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『西洋人との結婚に関する産業的状況』①(作者:ヴー・チョン・フン、1930年代ベトナムのルポルタージュ)

第一章 頭と耳

 喫茶店の老婆は震え出した・・・。
 自らよりも体力の優れた者の出鱈目な激しい怒りを前にして、私はすぐさまに立ち上がり、守勢を保つために何歩か退かなければならなかった。臆病な話し方を徹したのも、そうしておけば、易々と口を割られることもなかろうと思ったからである。またさらに怯えた様子で屈服し、ただ譲歩するような姿勢を続けたのも、この私の守りを固めた体制が相手側にさらなる油を注ぐことになりはしないかと恐れたがゆえの行動であった。別に怯えたわけではない!
 私の顔面には、依然として、重い粒を伴った重いにわか雨のように脅迫の語が止むこともなく降り続く。
「わかるか! 百人という餓鬼がいたら、一様に百人が同じ言い訳をしやがる。全員が旅行に行っていたとか言うんだ。しかし奴らは誰一人として、それを可笑しいとは思わないらしい! このティ・カウという土地は以前からずっと若者たちに、盗みやセックスをやらせたり、他の卑しい事を企ませるような、くだらん暇しか与えられない所だ。それを忌々しく思っているこの国人たちはあんたと同じで、いつも何かと白い目で見る素振りばっかりさ 」
 私に向かってそのような怒りをぶちまけ終えると、この血の気の多い輩はその金剛力士の両手で拳を握った。彼の面相は映画『Big House』の作者どもを思い出させる。口角から口元下そして下あごにかけて、あらゆる方向から数日をかけて生えそろってきたのであろう髭が、出獄時のジャンバルジャンの誇り高き様子を彼に与えていた。
 それくらいにしかほとんど彼の甘い魅力はないように思える。残りは軽蔑的な所作の基礎として人を侮辱せんとする考えばかりで、全ての復讐心をというものを両眼に寄せ集めて、私を脅し威嚇していた。私の目の前には、今にも吠えようという虎がいるわけであるが、それは反対に、虎の目の前には私のただただ冷静な振る舞い(鉄の柵が間にあれば、そうも振舞える)が見えているというもの。私に対する激しい憤りが収まるのを待ってから、ようやく私は返答をした。
「私は旦那らが顔を合わせる度に腹を立てなくてはならないような、そんな種の人間ではないんですから、終わりにしましょう! 誤解ですから」
 最終的に、彼は渋々こう言った。
「私も強くそう願いたいところだね。先にあんたには言っておくが、もしあんたが好き勝手に何かしら無礼な話でっち上げて、私に被害を与えるか、または私の友人や同僚たちに被害を与えるようものなら、あんたをその場でとっつかまえてやるからな。その時は覚悟して置け、厳しくしつけてやる」
 私は簡潔に答えた。
「そうですか、では今日はどうも」
 それだけ聞くと、彼はようやく帰る気になったようで、コツコツと音を鳴らしながら、靴の印章で泥だらけの地面の上にくっきりとした大きな丸い跡を一杯に残して去っていった。
 果たして彼は何人であったのか? 西洋人であったのは確かだろう、だがドイツ人かロシア人か? またはイタリア人かベルギー人か? はたまたポーランド人であったか?
 皆目見当も私にはつかないが、恐らくそんなことは知る必要もない。私がまさしく期待しているのは、その人が外国籍軍の人間であり、私の国土に住む若い異国人であり、血気盛んであること、そして当然、西洋人を相手取るベトナム人女性 と結婚し、まんまと騙されてしまった経験を持つ者たちであるということだ。考えてみれば、彼らにもベトナム人に対して疑いの目を向けたり、喧嘩を吹っ掛けたりする権利はあるだろう。その理由としては一番に、インドシナに住むヨーロッパ人は現地の記者に出くわした際に、まずは密使であることを疑うという習慣があるからであって、それはちょうどご近所の西洋式の服装した人物には西洋人と結婚したベトナム人妻をたらしこむ才があるのではと、勘繰ることにおよそ似ているものだ。
 それと第二に・・・、〈西洋人との結婚に関する産業的状況〉が見られることにある。
 大勢の女性が西洋人たちと次々に混じり合う最中、まともな結婚というものは熟慮に値するものではないだろうか? いや結婚というよりも、むしろそれはちょうど、〈産業〉と呼ばれるに値する、様相というか・・・、そういったものが、匂いとして漂っているような気がしてならない。
 この紙面上でその漠然した質問の答えを提起していく前に、私はいくつかの場面を先に話していく方が良いと考える。そもそもそれらに出くわしたせいで、上記したこんな奇妙な質問が頭に浮かんだのだから。
 私はちょうどハノイにある教会の前にいた・・・。
 その朝は鐘の音が市中一体に鳴り響いていた。
 四十台はあるかと思われる自動車たちが教会の端からつらつらと連なって、さながらウミヘビのように、ラジスクエットの町まで長く列を成して伸びている。そう、西洋式の結婚式だ。華麗なパーティーのために仕立てられた洋服らは、生き生きとした太陽のまばゆい明かりに照らされて、さらに一層見栄えが増している。お互いを手厚く歓待する人々の群れは、活気あふれるその周囲に引かれて、次々と教会の中へと導かれていく。その片隅に、二つの家族がいた。一つは純粋なフランス人のみ家族で、もう一つはフランス人とベトナム人の家族であり、この家族は皆で楽しそうにおしゃべりをしていた。フランス人家族に関しては、ふたりきりのようで、その奥さんは若くて美しかったが、主人の方は老いており、髪は既に真っ白であった。彼は知性的でどこか公使のような威厳や高貴さを持つように見えた。一方仏越の家族については、四人家族のようで、フランス人の夫、ベトナム人の妻に、男女合わせて二人の子ども(当然、混血ということになる)がいた。先の貴族的純フランス人夫婦は、思いもよらず敬意ある所作で、〈彼ら西洋〉の夫人となった彼女の手を握ると、この夫人は恥じることもなくころころとしばらく笑い続けた後、流暢なフランス語で対応するのであった。彼ら彼女らの会話がいかに自然な様子であり、雄大で、そして高貴なものであったことか!
 ある一国の、それも〈野蛮な〉国の女性が、不遇な立場に立たされることもなく、紳士的に接し守ってくれる夫と結婚しているのを目撃するに当たって、そのような場面を前にした私は非常に快い気持ちにさせてもらった。このような結婚であれば、およそ一産業的行為とは程遠い。
 他にもどんな場面を思い浮かべよう・・・。
 都市に構える小さな洋風の家や外庭。
 農家がそこの道を通る度に驚かされて、ゆっくりとその歩みを止めてしまう、そんな風景があった。木をゴムひもで括り付けたサンダル履きの西洋人が、一心不乱に、奥さんと仲良く田畑を耕し、また軒下に置かれた背もたれのある椅子に堂々と夫婦で座っている時には、ベトナム語とフランス語をまぜこぜにして騒がしくしている混血の子どもたちにプレゼントするためのセーターを編むなどしていた。一人が家畜に名前を付けると、さらに次の世代までも、専らその家畜の名が踏襲されて、五代十代に渡っても叫ばれ続けるだろう。それは幸せな家族を描いた絵画を思わせる風景であった。ベトナム人女性らの無礼な非難や罵りもあったが、気に留めることもなかった。彼は退役軍人であったので、ヴェルダンにいた頃には大砲の音なんかをよく聞いていたことだろう。それに慣れてしまっていれば、野蛮で醜い老婆たちの汚い言葉なんぞ何ら痛くも痒くもなかったに違いない。
 ただもしも、そのような幸福ばかりを見聞きしていたのならば、私はわざわざ『西洋人との結婚についての産業的状況』と題目を付けた一編の記事を書こうなどとは考えることもなかったのである。
 そう、あの日の朝、裁判所の被告人席の前に立ったその西洋人のベトナム夫人が人々に放った一言に、誰もが皆、今自分が厳粛な場にいる事を忘れてしまったのだ。さながらそこにいた人々は『ハットボーイ』を見ながら好きに笑っているかのようにも思えたのだった。
 通訳官が入廷を呼びかける声がすると、ヒラヒラのついた靴の踵で大きな音を立てながら一人の成人女性が、まるで気にかける様子もなく席に姿を現した。その振る舞いは無作法で忌まわしいものであったけれども、その顔つきは可愛らしいものであった。
「名前は?」
「グエン・ティ・バー」
「いくつですか?」
「二十五」
「仕事は何をしていますか?」
「副税関長の男と結婚して、その後はまた違う人と結婚して・・・」
「質問に答えなさい! あなたは何をしているのかと聞いています、一体誰が主人のことを尋ねたと言うのです」
「その後はキャプテンの男の人と結婚しました」
 通訳官は苛立ちをみせながら続けざまに言った。
「仕事はしていないんですね? 無職です(裁判官の方を向きながら)、Sans profession」
「なんでそんな無職だなんて言うの?」
「それじゃあ、仕事は何をしているんです?」
「何をしているって? 何をしているって言われても・・・西洋人と結婚するのを仕事にしているの」
 聴衆が笑い出した。執行官は立ち上がり静粛を求めるのも虚しく、裁判所の端から端までけたたましい笑い声に支配された。検察官が質問の返答を求めると、立腹したまま通訳官は仕事を続けた。
「Elle declare exercer le métier d’épouser les Européens! (彼女は西洋人と結婚することを生業にしていると言っております)」
 検察官は人々のざわつきに呆然としながら、裁判長の方に目をやった。裁判長もまたこのざわつきに呆然としながら、検察官の方を見た。ふたりは目が合うと苦笑いを浮かべた。
 彼女の供述は奇妙であったとも言えるし、気が狂れていたとも言える。しかし、どうして彼女はわざわざあんな目立つようなことを? それか本当に西洋人と結婚するという生業が存在しているのだろうか? それにしても、あのふたりの法曹はどうして苦笑いを浮かべるばかりであったのだろう? 釈放してやろうという意味だったのか、それともあのふたりのお偉いさんは、すでにそのような事情を十分に察していて、彼女の供述を理解したというのだろうか?
 これら疑問を解決すべく、北風の吹き付ける小雨の中、私はハンチング帽を頭に被り、小脇にポシェットを抱えて、ティカウ へ一番に向かう車へと乗り込んだのであった。
 ベトナム人花嫁らが夫に選んだ西洋人は主に三種類に分けることができる。シビリアン、植民地軍の兵士、そして外国籍軍の兵士だ。
 折角ならまずは一番物価の安い所に行きたいところなのだが。
 コオメエの村へ行く通りを直進していく前に、西洋人を夫にしたベトナム人花嫁が多いという村落へ車は私を案内した。到着してすぐに、雨のしのげる場所をと思い見つけた喫茶店に入ってみたが、そこは〈西洋人の元妻〉であるという女性が座って商売をしている場所で、そして中に入るや否や不意に、兵士たちが私に対して好戦的な態度を示してきた。
 弱々しそうな若い新聞記者が一人、嫉妬を募らせて集まってきた男たちやらで緊張が走る場に入り込んでしまったわけだ。欧州の人間が足を踏み入れることさえも、酷く危険なことであったろう。
 私はただふたりの法曹の苦笑いの意味を理解したいと欲しているだけなのに、どうも苦心しそうな雲行きである。

 外国籍軍兵士らの人気が見られない喫茶〈厩〉の裏手へと場所を移した。喫茶店の女主人は他人(つまり私)の代わりに顔面を蒼白させていた。彼女は尋ねた。
「うちのお客さんたちが何かしましたか?」
「いや、何も。どうも私は嫌われているようですね。あの、あなたもどうして笑っているんです?」
 喫茶店の女主人は依然笑い続けている。彼女はしばらく笑い続け、笑いが収まると再び言った。
「そりゃそうですよ! うちの若い人たちの機嫌が悪いのも無理ありません。先週の日曜日だったらね、あの人たちも一緒に遊んでくれる現地妻を捕まえられたんですけどね」
「そう!」
 店の主人は続けた。
「残念なことに今日はね、あいつら、サンティネル(見張り番)。それで愛人と遊べないでいるんですよ。それに、愛人たち嫌になっちゃったみたいで、ここでしゃべっていたことなんですけど、裕福ないとこのたちと一緒に行くとか、そこで家事をするんだとか。でもほんと幸いですよ、何回か平手打ちを喰らうだけで済んだんですから」
 数回平手打ちを喰らっているのを見て言うことが、幸せであると! 読者人には理解に努めてもらわねばならないのだが、そのようにしゃべる彼女がこれっぽっちだって冗談を言っているわけではなかったのである。もしも、ここでただの冗談だと流してしまっていては、彼女と胸襟を開いて話し合えない。
「それで、お兄さんはどこの人? ここに何をしに来たんですか?」
「元々、新聞の仕事をしていたんですけれど、今は色々と放浪して、何か見つけたら、それを記事にしています」
「うそー、私、結構しゃべっちゃった! じゃあ、あの人たちのこと、何か書いちゃったりするんですか?」
 店の女はニマニマと笑いながら頷いている。その笑い方のなんとずる賢いことか! 彼女の方はどうも私のことを疑っているようである!
 早急に私は至極真剣な様子で、ここに来たのは愛人や恋人がいるわけでもないし、特定の誰かに会いに来たわけではないのだと、懸命に彼女に伝えた。それから、彼女にいくつか質問をぶつけた。彼女とのおしゃべりで、私はおおよそティカウについての噂を、ここで初めて知ることができた。
 外は依然として大雨がざあざあと降り続いていた。雨に閉められた扉の鍵は開けようもない・・・ 、であれば、喫茶店の女主人も悲しいかな、私に知っていることを語り尽くすこと以外に、他に残された選択肢もなかったわけである。
 いくつか丘が見えるほかに、駅が一つと兵営が数か所にあるだけなのだが、このティカウもまた、チュアチョンやトゥエンクアン、ヴィエットチーのような〈国際〉的な省と呼ばれるに値した。外面に関しては、その国際的な性格を示すことに苦労はしない! だからこそ、私はその省の内的精神について考慮してみたいと思うわけだ! そこには三百という外国籍軍の兵士が駐屯していているのだが、西洋の国の内、一体どれくらいの数の国から彼らが来ているのかご存じだろうか? ひとりのロシア人の傍に各ドイツ人隊列が立っていたり、ルーマニア人がポルトガル人の傍らに立っていたりしても、彼らが何やらひそひそと話すのは一様にフランス語である。この三百人には、各人の個人の世界というものがある。それら三百の歴史、悲痛、あるいは悲哀が、その場所で互いに入り混じる。彼ら一人一人がたどる人生を想像してみたいと思えば、人は映画に移りだされるものを見るのは必要不可欠だ。『le grand jeu』や『Je suis un évadé』、『Le pasager』 等々・・・、多分この人は恩知らずの女の象牙のような真っ白な首にナイフの先端を突き刺したのであるなぁ・・・とか、あの人はおそらく自分の父親に妻を寝取らせた母親の胸部に向かって回転銃を撃ったのだろう・・・とか、他にこの人は過激派集団を裏切った輩を何人も刺殺したに違いないとか、そういうのが分かるようになる。
 彼らは軍隊に登録すると、この土地に来て住む場所を探す傍ら、現地妻(クエンちゃんが愛称だ)探しをする。
 過去に一般人をも殺した輩がいるということだから、外国籍軍に入る者は少なくとも残忍な男たちであったと予想してよい。彼らは常に並外れた胆力を持ち合わせている。もしも、ティカウという土地で普通に妻を娶ろうものならば、彼らにとってそれは活躍の機会を失い落ちぶれてしまったと示すことになるという。
 少なくとも軍人三百人に対して、三百五十人のベトナム現地妻を生産することができるはずだ。理由は、大体いつも仕事のない女性がだぶついているからである。例えで言えば、この時〈失業中〉の女性が五十人にいるわけであるが、そうすると、彼女らの内で低俗な競争や出し抜き合い始めて、互いの価格をどんどん下げていくことも先に予想することができるようだ。また結婚相手の男たちはすぐに手の内をひっくり返して、いつも残忍で薄情な面を表に出してくるわけではない、まあ、もし供給が需要を越えていなければの話らしいが。
 ちょっと前まで、私はただこう取材するつもりでいた。西洋人と結婚することを一産業と呼べなくないだろうかと。しかし、店の女主人と話をする内にそれも変わった。いやあ、そちらの業界も大変ですねえと、今は思っている!
 なぜならば、彼女はこんなことを言うのだから。
「先週なんかは、外人の結婚相手を探しに、ここに移ってきたハノイの乙女たちがかなりいたんですよ! 彼女たち、結婚してから物凄くお金を貢がないといけないことに気が付くものだから、その結果、夫たちに酒やら煙草やら缶詰やらを貢ぐ金もすぐになくなっちゃうわけですよ。困窮して、夫に罵られて、いつもびくびくと恐れて、そんでもって、みんなで話し合うんです、どうやって逃げ出そうかとって。結婚で得たものが破産だけ! ほんと可哀そう! 才能があって、美貌があって、教養だってあったのに、そんな風になっちゃうだって! でも私みたいな年の功に言わせれば、それは仕方がない。聞くところによると、逃げ出した女の子たちの中には、ダップカウの売春宿に移って騎士様のお相手をさせてもらっているとかなんとか」
 そういえば、グエン・ティ・キエム嬢はどこにいるのだろう?
 彼女は、世の女性のために女性の職業問題について言及してくれる、生き資料じゃないか!
 当然、店の女主人はまだまだ教えてくれる。
「その上、最近は先の暗い話ばかり。今って若い人たちが結婚したがらないとかで、ただ酒を飲んでいるか、一つの場所にみんなで集まって阿片ばかり吸っているんです」
 話の切れ目を捕え、私は手早く質問した。
「今現在奥さんがいなくて、温厚で、話好きで、私の取材を受けてくれそうな人、誰か知りませんか?」
 彼女は言った。
「いますよ! たくさん知ってますよ」
「いや、そんな、たくさんはいいけれど、一人でいいんです、温厚そうな」
「あー、それなら、ディミトップさんがいいかなあ」
「その人と何か話すきっかけを作りたいんですが?」
「夕方に来てください、警備の時間も終わって、お客さんたちもぞろぞろとここにやってきますから」
「じゃあ、その時に私のことを紹介してもらっても?」
「もちろん。断る理由もありませんしねえ? その人、結構な歳なんですけど、すっごくたくさん結婚しているんです。でも、出会った女性とはみんな駄目になっていて、そのせいか、そのおじさんったら、今じゃあ、人生に嫌気がさした人みたいに、無気力でぼけっとしていて、興味を示すのは手品くらい。おじさんの正直なところを聞き出したいと思うんでしたら、まずは自分の国の女がどれだけ酷いかを、しっかりと彼の前で言ってみてください! それもこれでもかってくらいに! あとは、カスクート なんかをおごってあげれば完ぺき、それかお酒一杯と牛肉のフォーでも全然大丈夫です」
 私はまた戻る時間を約束すると、立ち上がり一旦別れを告げた。
 店の女主人はともあれ、いい人であったとは思う。彼女は自分が笑い、その二重顎から秘密を暴露し、白い歯から冗談を言うたび、首筋全体に鳥肌を立てている私を見て喜んでいた。

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