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前日、バス停まで100mほどを小走りで駆けたが、まさか?

歩く速度が遅くなった。
それも、かなり。
いっしょに歩く人についていけなくなった。

人間にとって歩くことは基本中の基本であり、実に嘆かわしい事態だ。
歳を取り、筋力が次第に落ちているのが原因なのか。
いや、違う。
この50年の人生、歩く速度は一方的に遅くなったわけではなく、速くなったり遅くなったりを繰り返してきたからだ。

***

神戸、京都、東京で過ごした25年の前半生、僕の歩く速度は年々速くなっていった。
何人かで歩いていても、気がつけば必ず自分が先頭に立ち、気をつけなければ後続との距離がどんどん開くほどだった。

ところが、愛媛の山中に引っ越して、僕の足は一変する。
自分でも明らかに分かるほど、歩みが遅くなったのだ。
東京に出張したりするとそれはもう大変だった。
よくこんなところで暮らせていたなと感心せずにはおれなかった。
20年の山暮らしで、僕の足はとことん遅くなった。

そして神戸に戻り、僕はまた見違えるように歩くのが速くなった。
朝の三宮の地下では、ただ足音だけ鳴らして黙々と歩く人の群れに置いてけぼりを食らうことなく、僕もカツカツと歩いた。

ところが、淡路島勤務になって、また歩みがのろくなる。
たまに三宮の本社に出社する日があったが、地下の人の流れにまったくついていけなくなったのだ。
子供に、父さん歩くん遅い!と叱られるようにもなった。

***

土地により、そこに流れる時間というのは実にさまざまだ。
人がひしめいて暮らす町では、人々の営みは時分秒を競ってせわしない。
自然を相手に暮らす山では、あらゆる物事のスパンはゆったりと年月日だ。

どうやら僕は行く先々でことごとく順応してきたようだ。
神戸、京都、東京で歩みが速くなり、愛媛、淡路島で遅くなった理由はそれで説明がつく。
筋力の低下などでは、断じてないから。

でも。
神戸、京都、東京での移動手段は、電車、自転車、徒歩だった。
愛媛、淡路島では、どこへ行くにも自動車。
ということは…やはり?

昨日ふくらはぎが謎の筋肉痛を起こしていた。
そういえば前日、バス停まで100mほどを小走りで駆けたが、まさか?

答えは出た。
ただ運動あるのみ。

(2022/12/9記)

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