知っているイタリア語は音楽用語だけ?
ただ、その程度の事がわかったところで母の不安が消えるわけではなかった。
私のイタリアでの生活の安全が保証されるわけでもなかった。
それに語学の問題もあった(それまで私のいた場所はドイツ語圏である)。私はイタリア語を音楽用語以外知らなかった(これは後になって分かった事だが、音楽用語としてのイタリア語を知っていれば簡単な会話ができるのである)。アンダンテ、モデラート、カンタービレetc.....
気の毒な母は明らかに[ゴッドファーザー]的イタリアが現実と思い込んでいて、[ニュー・シネマ・パラダイス]に描かれているような、のどかで人情に溢れたイタリアなんてこの場に及んで思いつきもしないのである(ちなみに彼女は後者の大ファンである)。
母の心配もある意味でもっともで、実のところ私自身がかなり心配ではあったのだが ーイタリアに就職するなど夢にも思っていなかったのだから!ー もう乗りかけた船であった。それに何より、私は今憧れの指揮者がいるオーケストラに[自分の席]を持っているのだ!!
そのことを思うと、他の様々な問題は結局取るに足らない事のように思えてくるのだった。
結局わたしは"冒険"を取ることにした。もっと正確に言えば、ほかの選択肢はなかったというべきだろう。
それに続く日々はビザの取得やらイタリアの情報収集で、夏休みは瞬く間に過ぎて行った。
(続)
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