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so.

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「so.(エスオー)」は、女子高のとあるクラスの一日の間に起こる出来事を、様々な時間、それぞれの視点から綴る群像劇です。
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2017年5月の記事一覧

【so.】曽根 興華[昼休み]

【so.】曽根 興華[昼休み]

 制服を着た何かが地面に転がっていたけれど、人体じゃないだろうという予感はあった。血が飛び散っていなかったからだ。その予想は、落下した物体を確認した伊村さんと委員長のおかげですぐに当たっていたことが分かった。まさかそれが人体模型だとは思わなかったけれど。
 人が死んだわけじゃないと分かって、最初に悲鳴を上げたつぐちゃんの他に叫んだりする人はいなかった。すぐに三条先生が走ってきて、みんなに教室へ戻る

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【so.】堀川 国子[昼休み]

【so.】堀川 国子[昼休み]

 意外にも尻餅をついた伊村さんはすぐに立ち上がった。実に彼女らしく、落下した物に近づいていって身を屈めた。

「人じゃない!」

 その叫びに私は安心して近づいていった。視界に入ってきたのは制服を着た上半身だけれど、その顔は正中線の左側は普通の人間の顔で、右側は表皮を剥いで筋肉や眼球がむき出しの姿の、どう見ても人体模型の顔だった。

「みんな安心して、これは人体模型です」

 私がみんなに諭すよう

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【so.】荘司 直音[昼休み]

【so.】荘司 直音[昼休み]

「なんでしょうかね?」

 不可思議な衝突音の後の沈黙が耐えきれずわたしは口を開いた。

「すごい悲鳴でしたね」

 川部氏は心配そうに述べたが栗原氏は口を閉ざし俯いている。このままここに立ち尽くしていてもどうしようもないので両人へ促すように言った。

「参りますか?」

「様子を見ながら…」

 川部氏が歩き出しわたしも歩き出すと栗原氏も後列を成してくれた。渡り廊下へ出た辺りで誰かの大きな声が耳

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【so.】橘 ひろ子[昼休み]

【so.】橘 ひろ子[昼休み]

 タイラーと警戒しながら1階まで階段を降りて、渡り廊下へ出たら時が止まっていた。そこら中に散らばっている物の所為だってことはすぐに分かった。

「人じゃない!」

 伊村さんが落ちているものの側で叫んで、さらに部長がそれは人体模型だと皆に説明をした。制服を着せた人体模型が落っこちてきて、バラバラに飛び散ったらしい。岡崎さんは夢中になってあちこち写真を撮っている。渡り廊下には私たちのクラスの人しかい

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【so.】青江 つぐみ[昼休み]

【so.】青江 つぐみ[昼休み]

 どきどきが収まらない。誰も動かない。渡り廊下に散らばった制服を着た人体もまた、ぴくりとも動かない。もうお昼だというのに1月の冷たい風は足元を突き抜けていく。永遠みたいな静けさの中を最初に動き出したのは、尻餅をついていた伊村さんだった。

「人じゃない!」

 落ちたモノに近づいていった伊村さんはそう叫んだ。わたしは意味がわからなくって、きっと他のみんなもそう思ったらしくって、まだ動き出す人はいな

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【so.】岡崎 正恵[昼休み]

【so.】岡崎 正恵[昼休み]

 何故と聞かれても答えられない。腹に響くような音とともに中庭へ落ちた人体がバラバラになった瞬間に、私はカメラを構えてシャッターを切っていた。皆の顔が強張っている。泣きそうな子もいる。尻餅をついていた伊村さんが立ち上がり、誰よりも早く現場に近づいていった。

「人じゃない!」

 そう叫ぶ伊村さんを遠巻きに撮っていると、今度は委員長が近づいてきて声を上げた。

「みんな安心して、これは人体模型です」

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