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ロンドンの日本人宿で営業停止騒動に遭遇した話

今はたぶん存在しないであろう、テムズ川北側の鉄道DLR路線の駅にあった日本人宿。

元々行くつもりはなかったんだけど、旅の途中で知り合った男旅友達から「今ロンドンの日本人宿にいるのから来ない?」ってお誘いがあった。

世界中にある日本人宿。同じ日本人が営業しゲストも日本人ばかりで安心して宿泊できるからか、ある程度人気があるけど、比較的料金が高めだったり独特な雰囲気があったりして(主がいたりとかね)、私は治安の良くない場所やその国の現地情報を知りたい時以外ではあまり泊まらないようにしている。

誘われた宿はネットで調べた情報だとあまり評判もよく無くて誘いを渋っていたんだけど、旅友の話ではこの宿は治験者が多く滞在しているよ と言う情報を聞いて、どんな旅の強者が居るのかちょっと興味が湧いたので行って見ることにした。
ちなみに、治験とは製薬会社が新薬開発の臨床試験で被験者を使ったテストのことで、日本国内ではほとんど聞かないけど海外ではたまにあるらしく、薬にもよるけど割と大きな金額を稼げる治験は長期旅行者に人気の現地アルバイト。(募集はほぼ男性で女性はないらしい)

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到着した日本人宿はアパートを無理やりホステルにしたような感じで、きれいだけど全体的にかなり狭く、トイレもいくつかあるうちの一つは壊れて使えなかったりした。
一番安い部屋のドミトリーは男子治験者がほぼ独占しており、私は割高の女子ドミに宿泊。同室の女の子は観光だったり仕事だったり留学中に住む部屋が見つかるまでの長期滞在の人も居たり、さまざま。
キッチンはしっかり自炊ができるくらい充実していて、自然とみんなテーブルに集まって雑談をしたり、管理人も若い男の子でゆるい雰囲気の宿だった。


次の日、外出先から帰るとキッチンテーブルの周りに人が集まり、深刻そうに話をしていて何かあったのか聞くと、「いきなり今日この宿が営業停止になって今夜はここに泊まれないらしい」と言われ、理解するのに一瞬時間がかかった。

聞くと、とつぜん衛生局の人が来て「ここは宿としての基準を満たしていないので営業停止です。今夜から誰も宿泊させることはできません」と言われたそうで、見ると玄関や壁に警告文のような紙が貼られていた。

「え?」「で、一体私達はどうするの??」 と言うものの、みんなも管理人の子もどうしたら良いのか何もわかっていないようだった。

しばらくして管理人の上司に当たる経営を実質的に運営している日本人(中間管理職)がやってきて
「とりあえず今夜はこちらで用意した別の宿に移ってもらい、寝る時以外はこの場所を使ってもらってもいいです。今後のことはこれから日本に居るオーナーと連絡を取ってからまたご報告します。」と言われ
治験で滞在している男性達は「オレ達はタダで泊まらせてもらってるから文句ないっす」って態度で
私も「はぁ…。まぁ別に問題ないからいいけど、急展開だなぁ」なんて思っていたけど、他の女の子達は困っているみたいで、カメラマンの仕事で来ている女性は「高価な機材が盗難に合わないようにわざわざ日本人宿に泊まったのに」と怒っていた。

宿泊者同士で色々と話して私が想像した感じだと、閑静な住宅街でホステルとして作られていないアパートに、よくわからないアジア人が毎日出入りしているのを見て近所の人が衛生局に通報したんじゃないかって思った。

ここはネットの口コミだと、最初の頃はかなり評判の良い日本人宿だったみたいだけど、年月が経つにつれ評判はかなり悪く「狭すぎる、人を詰め込み過ぎ」と書かれてるのを見て、お金になると分かったオーナーが商業主義に走り過ぎたんだろうな〜 と暗に想像できた。
治験者の常駐宿として製薬会社から契約を取っていたとすると、それなりの固定収入はあっただろうし、女子ドミの部屋で教えてもらいみて見ると、部屋の両脇にある二段ベッドの間の真ん中の天井に、ベッドの周りを囲むレールカーテンの跡があって、前はこの部屋に3つの二段ベッドがあったことが分かった。
ただでさえ狭い部屋にどんだけ詰め込んでいたのか。それじゃ身動きも取れないほど酷い環境だったはず。

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中間管理職から夜遅い時間にようやく代わりの宿を案内してもらい、連れて行れた先は、同じ駅で私達日本人宿よりも宿泊費が安く、口コミ評価も良くないバックパッカー宿だった。

大きな荷物は置いたまま、必要最低限の荷物を持ってみんなで移動。
着いた部屋にはなんと鉄パイプ組みの三段ベッド。
高い所が苦手な私はどんなに節約旅でも三段ベッドの宿は泊まらないようにしていたけど、こんな所で初体験とは…。
日本人宿で個室に滞在していた子もドミトリー三段ベッドの境遇で可愛そうだけど、私も苦手な一番上のベッドに寝ることになり、なかなかの待遇。グウ…。
夜中に絶対にトイレに起きないぞ。と心に決める。

中間管理職からは明日の朝8時に日本に居るオーナーとみんなで電話会議をするので日本人宿に集合してください。 とのことで
真夜中に別の宿に移動して、次の朝8時に元の場所で会議のハードスケジュールになる。


翌朝、日本人宿でのオーナーとの話は、治験の人達は特に要望もなく代替えの宿にそのまま宿泊し、今まで通り施設を使わせてもらう。と言うことで手打ちになり。
女子達への対応は、交渉ごとが得意と言うことで男の旅友達が代わりにオーナーと話をした。

とりあえず、前払いの宿泊料金を返金してもらう+慰謝料として幾らかを出してもらえるように打診すると、すんなり話が通り次の宿が決まるまでの代替え宿の代金も負担してもらうことになったが、留学で来ている子はきちんとしたステイ先がそうそう決まらないのではないかと心配で、代わりの宿を直ぐに紹介して欲しいと言い、仕事で来ている人も宿の不満をオーナーにぶつけ話がまとまらなかったので、一旦電話会議は終了して他の要望がある場合は個別に連絡をすると言うことで終わった。

電話の後も中間管理職と話し合いをしたけど、彼はこの騒動には最初からずっと他人事な言動と「お金を貰ってただオーナーから言われたことだけやってます」的な感じが見え見えで、彼の誠意的でない態度と急なハプニングに不安を感じてか、留学生の女の子は泣き出してしまった。

何か彼女の役に立てないか、ちょうどロンドンに短期留学をしている友人に連絡をして、良いステイ先を見つける方法を聞いたけど、既に彼女も知っている情報しか得られなかった。

彼女には何もしてあげられなかったけど、初めての見知らない土地でひとり不安だったり、思ってもみないアクシデントに遭遇したり、そんな時に同じ日本人が居る宿と言うだけで、気持ちが違うし安心感もあるんだ。と彼女の事が身に染みて分かった。

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ここの日本人宿は旅友や同じ境遇の人達も居て居心地は悪くは無いけど、今のこの環境じゃ時間がもったいないし、トラブルも続くだろうから私はその日の内にロンドンの中心地にもっと近い宿を決めてさっさと移動してしまった。
お目当てだった治験者の詳しい経験談は聞けなかったけど、その後宿ではやっぱり色々と問題があったりしたみたいで、すぐに出て良かったと思う。


今はネットですぐに旅先の口コミが見れ選択ができる、旅人にはいい時代。
どこであろうと愛のない経営をしているとダイレクトに反映されちゃいますね。
季節やタイミングによって運、不運の環境も変わるとは思うけど、私はネットの口コミはかなり重要視しています。
まぁ、予備知識無しのハプニング好きな人は関係のない話なんですが。

この時の経験はいい話のネタにはなったけど、
何かと無防備にならざるえない旅の宿だけは慎重に選びたいと改めて思いました。

みなさんも楽しい旅を。

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