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”グローカル”から考える土着品種の意味

Vol.041
もうほとんど死語になったような“グローカル”ですが、イタリアワインにおける固有品種、つまり土着品種を語るとき、“グローカル”という概念は、的を得ているように思えます。

あらためて“グローカル”を意識したのは、ここ数シーズンのメンズファッションの展示会を見渡した結果、実は足元にもっといいものがあるのではないかと感じたからです。これから先の文章は、メンズファッションが好きな方には、いい刺激になると思います。

現状の円安で、多品種の服を日本に輸入しにくくなったうえ、新しいデザインの提案に乏しく、とりわけ、ピッティ・ウォモ(フィレンツェで開催される歴史ある展示会)に出展する海外ブランドを中心に語るとき、あまり明るい気持ちにはなれません。もちろん、新しく提案された服は出てきています。しかし、なにか既視感がある。どこかでみたことのあるような服が多いんですね。

さらに、世界主要都市の目抜き通りに路面店を構える、ラグジュアリーブランドについてふれると、主(あるじ)の見方は、「ラグジュアリーの大量生産」になっていると考えます。そもそもラグジュアリーなものは、稀少性が担保されているから、価値があります。わかりやすくいえば、手仕事を多用し、時間をかけたものづくりのため、あまり数がない。珍しい素材を使っているので、同じものがほとんどない、といった稀少性です。
それをラグジュアリーの定義とするなら、現状はその逆。もののつくり込みはほどほどにして短時間で大量に生産し、そして消費される。これが、ラグジュアリーなんですかね。

では、メンズファッションにおけるラグジュアリーとはなにか。ひとつのジャンルを取り出せば、オーダーメイドによるスーツ。誂えのスーツです。100%手仕事をとおしてつくり上げるスーツ、と表現してもいいでしょう。
ここでは、歴史まであえて詳しく遡りませんが、誂えのスーツとは、イギリスを中心としたヨーロッパに源流があり、テーラーが形づくって世界に派生した、いわゆる背広型の服です。工場での生産に頼らず、一着一着、手仕事で形にしていく。グローバルで認知された、手の込んだ誂えのスーツは、最近では、東アジア地区の独立系テーラーにも広がっています。高品質化とともに、文化や思想にも対応しながら、各国のつくり手たちが独自のスタイルをものにしています。これこそがラグジュアリーであり、グローバルからローカルに落とし込まれた“グローカル”です。

そこで、土着品種の魅力を語りたい。
イタリアには、2,000種以上の土着品種があるといわれています。シノニム(同義語)を含んでいますから、実際はもっと少ないでしょうが、正確にはカウントされていません。20州あるイタリアは、各州に土着品種が生息し、登録もされています。
つまり、ワインは一般に、世界に広がり楽しまれていますが、ブドウの個性を掘り下げていくと、いずれローカルな品種にも目が向けられる。多彩な土着品種を持つイタリアワインは、“グローカル”の宝庫。独特な味わいに出合え、未知なるブドウを知ることができます。

誂えのスーツのたとえを引き継ぐと、日本には日本のスーツがあり、韓国には韓国のスーツがあり、タイにはタイのスーツがある。それぞれの魅力がいま、“グローカル”なテイストとして、世界の洒落者たちに好まれています。
グローバル→誂えのスーツ→土着品種→グローカル。とてもいい繋がりを感じます。
ヴィーノサローネが選ぶイタリアワインは、“グローカル”の視点を、立ち上げ当初から大切にしています。

次回の“ディアリオ ヴィーノサローネ”に続きます。

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