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もう「美味しんぼ」くらい

お久しぶりです。ライターのシーズン野田です。

歳を重ねるにつれ、年々卑屈になっていくシーズン野田でもあります。

チームで最年長なのにも関わらず、社会性というものがまるっきりなく、裸で出歩くと逮捕されるらしいという情報を聞いてギリギリ服を着ている状況です。

股間のような顔をしており、普通に歩いていても「逆立ちをやめろ!」と言われます。ビタミンを得るためにがんばって陽に当たるようなすれすれで絶望的な生活をしている中で、最近はまっているのがネットフリックスに上がっているシットコムというジャンルのコメディーです。

ビデオクレイジーメンバーのマユスガが過去にシットコムについては取り上げているので、詳しくはこちらをご覧ください。

子供の頃、NHKで放映されていた3大シットコムといえばなんといっても「フルハウス」。そして「ブロッサム」と所ジョージでおなじみ「アルフ」です。テレビにかじりつくようにみていたのですが、内容はほとんどおぼえていません。

その中で、ネットフリックスでは「フルハウス」が上げられているのですが、その他にも多数のシットコム作品があがっています。

絶望を背負った生きる価値もない自分が見つけた、小さなオアシス。放っておけば嫌な記憶が蘇る自分には、何も考えずにただただバカになれる時間はとても重要で、シットコムはそんな安らぎを与えてくれるのです。

しかし、気がついてしまいました。シットコムはSNSに侵された現代人の病を端的に言い表している極めて社会的で批評的な眼差しを持っていることにね。

シットコム最大の特徴の一つに、天から笑い声がするという特殊な表現方法があげられます。

観客はどういう状況で劇を見ているのかはわかりませんが、スタジオにお客がいるとは思えません。おそらく編集して出来上がったものを見ているのでしょうか。正直、そんなに面白くないことにもいちいち反応されるので、カルチャーショックを感じないでもないのですが、この表現方法がとにかく独特というか、日本のコント番組とも違う。

出演者は、半分わかっているしわかっていない。物語の外の自分と、登場人物の役を扮する自分が見え隠れしながら進行する。落語ににているといえなくもないですね。

この演技っぷりがどことなく、SNS的監視社会に生きる現代人を端的に表しているように思えるのです。失敗もネタ化し逞しく生きねばならない悲哀を感じるのです。

逆に天から聞こえる笑い声には、笑い者になるのではなく、誰かを笑っていたい、当事者になりたくない、今生きるこの場を侵されたくないという人間のずるさや弱さを感じます。それは人間として生きる本能として当然のことではありますが、当事者になるからこそ見える世界というのが確実にある。やったらこそわかることがたくさんある。でも笑われたくない、だから誰かを笑っていることで何かを成し遂げたい自分のガス抜きをする。ほら見たことか。そんなことをやるからバカにされるんだ。やらない俺は大正解!と、今の自分を肯定する。

そりゃ自分だって誰にもバカにされたくありません。失敗した人間を嘲笑し「ああ自分じゃなくてよかった」と胸をなでおろすカスやろうです。シットコムの笑い声のように「バカやってるぜ」と、高みの見物をしている自分がひょっこり現れます。

シットコムの世界にこだまする天からの笑い声は当事者にならない我々であり、笑われている登場人物もまた、どこで誰かが見ている前提でSNSに自らをあげる何者かになった気分を擬似的に味わう我々です。両者を行き来しながら結局何もやれない自分を思い出し、ふとおそろしくなってしまい、笑って見てられなくなりました。

ただただ何も考えたくない時にシットコムは最適だと思っていたのですが、もうシットコムは考えなしでは見られません。

もう、美味しんぼくらいしか頭をバカにしてみることができません。

なんて窮屈でレビューで批評に満ちた世の中なのでしょうか。。。

それでも、そんな中でも、何者かになった気分を擬似的に味わう自分だとしても、当事者でいようそする態度は忘れないでいたいと思います。いつだってコカインを吸う危険が自分にふりかかると思っていたいし、人のこのとを嘲笑いそうになったら自分が道化にれる人間でいようと努力したい。シットコムの彼らのように、おどけて生きたい。自分が誰かを責めている時、いやでも自分も全然できてないじゃないかと、反芻しながら責めたてたい。。ファイトクラブのように、殴り合う相手はいつだって自分なのです。

そんな複雑な(でもないか)内面が、シットコムというジャンルには同時にたち現れるのです。ドラマそのものが誰かの人格であるような気さえするのです。メタ的な構造だからこそでしょうか。コメディそのものの性質なのでしょうか。

だからもう笑っては見てられません。




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