプレゼンテーションをしたり、論理的な説明を行うことの方が多く、どちらかというと絵を描くことの方が好きだったので、途中から絵の勉強ができる版画に移りました。
大学卒業後は一旦新卒で全然クリエイティブと関係ない会社に就職しました。白アリ防除など行っている害虫防除の会社で。営業事務を行っていたのですが、イラレやフォトショップを使えるということで、社内でポスターや社内向けの掲示物を作ってほしいと言われることがあって、デザイン周りを任されることもありましたね。当時はイラストを毎日SNSに投稿しようみたいなことをやっていて、会社帰りに家に直接帰らずバーミヤンとかで夕食を食べながらイラストを描いて帰るとか、休日もカフェへ行って投稿用のイラストを描いたり。そういった自己発信を頑張っていた時期で、少しずつフォロワーも増えてきたりして、認知度が少しずつ広がってきて楽しいなぐらいの時期でしたね。

小鈴さんといえば"はんてん姿" 冬のマストアイテム。

会社に勤務しながらも、イラストレーターの夢は追っていたんですね。

転職を考えつつもどういったところに転職すれば良いかわからず、でもとりあえずイラストは描き続けていました。そういった活動をしていたら佐伯ポインティさんから連載ページバナーのイラストのお仕事をいただいて、担当させていただくことになりました。週1のペースでバナーイラストを描く仕事だったのですが、そのお仕事を通して今後もしかしたらイラストレーターとして行けるかもしれない、と思ったんです。
そんな時に出会ったのが、ヒロ杉山さんとvision trackさんとで開催されていたイラストレーター向けのスクール「WHITE」でした。受講生募集の記事をTwitterで見つけて、有名な方に指導してもらえるんだと思って、ダメ元で応募してみたら受かることができて驚きました。受講生の中にはすでに知っているイラストレーターさんもいたり、自分よりキャリアが長い方もたくさんいて。自分が一番キャリアも短かったので、だから逆に気楽でしたね。下手くそで評価されなくてもそんなに落ち込まねえや、とか思って笑 気楽に通えたのはよかったなと思っています。

WHITEで授業を受けている当時の様子

「WHITE」を受けて為になったこと、学べて良かったことはありますか?

もうめっちゃありますよ(笑) 最近その時のノート見返していて、すごい為になるじゃんって。スクールのテーマが「売れるイラストレーターになろう」というテーマだったかと思うのですが、その現実的なテーマがやっぱり良かったなと思いますね。大学でも絵は習っていたけど、売れるかどうかより良い作品作れるかどうかの方が主眼を置かれてて、売れるためにどう動くのかは教えてもらえなかったので。「WHITE」ではそっちに主眼を置いて教えてもらえたので、とても身になりました。講師の方が、”イラストレーションっていうのは憧れのライフスタイルを描けたら一番良くて、あとは基本的には人物が描けるのは強いですね”と話されていたのは印象に残っていますね。

WHITEの卒業合同展示会用に制作した作品

-「WHITE」受講後の2019年9月には、転職もされたんですよね。

はい、経済メディア・NewsPicksにグラフィックデザイナーとして入社しました。現在も働いています。主にWebコンテンツのバナーや図版のデザインを手掛けていて、イラストを描くこともあります。会社の人たちは、私の強みとして「絵が描ける」ということをすごく尊重・応援してくれていて、本当にありがたいなと思いながら日々楽しく働かせてもらってます!

-70〜80年代の昭和漫画に影響を受けて

小鈴さんのイラストを初めて拝見した時に昭和レトロな印象を受けました。ポップで懐かしさを感じるイラストはどうやって生まれたのですか?

自分では意識してレトロに描こうとは思ってなくて、自然とそうなっていった感じです。ジブリや手塚治虫、鳥山明など70〜80年代の漫画を昔からよく見ていて、デフォルメ加減のバランスが好きで、洗練されてるんですよね。藤子不二雄や石ノ森章太郎など、昭和の少年向け漫画のキャラクターは、骨格よりその動きや線の伸びやかさを重視して描かれていることが多いんです。手塚治虫の本にも”人間なんかゴムでできてると思えばいいんだ”とか書いてあって。骨格を重視したら絶対左右で足の長さは違うけど躍動感を感じるようなデフォルメになったりするんですよね。「骨格よりも動き重視なんだ」っていう思想が結構好きで。そういった思想を大事にしながらイラストを描いていることが多いですね。
あと割と平面的な表現が好きで、平面な表現でいかに楽しい画面を作るかという点も意識しています。アニメの影響もあるんですけど、立体感や質感はあえて少し排除しつつ、少しグラフィック的な要素を取り入れたり、常に面白い表現を探しています。

お部屋は昭和カルチャーのインテリアがたくさん

普段使用されているのはパソコンで描かれていると思いますが、使用されるツールは何を使われていますか?

基本iPadでのProcreateというアプリで描いていて、最後の調整はパソコンに移しPhotoshopで調整しています。

-アップデートする意識を止めない、自分の”好き”と向き合い逆向を乗り越える

イラストの線の太さや表現力が以前よりだいぶアップデートされている印象ですが、自然と変化されていったのか、それとも意識的にされているのでしょうか?

飽き性ということもあるのですが、こうした方がいいんじゃないかなって思いついたらすぐイラストに反映させて、都度改良しています。今年の初めくらいに割と大幅な改修を加えたのですが、その頃はアップデートしないとまずいかなという焦りもあり、手を加えていきました。コロナ禍ぐらいが結構停滞期の時期で、自主制作やイラストのアップデートも中々出来ずにおり、このままの状態ではもう一段上にステップアップはできないなと感じたんです。それから自主制作を小まめにやるようにしようと意識を変えていきました。
その意識替えの1つとして、2022年に漫画を描き始めて。その時、やっぱり漫画を描くのが好きなんだなということを改めて思い出したんです。今まではイラストレーションに漫画の表現を取り入れるのは良くないのでは、と勝手に思っていて、その思い込みから今まで伸び伸びと表現できてなかったことに気づいて。イラストレーションにも漫画の要素を入れてみたら自分も描いていて楽しくて、その方が魅力的に見えるんじゃないかと思うようになりました。

線の太さやデフォルメの加減を研究・調整を繰り返し、現在のタッチ(一番右)に至る

自分が興味があるものや、描きたいものを思い切り描くことは原動力につながりますし、自分起点で動く時間を作ることでポジティブな空気感が生まれますよね。その頃の小鈴さんとお話した時に前向きな熱気を感じたのを覚えています。自分の”好き”が、思い悩んでいた壁を突破できるきっかけに繋がりますね。

2019年あたりにイラストレーターとしての道が開いてターニングポイントではあったのですが、自分の中ではそれ以来の大きな転機となった年だなと感じています。

-趣味で描き始めた漫画が実際のお仕事に

SNSで連載されてる「ばんたら」ですが、読めば読むほど小鈴さんの作り上げた物語の中に没入していく感覚があって毎回楽しく拝見しています。漫画を描かれるのはかなり久々かと思うのですが、ブランクを感じさせない画力と物語・キャラクター設定で見るたびに驚いています。

「ばんたら」は本当にただ自分が描きたいことを描くという趣味の領域で始めました。バズることや受けを意識せずに自分がただ描きたいものを描いた漫画って、どのくらいの人に面白いと思ってもらえるのか気になったりして。初めの頃は見てくれる人も少なかったですが、でもいるんですよね。”面白いです。楽しみにしてます。”と言ってくれる人が少数ですけどいてくれて、やってみて良かったなと思っています。
漫画の内容は自分が描きたいストーリー・キャラクターを重視するようにしつつ、できるだけクオリティ高く描こうと意識はしていて、わかりやすいようにとか、見やすいようにっていう工夫・努力は怠らないようにしています。「ばんたら」プロジェクトは、これまでやってきたイラスト活動とはあくまで”別ブランド”という位置付けで取り組んでいるものなので、画風も乖離が激しいのですが(笑)、「ばんたら」を描く中で得られる気づきが、イラスト活動にも良い影響をもたらしてくれることはとても多いです。

オリジナル漫画「ばんたら」

オリジナル漫画はこちら https://www.instagram.com/kirika_manga/?hl=ja

今までは趣味で描かれていたと思いますが、最近IPSAさんとのお仕事で漫画制作のご依頼がありましたね。初めての漫画のお仕事はどうでしたか?

すごい楽しくて。ストーリーやセリフは先方さんの方で考えていただいて、頂いた内容に従って構図を考えて描かせていただきましたが、時折自分の意見やアイディアも先方さんにお伝えしながら形にしていきました。例えば“このセリフの流れだと違和感あるから、こういった流れの方が良いかもしれない”といった感じで、こちらの意見も採用していただけたりして、自分の創造性を発揮することが出来たのもとても新鮮で楽しかったです。
漫画は趣味の範囲で始めたことだったので、描き始めた頃はイラストの仕事とは切り離して考えていましたが、いつか仕事になれば良いなくらいに思っていました。なので、まさか実際にお仕事のご依頼が来るとは思ってもみなくて、自分でもびっくりしています。漫画のお仕事は初めてだったので大変な部分もありましたが、とても良い経験をさせていただけたなと感じています。
IPSAさんで書いた漫画は動きをつけて頂いたり、サイトもCHAIさんの曲が流れたりと、とても素敵に展開されているのでぜひ見ていただけたら嬉しいです。

IPSA PRESENTS -ME PLAY LAB-


-今後の展望

今後チャレンジしてみたいことはありますか?

今までは単純に一枚絵として完成したものを描いていたのですが、漫画を描き始めて、ストーリーの力ってすごく大きいんだなということに気づかされたんです。一枚絵に登場する人物はその一回だけだけど、お話の流れの中で登場するキャラクターは何回も登場するし、架空の存在でもずっと会ってるような感覚になってきますよね。ストーリーってそういう力があるんだなと思って。その感覚を感じてもらえるのも面白いし、一枚絵にはできない表現が漫画ではできる。なので今後はイラストレーションの中でもストーリー性を帯びた表現というのを、もう少し掘り下げていきたいなというのが今の気持ちです。
漫画に関してはInstagramで連載をしているのですが、投稿画像の縦横比率にどうしても制約がかかってしまい、表現の幅が広がりにくいと感じているので、漫画用のサイトを新たに作ろうかなと考えています。自由なテンポで作れるし、大きなコマで見せることもできるのでそういったコマ作りの漫画作品も作れたら楽しそうです。IPSAさんのお仕事では縦スクロールの漫画を書かせていただいたのですが、そういったスクロール漫画もオリジナルで描いてみたいですね。SNSの枠を超えて、もっと自由な表現でチャレンジの幅を広げていきたいです。

ストーリー性を感じる作品は見入ってしまいますし、時には見る人に寄り添ったりと、自然と惹き込ませる魅力がありますね。オリジナルのスクロールバージョン漫画もぜひ見てみたいです。漫画とイラストレーションの二刀流、今後も楽しみにしています!

小鈴 キリカ

イラストレーター/NewsPicksグラフィックエディター
1995年茨城県生まれ。筑波大学芸術専門学群卒。現在東京都在住。
経済ニュースメディア「NewsPicks」にてデザイナー、個人でイラストレーターとして活動。

<小鈴キリカに関するお問い合わせはこちらまで>

写真:稲垣謙一 https://kenichiinagaki.com/
インタビュー/テキスト:横田奈那子(vision track)


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