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ラブレターをワープロなんかで書いてはいけない

――中学の頃ワープロで書いて失敗した苦い経験があります

そう書いてしまった。
そう書いてしまったばっかりに「見せてくださいね」となった。

先月、手書きの記事を投稿したときのことだ。

ささきひろこさんから「こんなキレイな字だったら、毎日誰かにラブレター書いているかも」とコメントが。
字を褒められて嬉しくなった僕は、ついこう返してしまったのだ。
「ラブレターはやっぱり手書きに限りますよね。中学の頃ワープロで書いて失敗した苦い経験があります」

すかさず、いろはさんから。
「ワープロで書いたラブレター、とってますよね」「見せてくださいね」

うへぇ…

もちろん相手に渡すラブレターなので、手元にはない。
でも情けない思い出はしっかり心に残っている。

ワープロ(ワードプロセッサー)
一昔前の日本にあった機械。形はノートPC似で、文章を打つことしかできないが、プリンターが内蔵され、それ単体で印刷までできるすぐれもの。
メーカーにより〈書院〉〈ルポ〉〈文豪〉などの名がついていた。

中3の11月。
放課後、時間ある?と友達がニヤつきながら訊いてきた。
予定スカスカの僕は、二つ返事で空いていると答えた。
じゃあ来てと言われ、男子2人で向かったのは学校近くの明石城公園。

何ごとかと思っていると、女子が2人近づいてくる。
2年下の子たちだ。
友人が言う。
「俺はこっちの子と行くから、お前はそっちの子」
いや、何言ってるか分からない。
「この子ら、憧れの先輩とデートしたいと思っとんやって。解散!」
憧れ…の先輩…? 問答無用だった。

混乱したままその子とペアになり、歩き出す。
いやもう、何を話していいのか分からない。
話したこともない子と、顔を合わせて即デートなのだから。

気づいたら公園内の喫茶店に入っていた。
いろんな話を振ってみても、カタコトの返事で途切れる。
ふーーっ! どないしたらえぇねん!
こんな大それたことするんなら、そっちも何か喋ってくれーー!

――クラスの女子も先輩先輩ゆうて俺らには目もくれへんわ…
「はい」
――女子てそういうもんなん?
「たぶん」
おいーー! 喋れーー!
――そろそろ帰る?
「あ、はい」

3か月が経ち、何もないまま卒業の日を迎えた。
式を終えて正門を出たらその子が駆け寄ってきて、カバンくださいと。
え? 今日最終日やからカバンに物いっぱい入ってんねんけど!
やむなくもう一つのカバンに詰め直し、希望のカバンをあげた。

高校入試まで1週間。
家で勉強する手がふと止まる。
そういえばあの子、かわいかったな。
カバン…ください…ってモジモジ、かわいかったな。

そのとき、母が誰かから借りていたワープロに目がとまった。
なぜか、これだ!これでラブレターを書くのだ!と思ってしまった。

「公園で話したあの日から…」わーーっ!
「ワープロなんかで書いたら心籠もってへんと思うやろけどそんなことなくて…」とワープロなんかで書いた。
「よかったら返事くれへん?」と書いたことも思いだした。
返事がなかったから忘れてたけど。

ワープロを持ち主に返す日がやってきた。
丁寧に箱に詰め、あとは渡すだけとなったとき、あ!となる。

当時のプリンターはリボン状のインクを熱で転写する方式で、印字後は字の形がくり抜かれたリボンがカートリッジに巻き取られる。
インクリボンは高価だったから、誰もが一度使い終わったカートリッジを逆向きにセットしてまた使っていた。
カセットテープのA面を聞き終わったら裏返してB面、の感覚だ。
もちろん二度目に使うときは、一度目に抜かれた文字がそのまんま見える。

ということは、このワープロの持ち主も…

わーーっ!

よい子はラブレターをワープロなんかで書いてはいけない。
決して返事は来ない。

そして、借り物のワープロはもっといけない。
愛のささやきが筒抜けだ。

(2022/12/26記)

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