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Viaの本棚はいかにしてなりしや?

「本で旅する Via」は東京・荻窪にある、カッコ付きのカフェ。読書するための居場所、をご提供しています。

荻窪駅近辺には、あらためてご紹介したいと思っていますが、新刊書店に古書店、BOOK・OFFもあって、本を購入するのに事欠きません。駅周辺で本をお買い求めになり、そこからてくてく歩いて、南口・北口から5〜10分ほどで到着する弊店でしばし、読書に没頭する、そんな休日を過ごしてしていただければ、と思っております。

もうひとつは、ふらっと弊店にお越しいただいて、どこへ行こうか? と気分に合わせて、店に並ぶ世界各地について紹介された本の中から一冊を選び、本の“旅”をお楽しみいただくこともできます。

当店にいらしていただいていたお客様のなかには、ほーっ、、と本棚を眺めて、二の句を継げないでいらっしゃる様子の方も見受けられます。普段あまり見かけない、ご興味のない本が並んでいるのかもしれません。

自身にとっても、そこに並べた本は、こんな本あったんだ、で購入したものばかりといえます。たとえば、『グルジア映画の旅』(はらだたけひで著、未知谷、2018年)。そもそも、グルジアあらためジョージアについてご存じなければ、手が伸びることはないでしょう。『小笠原学ことはじめ』(ダニエル・ロング編、南方新社、2002年)。世界自然遺産である、小笠原の自然についてお知りになりたい方はいらっしゃるかもしれませんが、その歴史や言語について興味を抱かれる方は少ないかもしれません。

自身もまったく同様です。たまたまジョージアを訪ねたことがあり、ジョージアの画家ピロスマニ、彼の生涯を描いた映画『ピロスマニ』の存在を偶然知ったから購入し、小笠原についても、この島に固有の生態系が築かれたごとく、独自のことばが育まれていったことを知り、おもしろそう、と手に入れた一冊です。

それは省みるに、旅先でふと目にした見知らぬ、しかし思わず惹かれてしまう、もの・ことを見つけてしまった感覚に近いのかもしれません。

旅に出ると、とくに海外旅行は、街を歩いていても、地図を広げていても、目に飛び込んでくる、匂ってくる、聞こえてくる、未知の情報量が多いです。たとえば直近の海外旅行を振り返ると、出かけたのは、コロナ禍もあって、もう4年前にもなる、マレーシアのペナン島です。

当時、15世紀頃よりマレーシアやシンガポールに渡った華人の子孫「プラナカン」を描いた『プラナカンー東南アジアを動かす謎の民』(太田泰彦著、日本経済新聞、2018年)を読んだのがなんとなく頭の片隅にあり、マレーシアを旅先に選びましたが、単にリゾート旅行気分で出かけたわけです。

ところが、街を散策していると、孫文記念館に出会い、孫文!? なんでマレーシアのペナン島に孫文の記念館があるの? この記念館のあるアルメニア通りって、何なのよぉ!? なんでペナンに、アルメニアが関係あるの? と疑問が湧きまくりました。

実は、孫文は清朝を打倒する資金を得ようと世界各地を転々と旅し、ペナン島にも滞在拠点があったのです。なぜ、ペナン島であったかは、この島に華人のコミュニティがしっかりと根付いていたからです。

またペナン島は英領だった歴史を持ち、イギリス人やフランス人、ポルトガル人、アルメニア人など、遠路ヨーロッパの国々の人々が足跡を残しています。ペナン島一有名なホテル「E&O(イースタン アンド オリエンタル ホテル」)を創業したのは、イラン出身のアルメニア人、サーキーズ兄弟。彼らはシンガポールの「ラッフルズ ホテル」を建てたことでも知られます。

日本人ももちろん無縁ではありません。1941年、日本軍はペナン島に爆撃を開始し、イギリスを追い払って占領した歴史を刻んでいます。戦前には、からゆきさんも暮らしていました。

さらにテレビを見ると、中国、インドにルーツを持つ人々に、トゥドン(ヒジャブ、スカーフ)を被ったマレー人のイスラム教徒の女性が和やかに同じ画面に映って談笑しています。

何? この人種、宗教を超えた、和やかな感じ、とびっくり、したのを覚えています

そして、帰国後。

間もなくして書店で目に飛び込んできたのが、新刊の新書として発行された『マラッカ海峡物語ーペナン島に見る多民族共生の歴史』(重松伸司著、集英社新書、2019年)。手が伸びますよね。ペナン島だけの歴史を描いた書籍は、一般書としては類書はおそらくなく、とっても興味深く読みました。

またペナン島はマレーシアの中でも華人の多いところで、ペナン島の中にも大陸の出身地別でコミュニティが築かれ、華人同士で争いが起こったこともありました。海を渡り、異郷の地でたくましく生きる華人に興味が広がり、『バンコク謎解き 華人廟めぐり』(桑野淳一著、彩流社、2019年)を購入しました。

当時、渋谷イメージフォーラムで没後10周年と称して特集上映されていた、マレーシア人の女性監督ヤスミン・アフマドの映画『タレンタイム』(2009年)も鑑賞しました。主人公のひとりは聾唖の少年。人種、宗教、社会的身分の壁だけでなく、さらにその壁を明瞭化でもするようにことばの壁を持ってきて、そのなかでマレーシアの人々が生きていくさまを、やさしい眼差しの下、繊細に描いていて、むっちゃ、いい映画でした。

こうして本棚には、『プラナカンー東南アジアを動かす謎の民』(紛失中)、『マラッカ海峡物語ーペナン島に見る多民族共生の歴史』『バンコク謎解き 華人廟めぐり』『海域アジアの華人街ー移民と植民による都市形成』(泉田英雄著、学芸出版社、2006年)などが加わりました。ヤスミン・アフマドについて書かれた書籍もあるので、めぐり逢えれば購入したいと思っています。

これを繰り返し、繰り返し……。旅先で興味を持ったことだけでなく、それは書評やネットの記事だったり、映画だったり、仕事を通してであったり、購入したきっかけはさまざまですが、現在のViaの本棚が出来上がっていきました。

自身にとっては前提あっての本がですが、お客様がその前提を共有しているわけではないので、わけのわからん本がいっぱい並んでいる状態になるのも無理からぬことなのです。

しかし、いざ旅をしよう(した)となると、普段は手に取らない国・地域について書かれた本を探しもするでしょう。そうすると、目に入らなかった書籍が急に視界に現れ始めます。それまでも、書店の同じ住所にあったにもかかわらずです。

これが旅の副次的な、しかし大きな魅力です。東浩紀さんの『弱いつながりー検索ワードを探す旅』(幻冬社文庫)にあるとおり、旅(観光)は新たな検索ワードを与えてくれ、ことばの環境を更新してくれます。

Viaは東さんの説く、複製不可能なリアルな旅を提供する術は持ち合わせていませんが、補助線をひいて、新たなことばを得る橋渡しはひょっとすると、できるかもしれません。どこかへ旅したいと思ったときに見えてくる一冊、未知なる世界との出会いがあれば、と思っています。

弊店でも、書店でも、図書館でも、本はいつもそこにあり、あなたさまの目にとまり、開かれるのを待っています。

Viaは時間制で1時間コース、3時間コースがございます。ただいまは様子見で1時間コースのお客様が多いので、そんなお客様にも1時間でお読みいただけるような、海外の絵本などサクッと読める本を今後そろえていければと、また異国が舞台の文学は、本で旅する、にはうってつけですが、まだまだ数が少なく、無知なので拡充してきたい、と思っています。

数時間でも読みきれない本がいっぱいあるので、以前から考えてはいるのですが、本の貸し出しも検討中。本のリザーブは、当店のしおりを挟んで、いまからでも喜んで承ります。

そして繰り返しますが、ご自分でお買い求めになられた本をご自由にお持ち込みください。Viaは、お客様が読書するための居場所です。ご来店をお待ちしております。



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