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10:30、残り10分のカウントダウンが始まった

数日前から口の中がズタボロだ。

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数日前、僕は会社の健康診断で、ある大きな病院にいた。

会社の前から病院の送迎車が運んでくれるので楽チンだ。
その日は僕を含め5人がその車で病院へ向かった。

いつもその病院なので、手順はわきまえている。
さっと受付を済ませ、検尿から開始。
院内は神戸中の健診が集まったのではないかと思うほど大混雑していて、このスタートダッシュが後の各項目で大きな差となるのだ。

読みどおり、順調に項目をクリア。
他の4人を大きく引き離し、ボスキャラ・胃カメラに挑む。
まず看護師が鼻に麻酔…え?何しとん? あふれた麻酔が唇を襲う。
検査は難なく終わったが、大量の麻酔を浴びた唇は、歯医者の時のようなタラコ感覚になっている。

「以上で終了です。他の方を待たずに早い便で帰られますか?」
ぜひ! いやちょっと待って。
いつも朝抜きのご褒美に院内食堂の無料ランチ券をくれんかったっけ?

「はい、こちらがランチ券です」
見透かされて恥ずかしいが、空腹でどうにかなってしまいそうなので。
健診スムーズすぎてまだ10:15だけど。

「麻酔しているので10:30から飲食可能です。車は10:40発です」
おっと! 攻めるねぇ。
きっと一人でも早く追い出したいのだろう。
もともと早食いだし、いいかと了承した。

10:30、残り10分のカウントダウンが始まった。
ここから先はへんいちではなく、ジャック・バウアーだ。

画像2食堂へ着くも昼時には遠く、キッチンのおばちゃんもオリンピック観戦中。
すぐ出そうなカレーを注文。

画像2別の見知らぬ健診者が来て、モーニングセットを頼む。

画像3なかなかカレーが出ない。
ごはんにルーかけるだけちゃうん?

画像4キッチンからおばちゃんがトレイを持って出てきた。
よしよし、6分あればまぁなんとか食べら…
「順番前後します。モーニングセットの方…」
パンとコーヒーとおばちゃんがジャック・バウアーの前を通過した。

画像5チーン! レンジの音が食堂中に響く。
まさかの、ごはんまだ炊けていない問題。
10:30の病院ではモーニングセットしか出ないのだ。
おばちゃんは冷凍ごはんの解凍具合を確かめ、さらに追加でレンジ。

画像6チーン!
「お待たせしました。カレーです」
見たら分かるって!
もうかっこむしかない。

熱ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!

レンジでチンチンに熱されたごはんは灼熱の炎。
とろみがあってなかなか冷めない熱々のルーがたっぷり。
院内食堂なのにヒリヒリのスパイシー。
極めつけは、うまく操れないタラコ唇。

噛まずに飲むしかない。
一口ごとに水を含んで冷ましながら飲み込む。
口の中は大ヤケド、ようやくエサだと思って喜ぶ胃にも過酷な仕打ち。

画像7最後の一口はもう半分腰を浮かせて流し込む。
走る、玄関まで走る。

画像8車に飛び乗る。

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数日前から口の中がズタボロだ。

(2022/2/11記)

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