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『CGCCCGF』ヴー・チョン・フン短編翻訳(6)

 芸術家コイ・キー(※瑰奇。珍しく、優れている様子を指す語)家は唯一無二の存在であり、誰一人として彼らに匹敵する家族を見つけることはできないはずだ。言ってしまえば、この主人の名前自体もヘンテコではあるが、彼の家に入ってみれば、一目瞭然、その家の中もまた名前負けすることがなかった。この家族に関して見れば、人生など年中笑い呆けていれば足りると言わんばかりなのであった。
 いつ何時であれ、その家のベランダ辺りにでも立ってみれば、遠くから空を縦横無尽に駆けるようにやってくるダン・グエット(※ベトナムの民族楽器。撥弦楽器)の音色やサイゴンのダン・ニー(※ベトナムの民族楽器。擦弦楽器。中国の楽器である二胡に近い)の音色を聞くことができた。さらにもし、この芸術家の仕事部屋へ入ろうものなら、実に奇想天外な様子を見逃す者もいないし、さらにそれを驚かない者もいなかった。床一面にはウリの種が跳ね散らかって、客人が残していった菓子の余りや飴の包み紙が放置された皿も散乱していれば、底に少しばかり液体が沈殿している酒の空き瓶もいくつか放置され、お嬢さんたちの新品の「ハデハデ」な服と鰓のついた靴なども所狭しと転がっている有様なのだ。さらにこの描写にはまだ笛や二胡、弦楽器、ダン・ニーといった楽器が散乱されている状況を含んではいない。各楽器の糸は切れているか、はたまた無様に伸びきっているかのどちらかで、棚の端か椅子の辺りに不安定な状態で置かれていた。運が良ければ丁重に壁にかけてもらっている楽器もあったが。
 このように散らかっていた原因、それは芸術家コイ・キーの二人の愛娘であるテュエット・ニュオンとバック・ヴァンにあった。彼女らは楽器を弾くにしても、歌を歌うにしても卓越した才能を見せていた。才能だけではない、彼女たちの容姿はまるで天から降りてきた妖精のようであり、歯は西洋のイヤリングよりも輝き、肌はどんな絹のドレスよりも滑らかで、髪は黒く輝いており、その黒はどんなビロードのスカーフよりも深い色合いをしていた。
 事実、コイ・キーは自らの家族に対して威厳というものを一切持っていなかった。つまり、テュエット・ニュオンとバック・ヴァンという二人の「女」がこの主人に代わって、この家を牛耳っていたのである。
 主人はいつも三時に起きていた。商店街でもまだ炊きたてのパンを売る声すら聞こえない時間帯だ。朝は冷たく、体に布団を巻き付け、さらにコートまで着重ねると、彼は表に出て座り、作業を始めた。辺りを付け、計り、線を引き、点を打つように塗料を混ぜると、妻と二人の大事な娘に渡すための薬を混ぜることも忘れなかった。演奏を始める朝の授業が来るまで、彼女らは横になっており滅多に起きて来なかった。彼には才能があったが、まだ「成功」をしたことがなかった。そのため、今でも非常に貧しく身を粉にして真面目に働かなくてはならなかった。彼はいつの日か芸術で大成する日を夢見ていた。彼は何回か自分の個展を開く機会があった。この個展を開いた時に兄弟たちは彼を絶賛し、彼には輝かしい将来があるだろうと保証してくれていたのであるが、一方で彼には妻と二人の娘を養わなくてはならないという仕事もあり、ショールであるとか、鰓のついた靴であるとかの買い物に彼は強制され、その金の使い様は酷く、彼の本業である芸術はそういった雑事によって軌道に乗ることが難しくなっていた。

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