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使うたび計算してみたら?と聞こえた

母の遺訓がある。

道具はよいものを。

母はこの言葉を祖母から聞いたらしい。
だから3代にわたって―いやそれ以上かもしれない―受け継がれた言葉。

道具たるもの、それがなければできない仕事や、それがあれば便利になる作業のために存在する。
いわば人体を、あるいは社会を拡張するためのもの。

であれば、道具はやっぱりよいものを選びたい。
中途半端なものを手にし、うーんと首をかしげながら使いたくはない。

しかしネックになるのが価格だ。
よいものはそれなりに値が張る。
ホントによい道具は、高価すぎて手が出ないほど。
これを買えばさぞかし便利になるのだろうなとは思うのだけど。

しかし母の遺訓には続きがある。

道具は使ってなんぼ。

道具は使ってはじめて価値が出る、という当たり前の意味はもちろんある。
しかし母の「なんぼ」に込められたニュアンスは、別な気がした。
僕には「使うたび計算してみたら?」と聞こえたのだ。

1万円のハサミがあるとする。
うわ、これ高いわ…きっと切れ味バツグンなんやろけど…やっぱり百均にしとこか、となりがちだ。
しかし、1万円のハサミも2回使えば1回5000円、5回使えば1回2000円、100回使えば1回100円、1000回使えば1回10円だ。
いいハサミならきっと1万回でも10万回でも使い続けることができるはず。

もちろん同じ理屈でいえば、百均のハサミは1000回使えば1回0.1円だ。
10円に対し0.1円というのは確かに安いし、当然100倍の開きはそのまま。
しかし、切れ味にも耐久性にも疑問の残るハサミを、うーんと思いながら使い続けなければならないほどの価格差だろうか。

もちろん1000回使う前提で計算したからやろ? と言われればそれまで。
しかし道具は使うためにあるのだから、そんな前提でいいはずだ。
むしろ百均のハサミが1000回もつかどうかを心配したほうがよいくらい。

母の「なんぼ」は、「ちゃんと使えるものをしっかり使えば、結局めちゃくちゃ安い」という意味に違いない。
この言葉は道具選びのたび、3人の子供たちにも繰り返し伝えている。

(2022/6/27記)

チップなどいただけるとは思っていませんが、万一したくてたまらなくなった場合は遠慮なさらずぜひどうぞ!