心不全 2/いきなり心不全の逆襲
2021年10月31日、わたしは心不全で倒れた。自分の命が消え行く感覚に直面した時、誰かに伝えなければ永遠に失われてしまうストーリーの事が残念でならず、わたしはその記述を始めるのだが、ストーリーは記述の最中も新しく生まれ続ける。例えば──
第一章 セスのパットナム
2024年3月21日深夜、先日やったDJのことをnoteに書いていた。書いている最中わたしがどういう状態だったかというと、ふつうにはらわたが煮えくりかえっていた。つまらないモノを見たり、つまらないコトがあったりするとわたしははらわたが煮えくりかえって、握力75kgで固めた拳でつい自分のヒザを朝まで殴り続けてしまうので、時間がもったいないので文章を書く。普段は仕事と家庭に時間を使い、大切な「お遊び」=自分の人生を楽しむ、ということに時間がとれない。文章を書く、音楽を作る、絵を描くといったお遊びは、わたしのような作業員は睡眠時間を削って充てるしかない。
その日は祝日で現場は全休日だったのだがある部門の工事が捗らず納期があと2日という状況だったので力を貸しに行ったら材料はぶっ転がしでゴミはそこら中にぶん投げてあり✕✕✕は✕✕✕で✕✕。そこにやり方も大して教えられずただ工事の完成形だけ口頭で伝えられたアルバイトの方たちが10名ほど右往左往していた。中にはカニのように左右に行ったりきたりしているだけの方もいます。「作業リーダーは?」と半ギレでカニに問うと「いません」とのこと。責任者は喫煙所で談笑している。わたしはブチ切れて「力」(クロノス)を解放した。なので仕事はその日の午前中のうちに完了し11階の大部分を占めていた当社のゴミもきれいさっぱり片付いた──が、わたしはもう若くはなかった。
「力の解放」(クロノス・チェンジ)を行う度に、白髪は増え、体重は増え、みみ毛は生え、歯は抜け、入れバード(わたしの入れ歯の名称)は真っ二つに割れ、ワイヤレスイヤホンのブルートゥースは片耳だけU2の曲に乗っ取られ、これらのストレスにより「拡張型心筋症」に犯されたわたしの心臓は肥大していく。
アルバム『怨みはパワー、憎しみはやる気』でお馴染みアメリカのグラインド・怒り・バンド、AxCxのヴォーカル、セス・パットナムは2006年に睡眠薬、アルコール、コカイン、ヘロインの同時服用による脳障害で半身不随になったが、怒りのエネルギーは尽きることなく、車椅子によるライブ活動とオーバードーズ活動を続け43歳の2011年に心臓麻痺で亡くなった。彼の作る曲は商業性を排除するため歌詞やタイトルが無く、生活のためやむなくCDにつけたタイトルは徹底してインテリジェンスを否定し他バンドを攻撃対象とした。タイトル曰く「インターネットはゲイ」曰く「お前は日記をつけている」曰く「お前のいとこはジョージ・リンチ」曰く「お前はインテリア装飾家」曰く「お前は食物評論家」曰く「お前は歯肉炎」──この悪意たっぷりのタイトルが凄まじい怒りの轟音と絶叫を持って演奏される。夜の都会の暗い片隅だけでなく、真っ昼間の田舎のとうもろこし収穫祭などでも観客(数人)を前にセス・パットナムは絶叫する。「お前は日記をつけている!!!!」と激怒する!!!!!!!!!!!!
わたしはセス・パットナムを尊敬する。完全に怒っているのに逆に面白くなっている人間。しかも冗談が通じず逮捕、救急車、過剰摂取まるで自己保身とは真逆。周りの人間には優しい。わたしもこうでありたい。まだセスには遠く及ばないが、わたしも1000曲入りのCDを発売する予定がある。
さて怒りにまかせて『大失敗という名のDJ、~』というnoteを書き上げたが、なんか少しさむけがしてきたので寝た。
午前3時就寝、午前5時起床、出勤。
第二章 AUDIOの平八郎
電車の中で先ほど投稿したnoteのリアクションを確認しようとしたがその前にずっと【待つと無料】で読んでいる麻雀のマンガを読む。23時間ごとに1話ずつ読めるのだが、そのペースで十分な面白さ。ちなみに「進撃の巨人」が【待つと無料】になってたときは、くそっ、待てるわけねえだろ…くそっ…くそっ…ヨロイ…ライナー…といいながら半日で10000円ぐらい講談社コインを買ってしまった。
現場に着いて段取り後noteのリアクションを確認した。読んでくれた方たちは、わたしのDJネーム、AUDIO平八郎というのが面白かったようだ。とてもうれしい。これからDJやるときの名前をAUDIO平八郎に戻そうとしたがやっぱりだめだ。
ちょっと事情があるからだ。
実は、常々AUDIO平八郎のDJの師、Zさん(度々出てくる自衛官→レゲエ→作業員の人)について何回も書きたかったのだが簡単に扱える話題ではなくまず第一にZさんは10年前から失踪中である。
第二にZさんはわたしから借金をしている。額は、ドラクエでいうと「IVでトルネコがトンネル掘り師に払った額ぐらい」。
第三にZさんは事業に失敗している。某所で自分がオーナーとなるクラブのオープンまで漕ぎ着けたXさん。わたしもお祝いにかけつけると昔と変わらない笑顔で接してくれた。
その店に贈られたドでかい花輪に書かれた某有名タレントの名前。
「(あっこれはマズいところから資金を)」──
正直ここまで書いた話もZさんのためにかなり内容をいじってある。債権者たちがわざわざわたしのnoteを見に来るとは思えないが、
「Zのヤロウが若い時の舎弟に、AUDIOの平八郎ってのが居やがったなあ」と、検索して辿りつくことも可能なのでちょっと気を使った。
10年間失踪中と言ったが、彼を5年ほど前に某暗黒街で見た。汚い超々ロングの寅壱をはいて、夕方のファミリーマートの前でストロングオレンジを飲んだから、全てが夕焼けの朱に染まっていく時に昔と変わらぬデカすぎる自衛官ボイスでしゃべっていた。周りには知らない東南アジアからの若い作業員が2人。楽しそうだ。わたしは最初声をかけようとしたのだが、やめた。
貸したカネの事はどうでもいい。
例えば、Zさんは某駅で満員電車の中で横になっていた知らないギャル夫の腰パンをつかみ持ち上げてホームから落とそうとして殴り合いになった。次の日Xさんが現場にいったら現場の責任者がそのギャル夫だった。
例えば、Zさんは常日頃わたし(彼にとって社長)から「暴力は先に手出したらダメ」と言われていたのだがある日どうしてもあるじいさんにブチ切れてしまい、キックやパンチじゃなければ暴力にはならないと思い、真冬の屋外でごみバケツ一杯にくんだ水を、じいさんが寝たのを見計らって頭から被せたら、じいさんが気絶したので殺人未遂になりかねないガチのヤバさが起きた。
これがZさんの本領だから、わたしは声をかけなかった。行動を起こすのは間違いなくZさんからでなくてはZストーリーは始まらないのだ。わたしなんかに見つかるほど、債権者に無防備な姿を晒していたとしても持ち前の強運?でまだ生きているとわかって良かった。今は早い。【待つと無料】。それが5年前。
とにかくZさんはまだ、遠きにありて想うもの。待てばいつか昔を笑い飛ばせるようになるだろう。
第三章 凶運の男
さあ、いよいよ、体調が悪くなってきた。具体的には背骨から凍み上ってきて肩甲骨、肩、首筋を凍りつかせる暴力的さむけ。これに対し、わたしは狂凍み(くるしみ)という新しい日本語を作った。現場には防寒服はいくらでもある。それを気功術さながら何枚重ね着してもあまりにも狂凍い!見ると、みんなそれなりに寒そうにはしているが、マルハの冷凍倉庫ばりの装備をしているのに震えが止まらず苦悶の表情なのはわたしだけだ。ちなみに午前中搬入予定の資材が入ってきたらフォークリフトで降ろすので連絡を待ちながら仕事していたが、午後になっても連絡が来ない。そしたら16時ぐらいに「すみません渋滞で…あと1時間でつきます!」と元気な若者から連絡が来た。もう凍えて凍にそうなオッサンは結局ちょい残業で終了した。帰り際、責任者が談笑していたので「すんませんいま凍ぬほど具合悪いんで多分明日休みます。」と言った。妻にはすでに「今日晩御飯いらないよ。あと熱があるかもしれない。」と連絡しておいたので帰るなり布団に潜り込んだ。体温計は41℃。コロナもインフルも可能性がある体温だ。聡明な妻は別室に息子と避難してくれていた。布団を被って汗をかいたら深夜2時、体温は36℃まで下がった。なんだこれなら仕事行けるな。と思い熱い風呂を入れて汗を流した。健康そのものだ。「やっぱ仕事出ます」とLINEを入れた。ちょっと心臓がDoki-Dokiしてきたが、晩御飯食べてないので、お風呂に入りながらカップラーメンを食べた。
朝3時就寝。朝5時起床。
狂凍いと思ったら熱はまた40℃。
LINE「やっぱ熱ぶり返して来たんで休みます。」
近所の町医者に行く。アンケートに「発熱 40℃」と書いて、渡された体温計で体温を計りながらすごく体調が悪い人を演じているとピパピパ ピパピパと体温計が鳴った。わたしはあれを聴く度アマゾン川流域北部に生息する両生類・ピパピパのことを思い出す。体温は「36℃」だった。体調が悪い人のふりをやめながら体温計を返した。
コロナとインフルの検査をするも両方陰性。診断は溶連菌感染症とのことだ。
薬局で処方箋を出し薬をもらう。やたら漢方薬系が多かったのが気がかりだったが、まあ漢方薬で治るということは溶連菌てのはケミカル・バイオ・ガンギマリウイルスみたいな病気ではなく、もっと陰陽道と風水ほっこり系な病気なんだろうなと勝手に思った。病院からの帰り道二人組の警察官の方に職務質問されたので協力したら漢方薬をたくさん持っていたからか「全部1人で飲むんですか?」とスットンキョウな質問をしてきたので「はい、そうです!」と正直に答えた。ふつう漢方薬、誰かとシェアしないだろう。小僧寿しとは違う。
第四章 Zがいる…。
家に帰るとまた激しい狂凍みに襲われ、もらったばかりの薬を飲み布団に入る。体温40℃…。
その後3時間置きに、36℃と40℃を行ったり来たり。また、自分自身もまるでバスケットボール選手のように、薬棚と冷蔵庫とトイレと洗面と薄皮クリームパン(風邪の時はこれに限りますね)と布団の間をキュッキュと移動していたら、気がつくと薬を飲むため息を数秒止めただけで息切れしていた。これは徐々にまずいかもしれない。咳もひどくなってきた。場合によっては救急病院案内センターへの連絡も視野にいれなければならない。前回心不全で倒れた際の搬送時は、健康な人間なら99%が正常値の血中酸素飽和度(SPO2)が87%、血圧が80ー30というヤバさだった。SPO2が92%ぐらいだともう酸素ボンベないともうヤバく、ない場合過呼吸気味に呼吸すると体になんとかギリギリ酸素が入っていく(本能が生み出したテクニック)。
何度か日がかわり最後の薄皮クリームパンがなくなる頃、日付は3月24日になっていた。「なんか月曜日までに治る気がしなくなってきたが現場は大丈夫だろうか…。」
現場のスケジュール確認&連絡用のアプリを開こうとスマホを開くと、LINEに、未登録の人物からの通知がある──それはスパムメールにしては名前が不気味すぎた。
それは、珍しいわけではないが同姓同名はなかなかいないと思われる、前述のZさんのフルネームだった。。
わたしはZさんに直接連絡など10年以上していない。その頃はまだLINEはやってなく「mixi」を使っていた。また先日書いたnoteでも「AUDIO平八郎」の名前を出す際にその師としてチラッと登場してもらっただけだ。しかも彼は携帯はプリペイドしか契約できないのでSNSはやってない筈。現にわたしのどんな投稿にもこれまでZらしき人が反応した形跡は一切なかった。
呼吸が乱れる。
「狂凍み(くるしみ)」とはまた別の悪寒が背筋をかけ上って来る。Zさんこのタイミングで何であんたは現れることが出来るんだ!!俺を見ていないと出来ない。いや、見ていたらなおさらできない。いや、いや、もうこれは、
宇宙というものが、面白いほうへ、面白いほうへと因果律を調整する仕組みがあり、恐ろしいのは宇宙の「面白い」はまさに無垢の赤子の如くであること。それが修羅か菩薩かなんて人間の基準でしかない。呼吸が荒くなる。
SPO2値は多分92%以下。パニック障害を起こさないよう慎重にメッセージを開く。
(当然大幅に改変し、なお彼のグルーヴ感を損なわないように書きます)
◯◯(とんかつ)さん20年ぐらいぶりになりますね!いきなり先日現場でサンダーで足を切ってしまって、働けなくなってしまいました。20年前借りたお金もまだ返してないのですが、またお金を貸していただきたくラインしました。現在の状況の画像も送らせていただきますので、どうかよろしくお願いいたします。 おわり
そして1枚の画像が嫌な予感とともに開かれる。
そこには救急隊によりハサミで切られた作業ズボンから覗く、ブリンと真っ白い太ももの真ん中がザックリ裂けて血の海の中に脂肪や腱や骨まで見えるドアップ画像があった。
わたし「オエー!」
トイレに駆け込んだ。ダメだ。吐くと呼吸が完全に止まり、ジミ・ヘンドリクスの死が頭をよぎる。わたしのこのコンディションを狙い打ちしたかのようなZさんのライン。もう一回やり取りしたら本当に命が危ない。しかし返信しないとまたグロ画像送ってきそうだから「今、おれ心臓の病気なうえカネがない」「労災もらえないならまず労働基準監督署行くのが一番。親請けつぶれるかもしれんが」と速攻返信しといた。
そして妻に「ごめん。救急車を呼ぶよ。」と言った。
一度、死に直面すると自分が自分を保てる限界がわかるようになる。わたしは「自分にはブルーハーツの『情熱の薔薇』をもう一回本気で歌うと死ぬぐらいの命の灯火しか残されてないな。」と悟った時凄く怖くなった。できれば自分で救急隊員と会話できる体力ぐらいは十分残して救急車を呼びたい。
第五章(最終章) みんなで練習を
深夜なのに息子も起こしてしまい慚愧の念に堪えない。しかし初めて救急車に乗る息子は嬉しそうだ。息子よそれでよい。大はしゃぎせず、落ち着いて初めての救急車を堪能する息子。「これは何?」「これはおとうさんに刺すの?」などと質問してくる。「そうだよ。だからごはんをたくさん食べて、うがいと手洗いと歯磨きをしっかりすれば、お父さんみたいに病気で苦しんだりしないよ。」とわたしは答えた。救急車内で測定したSPO2の数値は83%。水中クンバカ級だ。
わたしは出来れば主治医がいて通院中で勝手も分かる前回と同じ病院に搬送されたかったが、ベッドがいっぱいという事で違う病院に搬送、3月24日日曜日午前4時、入院となった。妻と子と手を振り合いハイタッチしてしばしの別れ。
さて、当直の若い先生と若い看護師さん2人、どうやら検査のためわたしの動脈血が欲しいらしく、手首から採るとヤバそうだからかわたしの鼠径部(股のあたり)から採ろうと一緒懸命わたしの動脈を探り当てようとしているが捗らない。どうやら3人ともまだあまり慣れていないようだ。いいよ、皆さんわたしで練習してください!もうちょい、ちんちんの近くを攻めなくては動脈を探り出せないと気づいたのか、「もう少し下着をずらしてもよろしいでしょうか?」といわれたので「はい。」というとかなり大胆にパンツをずらされたのでちんちんがまがってしまい、ようやく動脈を見つけ先生が長い注射器の針を刺した。しかしなかなか血が出ない。「すみませんなかなか出ませんね…」先生が何かグリグリ押したりする。痛みに身悶えしたわたしの動きのせいで、ちんちんストッパーの役割を果たしていたパンツのゴムがブレはじめた。「すみません…すみません…なかなか血が出づらく…」
「ピョコ」
先生と看護師さんが見つめる中、ちんちんがパンツから出た。血は出なかった。
おわり
ちなみに診断は「心不全及び両肺の肺炎」で2週間入院の予定です。
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