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慣れた手つきの爆弾処理に、僕たちはただ顔を見合わせるしかなかった

高校生の頃、パフェのとりこになっていた。

仲のよかった友達と3人でよくパフェを食べに行ったものだ。
僕はいかにもな帰宅部だが、あとの2人はおよそパフェには似合わない体育会系男子だった。
きっかけはさっぱり思い出せないが、休日にこの3人で三宮や元町に出てはあちこちパフェを食べ歩いた。

***

ある日の学校帰り、途中の駅で下りた。
向かったのは駅からすぐの、海を望む国道沿いのファミレス。

「どれにする?」
メニューを開いて皆に訊いてみる。

「俺これにするわ」
「えっと、ほな俺これ」
「偶然やな、俺もこれにしよう思ててん」

3人は同じパフェを指す。
それはそうだ、専門店ではないからパフェは1種類しかない。

出てきたパフェをさっそく長いスプーンで掘りはじめる。

「なぁ」
「なに?」
友達の呼びかけに、僕は顔も上げずバナナを食べながら訊きかえす。

「…なんでここに女子おらんの」

おーい! 今それ言う? 今日に始まったことちゃうやん…

「ホ、ホンマやな」
「女子おったらもっとうまいやろな、パフェ」
スポンジ生地にさしかかるが、パフェのこの常温ゾーンがどうも苦手だ。
「男だけで食べるパフェ、なんかムダ遣いに思えてきた」
「いや、青春のムダ遣いやで」
うまいこと言う!

「さっきから店員がチラチラこっち見とんのが嫌なんやけど」
それは僕も気になっていた。
たしかに店員――おそらく女子大生バイトだ――がこちらを見ていたのだ。
「どうせ『あの子ら男子だけで青春のムダ遣いや』とか言うとうねんで」
「腹タツノリー!」
底のフルーツをたいらげ完食。

「男子の足跡残して帰ろ」
友達のひとことに、え、何かっこえぇこと言い出すん…と感心しかけたのも束の間、友達は水の入ったグラスを逆さまにしはじめた。
泣く子も黙る、水爆弾だ。

①おしぼりが入っていたビニールをグラスにかぶせ、ひっくり返す
②ビニールを勢いよく引き抜く
③水爆弾のできあがり

このイタズラで、あの店員を困らせて楽しもうということらしい。
これが男子の足跡とは…トホホ…

一部始終を外から見ようということになった。
片づけようとして辺り一面水浸しになって店員がオロオロするところを。
会計を済ませ外に出て、植え込みに隠れ、窓越しに店内を窺う。

「来たぞ!」
さっきの店員がテーブルまでやってきた。

「あ! え? えーっ?」
店員は一瞥すると、こともなげにグラスの周りにおしぼりでダムを築く。
そしてグラスを持ち上げ、男子の足跡はことごとくおしぼりダムに吸い込まれ、消えた。

慣れた手つきの爆弾処理に、僕たちはただ顔を見合わせるしかなかった。
でももし店員が水をぶちまけていたら、きっといたたまれない気持ちになっただろう。
どこか爽やかな幕切れにホッとした。

パフェと聞くと、いつもこの日のことを思い出す。

(2022/9/10記)

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