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「最初に父が殺された」映画レビュー

題名「最初に父が殺された」

制作年:2017年

監督:アンジェリーナ・ジョリー

レビュー作成者:淡路大護(現代社会学部現代社会学科)

ジャンル:サスペンス、ドラマ
 
あらすじ
 今作は1950年代アメリカ、ベトナム、カンボジアが大きく関わっている戦争を描いた映画だ。カンボジアで支持を集めた反新米政権に反対するクメール・ルージェの支配下で過酷で残酷な運命を辿った一人の少女の姿が描かれている。物語は1954年の休戦協定がベトナム側で国境も関係なしに戦っていた部隊のカンボジア侵攻からはじまる。当時のアメリカ大統領・ニクソン大統領の政策が失敗し、戦禍に巻き込まれていったカンボジアの農民たちは不満を募らせていた。そんなときに注目を集め国民から支持を得ていたのがクメール・ルージュだった。このクメール・ルージュが首都プノンペンを包囲した事で、アメリカは軍事支援を絶ち、大使館の退去まで行った。そんな首都に家族と住んでいた主人公ルオン。政府の役人として働いていた父は武装したクメール・ルージュ(カンボジアの反政府組織)支持者隊「オンカー」がいる町は家族が危ない上に自身の身分がバレてしまえば殺されてしまうため彼女たちは町を出ることにした。その後、親戚の家に助けを求めるも政府の役人として働いていた父がいるルオン一家は助力を得る事ができず、渋々オンカーが支配する簡易的な集落に住むこととなった。そこでは服や食事、労働などが全て管理下におかれ戦場で戦う兵士のために働く日常を送っていた。そんなある日、橋の建設労働ということで兵士に呼び出された父。彼はそこで自分の死を悟り、家族を残して兵士に殺されてしまった。父の死を受けて母は子供たちだけでも生き残るために逃げるように言った。過酷な環境でわずか7歳の少女は1人で生き延びられるのだろうか。
 
レビュー
 この作品は家族愛、命の尊さについて今一度考えさせられるような物語だと私は感じた。作品全体を通して暗い雰囲気であり、時折映し出される日常の風景は私たちにとっては当たり前になっている平和そのものであるように思った。あくまで少女の主観の映画だったため表立っての虐殺や暴力というものは少ないように感じたが、セリフや合間に挟まれる映像から多くの人々が考え方の違いだけで殺されてしまっているのだろう。戦争当時は仕方なかったのかおしれないが、やはり自国民同士の争いは望ましいものではなく悪い夢のようであった。何もわからない子供たちも兵士として訓練されていき現役の兵士たちとともにクメール・ルージュへの反強制的服従を誓うシーンには洗脳に近しいものを感じた。互いに監視をさせあい、生活の様々な事項を抑制し、強制労働をするシーンは戦争というものは戦場だけではなくそれに関わる地域にも独裁国家の誕生などの悪影響を与えるのだとも思った。
 また、独裁国家のようなクメール・ルージュの形から貧富の差も発生しているように思った。大人も子供たちも強制労働を課せられる中、賃金もろくに支払われず食事もまともにもらう事ができない。戦地に赴いていなくとも餓死や過労死してしまう子供たちを見ていると、まるで地獄のような環境だと感じた。
 このように過酷な場面が多いからこそ家族という血のつながりについても考える機会となった。物語中盤で父が殺されてしまった後、子供たちに生き残ってもらうために母が労働地から兄弟がそれぞれ東西南北別々に逃げるように指示するシーンでは、母親の覚悟を感じた。親としては子供たち全員が元気に育っていくことを望むだろうが、内戦が勃発している地では、それは難しいことであり、いつ誰が殺されてしまってもおかしくないのだということを感じた。
 終盤の地雷地帯での緊迫した場面は、実際に戦争被害の一因として、自分たちが仕掛けた地雷による被害を被っていたことを知った。戦地に赴くことは幼い子供たちにはないが罠の設置や訓練は行なっている事が映し出されていた。それが敵軍の奇襲によって仇となり、子供たちをパニック状態に陥らせてしまうのであった。なぜ自国で戦争が起こっているのかも理解していない子供たちが自分たちで仕掛けた地雷で爆死してしまう様子は観ていて心が痛くなった。
 本作は個人的に戦争を全面的に出しているというよりも戦争下にある地域に住む人がどのような環境で生活することになるのかといった裏側の世界観を感じることのできる作品だったように感じる。少女の視点で描かれているためこの戦争における具体的な事柄を知りたいのであれば本作は向いていないようにも感じた。しかしそれが逆に実話ベースであることを引き立てており、戦争の背景についても興味を持たせてくれるように思った。私は今回Netflixで視聴したが、映像作品としてだけではなく、書籍化もされているため興味のある方はぜひ、手にとってみて欲しい。

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