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昨日の空の色がどうしても思い出せない

昨日、宝塚へ行った。

前夜からの雪はもうすっかり上がっていたが、異常な低温は続いていた。
足元に伝わる冷気は、まるでゲレンデに立ったときのようだ。
にわかに降り積もった雪も、なかなか融けない。
このあたりは雪などめったに降らないから、道行く人たちの多くがへっぴり腰になり、一歩一歩確かめるように歩いている。

ザックザックザック…

雪を踏みしめるのはかくも楽しかったか。
スキーの経験だけでなく、愛媛の山中に暮らした20年ですっかり雪に対する耐性を身につけたようだ。
つま先に体重を乗せれば、たとえ靴底が滑ってもこけることはまずない。

しかし、阪急電車の車窓から見た空が何色だったのか、思い出せない。
雪化粧の六甲の山並みは美しいと思ったが、そのすぐ上にあったはずの空がまったく思い出せないのだ。
抜けるような青だったといわれればそうかと思うし、どんよりしたグレーだったといわれればまたそうかとも思う。

宝塚には映画を観に行った。
震災後の復興事業でできた、関西で唯一の公設民営のミニシアター。
音響設備は全国屈指のレベルという。
週替わり上映の名画のうち、観たのは『スープとイデオロギー』だ。

作品の中身を細かに書くことはしない。
しかし大きな衝撃を持って観た。
在日朝鮮人の映画監督ヤン・ヨンヒ(梁英姫)の作品だ。

僕は基本的心情として、南北朝鮮に対しては距離を置いている。
神戸には多くの朝鮮人コミュニティがあり、朝鮮は身近だった。
しかし一方で、親世代から聞かされた戦争前後の価値観もある。
混乱を来した僕は、朝鮮に対して一定の距離を置くことで、自分の心の中に生ずる問題を回避してきたのだ。

そんな僕が『スープとイデオロギー』を観た。
まさに在日朝鮮人とは何か、そのアイデンティティを問う作品だ。
生活ではなく活動の上に生きることを余儀なくされた在日朝鮮人。
南北に分断された祖国には居場所なく、生涯にわたる日本での仮住まい。
そして多くの在日朝鮮人が韓国ではなく北朝鮮を信奉した事実。

作品を覆う暗澹たる空気は、過去の日本がもたらしたのではなかったか。
そんなつっかえが胸に残って劇場を後にした。

昨日の空の色がどうしても思い出せない。

(2023/1/26記)

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