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【so.】岡崎 正恵[昼休み]

 何故と聞かれても答えられない。腹に響くような音とともに中庭へ落ちた人体がバラバラになった瞬間に、私はカメラを構えてシャッターを切っていた。皆の顔が強張っている。泣きそうな子もいる。尻餅をついていた伊村さんが立ち上がり、誰よりも早く現場に近づいていった。

「人じゃない!」

 そう叫ぶ伊村さんを遠巻きに撮っていると、今度は委員長が近づいてきて声を上げた。

「みんな安心して、これは人体模型です」

 人が落ちたのではという最悪の事態を免れて、みんなの緊張が少し緩んだようだった。私は人体模型へ近づいていく人や、なおも動けない人の様子を、熱心にファインダーに収めていた。
 夢中で写真を撮っていたら、突然に三条先生から怒鳴られてびっくりした。えっ、私? と思う間もなく、横から強く手を引っ張られてよろけそうになった。アヤリンが私の手を引いたまま、すたすたと歩き出していた。

「アヤリン、痛いって」

「なんでこんな時まで写真撮ってんの!」

 小走りのアヤリンの歩調に合わせながら、私は素直に言った。

「こんな時だからじゃん? アヤリン、その時歴史は動くんだぜ」

「意味わかんない」

 わかんない、かなあ。何から何まで飾りっ気なしの感情100%なんだけどな。

 教室へ戻って、部室でお昼を食べたいなあと考えていたら、放送が入って体育館まで行かなければいけなくなった。全校集会をやるらしく、お昼休みやお昼ごはんはどうなるのかなとそれだけが心配だった。といっても、さっちん程の荒れようではなかったけれど…。

 体育館へ移動する間、アヤリンは険しい顔で考え事をしているみたいで、何も話しかけられなかった。
 体育館では出席番号順に座らされて、また長い長い校長先生のお話のはじまりはじまり。手持ち無沙汰な時はいつもカメラのメモリーを見返すことにしている。愛機いっちーのプレビューモードを立ち上げて、パソコンに取り込んだ後も残っていた先月くらいからの写真を見返すことにした。

 つだまるの買ったマフラーが変だとか、ヨシミがクリスマスに向けて気合が入ってるとか、写真を見返していると、その時に交わした会話まで思い出される。この時はまだ、サトミちゃんがあんな事になるだなんて誰も思っていなかった。サトミちゃんだって、きっとそんな表情で写っているはずだろう。私はカメラのダイヤルをくりくり回し続けている。

「愛をもってこの苦難に立ち向かいましょうということ、ただそれだけです」

 愛だって。隣人を愛せよと聖書は言うけれど、隣の席の栗原は私の興味に応えてくれないけれどね。見返りを求めるなって言ったって、毎日は永遠じゃないんだから、行いの反応は求めちゃうよね。

「皆さんはまだ若い。これからも社会に出て生きていくうえで、数多の困難が立ちはだかってまいります」

 それはまあ、そうなんだろう。

「それは天の主の与えたもうた試練です」

 それはなあ、どうなんだろう。いつもモヤッとする校長先生のオハナシを右から左へ受け流しながら、私は自分の撮った写真の中に、1枚もサトミちゃんが写っていないことに気がついた。たまたま角度が悪かったのか? 思い出そうとしてみるけれど、どの場面にもいたような気がするし、じゃあなんで写っていないんだろうか。あとで部室に戻ったら、取り込んだデータからも見返してみようと考えていたら、どうやら全校集会が終わったみたいだった。

 ほんと、何気なく。私は教室へ帰る列の前の方を歩いていたから、後ろの方はどんな感じかなとカメラを構えて振り返っただけだったんだ。そのままシャッターを切るタイミングで、サエさんがヨシミに平手打ちをしたんだ。ついそのまま数枚続けて撮ったけれど、バレたらカメラ壊されると思ったから、慌てて前を向いた。ものすごい瞬間を撮ってしまった。でも、何でサエさんが…?

 みんな教室へ戻ったけれど、この後どうなるのか分からないまま、不安そうに椅子に座っている。

「でもさ、たまきちゃんが犯人って決まったわけじゃないよね?」

 ジンさんが半べそで誰かに尋ねている。私はさっきのサエさんの平手打ちのシーンを見返していた。1枚前へ進めるごとに、サエさんがその場を離れ、則子たちも離れていった。最後の写真では取り残されたヨシミの背中に細田さんが手を置いているのだけれど、その表情は酷く嬉しそうな、不気味な笑みだった。

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