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【創作短編】笑顔を見せて

おれには腐れ縁の女の子がいた。小学校から高校まで同じだった女の子。おれはあいつの笑い方が好きだった。どんな人の前でも笑ってて、皆からも「明るい」「素直」と言われていた。おれもそう思う。でも皆が思うあいつと、おれが思うあいつは違うように思う。だってあいつは、おれの前では他の誰よりもよく笑っていて、よく泣いていたから。

「ねえねえねえ見て見て見て!!!」
高校3年の昼休み、ベランダで歯磨きをしていたら、その声と共におれの制服のシャツが引っ張られた。あいつだ。いじわるしようと少し無視をする。するとあいつの声が大きくなると共に、若干の切なさを帯びる。
「ねえええええ見てってばあ~~、、」
「何」
ようやく振り向くと、あいつが若干顔を赤くして、うれしそうに笑っていた。続けておれは体育祭の応援団員に選ばれたあいつの、演舞という名のお遊戯を見せつけられる。あいつは本当にダンスが下手だ。するとあいつがバランスを崩して転んだ。セーラー服の下にはく長いスカートがめくれ、太ももがあらわになる。いや、もう下に履いてるものさえも見えている。グレーはダサいだろ。などと思っていたらあいつが今度は顔を真っ赤にしながら大笑いしている。その無防備さとかわいさにおれも笑えてくる。そしてあいつの前でしか出さないような猫撫で声であいつの名前を呼んでしまう。

季節は巡り受験モード。あいつは努力家だったし成績も良かったから、あいつが前から話していた大学の推薦枠を貰って、推薦入試を受けていた。推薦枠を貰った日のあいつは本当に可愛かった。いつもの倍くらい目が輝いていて、眩しいくらいだった。でも推薦とはいえ落ちる確率だって低くはなかった。倍率は2倍ない程度。図書館でおっさんと並んで新聞の社説を何時間も読んでる姿や、何度も面接練習をするあいつを見ていたおれは、心からあいつの合格を願っていた。

そして合格発表の日が訪れた。廊下でばったり会ったあいつは、珍しく髪を下ろしていた。単刀直入に尋ねると、あいつは弱々しい笑みを浮かべ
「ダメだった」
と一言。おれが何も言えずにいると、始業のベルが鳴った。

昼休み。おれは英語の先生に用があったので、先生を見つけ駆け寄った。そこにはあいつもいた。受験報告だろう。顔を真っ赤にして泣きじゃくっていた。またも声をかけれないでいるとあいつは去って行った。

その後教室へ戻ろうとすると、廊下に置かれたベンチに腰掛けたあいつを見かけた。さっきと同様ボロボロと大粒の涙を流していた。おれはあいつの元に行って声を掛けた。
「笑っとけ」
あいつは頷く。ここでこんなことを言うのは不謹慎かもしれない。でもおれはこれだけは言わずにはいられなかった。いつも見ているあいつの笑顔が好きだし、恋しかったから。

無事に受験が終わり卒業式。色んな人と写真を撮り撮られしていると、デジカメを持ったあいつが来た。今時デジカメってとは思ったがあいつのことだ、そこはスルーした。
「ねえ写真撮ろうよ~!でもデジカメで自撮り難しいよね、、」
するとおれの友達が通りかかり、カメラマンをしてくれた。あいつがカメラを渡す。そしてあいつと雑談をしていると、友達はシャッターを切っていた。二人で驚いたら友達はにやりとしてこう言った。
「めっちゃ良い写真撮れたわ」
二人で見返すと、すごい逆光ながらも、おれがいつも見ていたあいつの笑顔が、その写真に写っていた。おれは若干の照れ笑い。あいつは逆光を気にしつつもうれしそうだった。


そしてあれから三年と少し。おれは大学で彼女ができた。あいつも彼氏がいるらしい。一時期はその男にあの笑顔を見せているのかと想いを馳せることもあったが、今はもうない。今のおれのすること、いや、したいことでありしないといけないことは、おれの彼女を心から笑顔にすることだ。

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