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注目の作業療法の洋書ラッシュ③

今回は人によっては、厳密には作業療法ではないだろうと考える人もいるかもしれませんが、作業科学の文献に焦点を当てようと思います。今やOTPF(アメリカ作業療法協会が作った作業療法実践の枠組みと領域)やWFOTも作業療法にとって、作業科学は重要な学問として認めている事実があるので、作業療法の書籍にカウントしてもいいかなと考えてます。

ただ、今回は新しい書籍の紹介の前にもっと作業科学に興味を持っていただきたいということで、日本における作業科学の書籍の現状をまず把握しようと思います。


自身で文献を読んで確かめよう

ただその前に、自身で文献を読む重要性を理解していただければ、と思います。自分がnoteで、海外の専門書を紹介するのは、自身が興味あることを共有したいというのもありますが、それよりも、勉強熱心な方に海外の論文や書籍を是非、自身で読んでみて欲しいというのがあります。

その理由としては、まず自身が読んでいる書籍の内容にある、論文から引用している文章や海外の書籍を元に紹介されている内容が、元々の資料をもとに正しく解釈できているかは、自分でも確認しないとわからないからです。例えば、日本語で読むことができる論文や書籍、特に作業療法理論、OBP(OCP、OFP)に関するもの、作業科学関係のものは、海外の論文や書籍を参考文献にしているものが多く、それを元にわかりやすく教えてくれるもの、または著者の方の考えとしてまとめたものが多くあります。そうした書籍や論文は、理解しやすく、強い説得力を持っていると思うかもしれません。ただ、実際に一次資料である論文や書籍をあたると、自身が他の書籍を通して得た解釈と一致しない、ということが意外とあります。そのため、自身で確かめた方が良いです。

情報は新しい方が良い

また日本の作業科学の書籍の多くは、情報が古くなっているのは否めません。例えば、今や絶版となってしまった『続・作業療法の視点』はカナダの作業科学者たちが書いた書籍で、素晴らしい名著ですが、日本語になっているのは初版(日本で発売されたのは2011年で、原著はもっと前)で、2013年には第2版が出ています。そして2013年といえば、もう10年前です。第2版ですらもう10年前で、作業療法、作業科学の分野も日進月歩なので、10年前の書籍に書いてあることは古いのは否めません。名著ゆえに古くても得るものはありますが、専門家としては新しい知識を知っておいた方が良いと思います。だから、可能な人は自身で作業科学の洋書を読んだ方が良いです。

作業科学の書籍の貧弱さ

しかし、日本の作業科学の書籍の少なさというのは非常に残念なことであって、現状は入門書以外で手に入るのは、以下のRuth Zemkeらの『作業科学』しかありません。これは非常に面白い本ですが、今となっては、1990年代の古典として読むべき本かなと考えます。さすがに専門書として90年代の本しかないのは貧弱ですよね。

以下では、新しくはないけど、オススメの作業科学の洋書を紹介します。

作業科学、作業療法の深い理解のために

例えば、作業科学は、オーストラリア中心にAnn Wilccokらが創設した『Journal of Occupational Science』があり、Wilcock自身は、『An Occupational Perspective of Health』という名著を第3版まで出していますが、需要がないのか一度も日本語訳になったことがありません。公衆衛生や地域、医療に必ずしも関係しない領域に興味を持っている人にオススメの名著だと思いますが(Wilcock自身が公衆衛生の視点を重視していたと考えられるため)、原著で読む人は限られるので、非常に勿体無いなと考えます(本当は医療の領域以外で生きるのは作業療法ではなく、治療という枠組みにとらわれない作業科学の視点かもと思うので。何を目的にするかで変わるとは思いますが)。内容は、生物学的に、歴史的に、人間の生存、健康、幸福にとって作業が必要であることを深く、濃く論じたものだと思います。修士の研究で必要なので、一応読みましたが、難しい所も多々あり、本当の意味ではまだまだ理解に至らないという感じです。いつか深く理解できるようになりたい1冊です。D+3Bなどを深めたい人は、この本やHitchらの論文を読んだ方がいいと思います。

D+3Bを元に作業バランスの研究をし、作業療法理論として開発されたのが、以前紹介したのが、作業全体性(Occupational Wholeness)モデルですよね。

OBPのために

また作業に根ざした実践(Occupation-Based Practice)というのがありますが、元々は、アメリカの作業科学者であるDorris Pierceが研究論文で提唱したと考えられてます。Fisherによって、OBPは、「作業で評価して作業で介入する実践」として整理されたものの、元々は作業に関する知識(作業療法や作業科学で得た知識、エビデンス)を活用して、治療効果を高めようという(Occupation by Design)という主張でした。

その論文をもとに、Occupation by Designという概念は、後に書籍になっていますが、もちろんこれも日本語訳されていません。その後に出版された、以下のPierceの『Occupational Science for Occupational Therapist』も日本語訳をされていません。個人的には面白いと思うんですけどね。

作業機能障害(Occupational Dysfunction)はMOHO第2版から作業科学でも検討されたのですが、それが以下の作業科学の本です。これで、地域など集団の作業の問題である作業的不公正の概念だったものが、個人の作業の問題である作業機能障害として捉える概念として検討されるようになったのがわかります(ちょっと古いので、購入はオススメしませんが、研究で必要な方はという感じでしょうか)。

OBPを日本でより深く定着させるためにも、作業科学はもっと勉強しやすい方がいいですよね。多分、きっと、いや絶対。

デューイ哲学への回帰

『Journal of Occupational Science』などでは、現在の作業のパラダイムとして、上のWilcock、Pierce以外では、CutchinのTransactionという概念が重要視されています。元々は、デューイの哲学の概念ですが、作業を個人ではなく、環境(物理的、社会的、作業的)やその状況・背景(歴史、文化、政治、経済など)の相関作用(共同構成、共同構築)で捉えるというのが大きな特徴です。トランザクションは、①作業療法の作業(Occupation)という概念がそもそもデューイ哲学であること、②二元論を否定し全体で捉えようとする、非直線的という点で、非西洋的文化の考え方とも一致すること、③システム理論を超える複雑系の理論、④作業的不公正などのより広い作業の問題を考える方法としても注目されています。しかし、以下の本が日本語訳されていないので、この概念も十分に知られているとは言い難い現状があります。

今やOTPFなどでも、作業は人と環境の相互作用(Interaction)ではなく、そのより複雑な概念であるトランザクションと論じられています。作業療法プロセスモデルだったOTIPMなどは、作業のトランザクショナルモデルとして発展したのは、作業科学の影響が大きいのですが、日本ではそれを学ぶのが難しいのが現状です(トランザクショナルモデルの日本語訳もありませんしね)。ちなみに、OBP2.0の原理も、連続性とトランザクションですよね。

こうなると、デューイの哲学も勉強しないと、ですが、トランザクションという言葉が出てくるデューイの書籍『Knowing and the Known』はいまだに日本語訳されていません(泣)いや、過去にはあったかもですが、少なくとも今はありません。もっとも大学院で指導していただいた先生方は、「デューイは全てを読まないと」というので、主要な著作は全部読むべきなんだと思いますが…。道のりは遠いですが、東大出版から刊行されているデューイ全集に期待です。

終わりに

今回は、作業科学がもっと日本で勉強しやすくなるといいなあ、という思いから今の現状、作業科学を勉強する環境の乏しさをまず書かせてもらいました。もちろん作業科学研究会などもあり、作業科学研究で得られるものも多いので、活動されている先生方には感謝しかありません。そういう意味では、勉強する環境が皆無ではないのですが、MOHOは改訂されると必ず翻訳されて読んで体系的に勉強できるのと比較すると(実際に勉強している人はどの程度かはわかりかねますが)、多くの人にとって、作業科学を体系的に勉強するのは難しいですよね。

実践にすぐ結びつかないので、「作業科学はちょっと…」という方がいるのも知ってます。ただ作業療法の根幹に大きな影響を与えていることからも、もっと多くの人に興味を持っていただいて、勉強しやすい環境になるといいな、と考えてます。日本語訳になっていると、読む速さ、理解の速さが段違いなので、本当に作業科学に限らず、さまざまな書籍を翻訳してくださる先生方には本当に感謝ですよね。とは言え、最近はAIの発展もあって、自身で読みやすくなっているので、可能な人は読んだ方が良いと思います。

ということで次回こそは、今後新しく出る作業科学の書籍を紹介します。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
少しでも作業科学に興味を持つ方が出てくるのに期待です。

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