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【読書録】蜜蜂と遠雷(下)

おはようございます!非凡なる凡人、いがちゃんです!

今日から6月。ぐずついた天気になりそう。


『蜜蜂と遠雷(下)』

前回書いた上巻に引き続き。

コンクールの第二次予選途中から、第三次予選、本線と続く。


上巻以上に、より音楽の世界観の表現が多彩で、読み耽ってしまいました。

途中、第三次予選のところとか冗長に感じる部分がなくはなかったが、総じてとても魅力的だったし、引き込まれるものがあった。
“音楽”という音・聴覚の世界観を、“小説”という文字・視覚で表現するという挑戦は成功したように想います。

個人的には、コンクールとは関係ない場面で、第二次予選の合間に栄伝亜夜と風間塵がセッションをするシーンがとても好きで、音楽を奏でる幸せを感じていてうらやましいなと思ったりしました。
下巻の冒頭部分だったので、より先に読みたいと思えたシーンでもありました。

これだけの大作、かなりの苦労、生みの苦しみもあったろうと想像されたが、解説で編集者の「思い出」と綴られていて、恩田陸さんの凄さが垣間見えてとてもよかったです。
新しいものに挑戦するというのは、とても尊いし、そしてその踏み出した一歩の先を継続していることが大切なのだなと思いました。
もちろんそれはすごい大変なことであるけど、大変であるからこそ“大きな変化”を生み出す。
そして、到達しえなかった領域に到達するのか。
そこに人は心を動かされるのかなと思います。

小説の中でのフレーズで、

何かが上達する時というのは階段状だ。
ゆるやかに坂を上るように上達する、というのは有り得ない。
弾けども弾けども足踏みばかりで、ちっとも前に進まない時がある。これがもう限界なのかと絶望する時間がいつ果てるともなく続く。
しかし、ある日突然、次の段階に上がる瞬間がやってくる。
なぜか突然、今まで弾けなかったものが弾けていることに気付く。
それは、喩えようのない感激と驚きだ。
本当に、薄暗い森を抜けて、見晴らしのよい場所に立ったかのようだ。

とあるけど、この小説自体もそんな森を抜けて到達したものなのかもしれません。


映画もぜひ観てみたいなと思います。


最後に好きなフレーズを引用して、

もしかすると、音楽というのはこういうものかもしれないね。
先生の呟きが蘇る。
毎日の暮らしの中で水をやり続ける。それは、暮らしの一部であり、生活の行為に組みこまれている。雨の音や風の温度を感じつつ、それに合わせて作業も変わる。
ある日、思いもかけない開花があり、収穫がある。どんな花を咲かせ、実をつけるのかは、誰にも分からない。それは人智を超えたギフトでしかない。
音楽は行為だ。習慣だ。耳を澄ませばそこにいつも音楽が満ちているーー
譜面を消す。それはどういうことだろう。作曲家にとって、音楽家にとって。
剝き出しの、生まれたままの姿の音楽を舞台の上に出現せしめるー
凄い情報量だ。
やはり亜夜のラフマニノフに圧倒されつつも、明石はそんなことを考えていた。
プロとアマの音の違いは、そこに含まれる情報量の差だ。
一音一音にぎっしりと哲学や世界観のようなものが詰めこまれ、なおかつみずみずしい。それらは固まっているのではなく、常に音の水面下ではマグマのように熱く流動的な想念が鼓動している。音楽それ自体が有機体のように「生きて」いる。
本当に、音楽とは不思議なものだ―改めて、彼はそのことを思う。
演奏するのは、そこにいる小さな個人であり、指先から生まれるのは刹那刹那に消えていくのは音符である。だが、同時にそこにあるのは永遠とほぼ同義のもの。
限られた生を授かった動物が、永遠を生み出すことの驚異。
音楽という、その場限りで儚い一過性のものを通して、我々は永遠に触れているのだと思わずにはいられない。
そう思わせてくれるのは、本物の演奏家だけであり、今目の前にいるのは紛れもない本物の演奏家なのだ。
しかし、人間という存在にほんの少し、地上の重力のくびきを逃れるための、何かを付加するとしたら。
それは、「音楽する」ということが最もふさわしいのではないか。目に見えず、現れてはその片端から消えていく音楽。その行為に情熱を傾け、人生を捧げ、強く情動を揺さぶられることこそ、人間に付加された、他の生き物とを隔てる、いわばちょっとした魔法のようなオプション機能なのではないか。
音楽をね、世界に連れ出すって約束。
ははあ。なるほど。道理でこんな音がするわけだ。
(中略)
先生と話してたんだよ。今の世界は、いろんな音に溢れているけど、音楽は箱の中に閉じ込められている。本当は、昔は世界中が音楽で満ちていたのにって。
ああ、分かるわ。自然の中から音楽を聞き取って書きとめていたのに、今は誰も自然の中に音楽を聞かなくなって、自分たちの耳の中に閉じ込めているのね。それが音楽だと思っているのよね。


音楽って、小説って、すごいと思えた作品でした。


さ、今日も気張っていこ(-ω☆)キラリ

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