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温かい記憶に満ちた百貨店が今、失われようとしている
子供の頃、百貨店といえばおめかしして出かける憧れの場だった。
当時、百貨店といわずデパートと呼んでいた。
デパートはカタカナ語なのに今となってはどこか古くさいから不思議だ。
あまりにデパートがモダンの象徴的存在すぎて、その頃の栄華を指す言葉になってしまったからだろうか。
百貨店の凋落はそれほどまでに著しい。
***
百貨店には主に、老舗の呉服系と新興の鉄道系がある。
呉服系百貨店
〈松坂屋〉〈三越〉〈大丸〉〈そごう〉〈伊勢丹〉〈高島屋〉など名だたる百貨店はおおむね呉服商をその端緒とするから、必然的に老舗が多い。
最古の〈松坂屋〉は1611年の呉服小間物問屋に始まるというから、江戸開府のわずか8年後だ。
鉄道系百貨店
呉服系に比べてかなり新しいのが鉄道系だ。
〈阪急〉〈阪神〉〈近鉄〉〈東急〉〈西武〉〈小田急〉〈名鉄〉など、枚挙に暇がない。
最古は1929年に世界初の駅ビルデパートとして梅田に開業した〈阪急〉だ。
呉服系に遅れること300年。
しかし時代の流れなのだろう、呉服系として自負ある老舗百貨店が、新興の鉄道系百貨店に次々と呑み込まれていく。
〈東急〉の元は〈白木屋〉、〈近鉄〉の元は〈丸物〉といずれも呉服系の老舗だったが、それぞれ東急電鉄、近鉄に買収され今の形態となった。
もっとも悲哀に満ちているのが〈そごう〉の転落だ。
経営多角化に失敗し倒産、鉄道系〈西武〉の支援を仰ぐ事態となった。
その後さらに、コンビニ〈セブンイレブン〉の傘下に入ることになる。
〈セブンイレブン〉はその3か月前に、親会社のスーパー〈イトーヨーカドー〉をも呑み込んだばかりだ。
この栄枯盛衰を図示するとこうなるだろうか。
歴史からいえばその格式は、
呉服系百貨店 > 鉄道系百貨店 > スーパー > コンビニ
といえるが、〈そごう〉の場合、
コンビニ > スーパー > 鉄道系百貨店 > 呉服系百貨店
とまったく逆転してしまったのである。
老舗としての無念は察するに余りある。
同様に多くの百貨店が構造不況に喘ぎ、業態変換、廃業などが相次いで、旧来の百貨店は年々その数を減らしている。
業界の先行きは不透明だ。
***
前職の20年間、村おこしの産品を抱えて売り歩いた先は全国各地の百貨店。
ざっと指折り数えてみたら、その数なんと70店を超える。
年に一度しか訪れないのに、毎回歓迎してくれる百貨店の担当さん、そしていつも行列の先頭にダッシュで来てくれる常連さん、複数の店舗に来ては差入をくれる追っかけさんなど、百貨店は出会いにあふれた。
幼稚園の頃の思い出はすでにセピア色がかっている。
展覧会を観に、父と兄と3人で心斎橋のそごうと大丸をハシゴ。
贈答品を買いに、母と兄と3人で神戸のそごうと大丸をハシゴ。
大食堂のエビフライとクリームソーダ。
そんな温かい記憶に満ちた百貨店が今、失われようとしている。
(2022/2/9記)
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