見出し画像

『金歯』ヴー・チョン・フン短編翻訳(5)

 その老人はすでに齢80歳の頭となり、周りの人間を集めて、自分はもう三か月もしたら死のうと約束しておきながら、三か月の間、無神経にもずっとベッドの上を占領し横たわって、不満ばかりを漏らしては、そこで飯を食い、またあらゆる必要なことをそこで済ませてしまうのである・・・。
 実にこの老人は非常にケチな人間で、臨終の時がやってくるまで、ヌックマムの壺を毎日のように確認し、ラッキョウを数えたかと思えば、夢中になって小金の一つまでも数え上げるほどのけちん坊なのであった。束ねた鍵は決して身から離すことはなく、金庫を開けて、子どもに土地を分割して相続したこと示す証書を取り上げて金庫に入れてしまう始末。
 しかし遂に、彼は本当に死んでしまった。少し借金を残して・・・。
 この老人の死後、彼の長男と次男は互いの妻とともに集まり、鍵の束を老人から取り上げると、残された財産の山分けを始めた。
 彼らも死体に衣服をあてがったり、どこかに安置してやらねばならなかったりと、何百何千という仕事にその日は追われるはずであるが、そういったことは後回しで、山分けの話ばかりが続いた。次男は長男に十キロはあろう仏具一式を渡すことになってしまったようで、仏壇の上は空っぽになってしまった。そうなれば、次男は兄に対して不平不満を漏らしながら、死んだ父のために村の身内を呼ぶ宴会の代金を全て払うように強いるのであった。この宴会を開くものなら、雌の豚を二頭は持参してなければならないからだ。
 この老人が死んだ日の夜は、まだ親戚の誰一人として彼がなくなったことを知らなかった。なぜならば彼らは未だにこのような金の計算ばかりをしていたからである。
 あらゆる事物について、どうだのこうのだの協議が深夜まで続けられた。兄弟はベッドの上で横になり寝転がっていた。長男は眠気で朦朧としながら幻想の景色に遊んでいる。その一方で、次男もまたうとうとしながら幸せそうではあるが、彼の胸中にあるものは謀略と略奪、そして村の権力者の地位を金で手に入れようという野心なのであった。
 四人は互い囁き合い、時に忍ぶように笑った。ただ老人だけが沈黙をしていた。死体には一枚の布団がかけられていて、豆粒にも及ばないほどの炎を頭に灯したランプと共に、鎮座している。遺書を残そうという素振りもなかったために、この老人の死は本当に突然のことなった。だからこそか、彼らは村にいる親戚たちに決してこのことをすぐには漏らすまいとしていた。そんな輩が老人の死について泣いたり叫んだり感傷的になったであろうか、いや愚問である。
 長男夫婦はどうやら寝てしまったようだ。すると次男夫婦はゆっくりと戸を開けて外に出ると、声を潜めて話し始めた。

ここから先は

2,277字
この記事のみ ¥ 120

この記事が参加している募集

サポートは長編小説の翻訳及びに自費出版費用として使われます。皆様のお心添えが励みになります。