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言葉もなく

「今日はなんだか妙に寒い気がする」

そう思って気温を見たら、-9℃。なるほど、それは寒いし湖も凍るわけだ。
寒い土地で暮らしたことがない私にとっては驚きの数字だが、ストックホルムの氷点下の日々には慣れてきた。それでもスウェーデンの中では暖かい方で、北方の土地は既に-20℃近くなっている(もはやその寒さを想像できないし、したくもない)。
外に出る際、毛糸の手袋や厚手の靴下を身に着けていても、長時間歩いていると手先や足先が冷たくなってくる。冷え性の私には、革の手袋と足首まであるブーツが必要だと痛感した。

そして気温そのもの以上に厄介なのが、乾燥した空気だ。部屋干しした厚手のセーターも1日あれば十分乾いて、生乾きの匂いがする隙もない。
それ自体はありがたいことなのだが、外に出るとそのひんやりとした乾いた風は凶器になる。文字通り、肌を「刺す」ような風。これがなかなか痛い。
ダウンのフードを被った上で、口や鼻が隠れるくらいマフラーをぐるぐる巻きにしている人もよく見かける。人と待ち合わせする時は誰か分からなくて大変そうだが、とにかく空気に触れる肌の面積を少なくしようとする涙ぐましい努力を感じる。

そんな寒い日にも、ご褒美のような瞬間がある。
最近15時には日の入りを迎えるのだが、晴れている日は橙や薄紫の美しい夕焼け空が広がる。夕日が湖にも映り込むので、空と湖と、光が倍以上に広がる。
そのあまりの眩しさに、歩んでいた足がぴたっと止まってしまう。
寒さで丸くなっていた背中が自然にすっと伸びてしまうほどの凛とした美しい夕焼け。
隣に学校帰りの女の子がやってきて、夕焼けに向けて携帯のカメラを構える。そして言葉もなく、ただ目を合わせて微笑む。
そんな静寂の時間がなんだか嬉しくて、心地よい。

「悪い天気なんてない。
 雨も雪も寒さも、その天気に合わせられない人間の方が愚かだ。」

という言葉を聞いた。
そう、ここで生きることを選んだ以上、合わせるべきなのは人間の方だ。
天気を「良し悪し」で語るのはやめようと思う。
でもこれだけは言わせてほしい。

寒い!

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