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so.

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「so.(エスオー)」は、女子高のとあるクラスの一日の間に起こる出来事を、様々な時間、それぞれの視点から綴る群像劇です。
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2017年3月の記事一覧

【so.】月山 綾[昼休み]

【so.】月山 綾[昼休み]

 まっさはすぐさま現場の写真を撮りだした。たとえば私たちが難なくシャーペンで文字を書くように、彼女にとっては条件反射のように対応できるんだろう。張り詰めた空気の中に乾いたシャッターの音がする。

「人じゃない!」

 真っ先に近づいていった伊村さんが叫んで、続いた委員長が翻訳するように声を上げた。

「みんな安心して、これは人体模型です」

 その声で、落ちた人体模型を囲む人がちらほらと出てきた。

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【so.】平 安代[昼休み]

【so.】平 安代[昼休み]

 ヒロさんと恐る恐る渡り廊下へ出ていくと、何人もが足を止めて立ち尽くしていた。怖いからその人たちより前に出て現場を見たいとは思わない。なんとなく固いものが落ちたんだろうなと思ったけど、誰も何も喋らない。

「人じゃない!」

 伊村さんが叫んで、え、じゃあ何なの?と不気味に感じた。

「みんな安心して、これは人体模型です」

 クラス委員らしく部長がみんなに説明するように言って、あたりの緊張は一気

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【so.】橋本 忠代[昼休み]

【so.】橋本 忠代[昼休み]

「それは天の主の与えたもうた試練です」

 お得意のキリスト教的観念論に持ち込んだ校長先生のお話が延々と続いている体育館の冷え切った床の上。もじゃの背中を見つめながら、さっきの出来事を思い返している。

 4時間目が終わってやまちと話しながら教室へと戻る途中、渡り廊下で屋上から人体模型が降ってきた。丁寧に制服が着せてあって、自殺を模した悪趣味なイタズラだろうっていう結論になった。それで終われば良か

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【so.】山浦 環[昼休み]

【so.】山浦 環[昼休み]

 ちょうど今日の4時間目が移動教室だってことは知っていた。授業が終わって教室へ戻ってくる面々の集う渡り廊下の真ん中で、爆弾が爆発したら皆殺しだなと考えたことがあった。勿論そんなことを行う知識も意欲もなかったけれど、私の起爆した悪意の爆弾は、昼休みへと向かう日常の中で見事に炸裂した。
 悲鳴を背に浴びながら、私は清々しい気持ちで屋上を後にした。階下へ降りると廊下を突き当たり、非常階段の扉を開けて外へ

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