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動物病院での犬と猫の病気:下痢

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動物病院では毎日のように下痢の診察が行われています。病気の話はもちろんですが、ご家族が自宅で愛犬愛猫の下痢を発見したとき実際にどうすればよいのか? そのあたりを詳しくお話ししてい…
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動物病院での犬と猫の病気:下痢(1) 犬と猫はどちらが下痢しやすい?

千葉市で働く臨床経験17年目の獣医師です。 それでは今回より動物病院で診察されることが多い犬と猫の病気についてお話ししていきます。 まずは動物病院の毎日の診察でもっとも多いと言ってもよい病気、 それは 犬の下痢 です。 私の働いている動物病院の場合をお伝えすると、毎日犬の下痢の診察は何件かは必ずあります。 そして多い日は一日の診察の50%近くが下痢の診察 という場合もあります。 とにかく犬は猫と比べてとてもお腹が崩しやすいんです! 愛犬の下痢のため診察に来

動物病院での犬と猫の病気:下痢(2) 動物病院に行く前に知っておいてほしい大事な事

千葉市で働く臨床経験17年目の獣医師です。 ご自宅の愛犬愛猫が下痢をしたらまずはどうするか? 動物病院に行く前にご家族にぜひやっていただきたいこと それは 愛犬愛猫が下痢になった原因や経緯を考えてもらう ことです。 ・いつから下痢が始まったのか? ・便の回数がいつもより多いか変わらないか? ・便の形状は? ・何か変なものを食べた覚えはあるか? ・何か環境の変化はあったか? ・現在元気や食欲はあるか? などご家族が愛犬愛猫の下痢について分かっている情報をなるべ

動物病院での犬と猫の病気:下痢(3) 動物病院には便を持っていこう!

千葉市で働く臨床経験17年目の獣医師です。 前回のnoteでは 動物病院に行く前に愛犬愛猫の下痢に関する情報を集めておこう! という話をさせていただきました。 『それではいざ動物病院へ!』 と思われているご家族はもう少しお待ちください。 実はもう一つやってほしいことがあります。 それは 愛犬愛猫の最後にした便を動物病院に持ってきてほしいのです! そのため最後にした便はぜひ捨てずに取っておいてください。 よく便の写真を撮ってそれを診察室で見せてくれるご家族が

動物病院での犬と猫の病気:下痢(4) 動物病院の便検査について

千葉市で働く臨床経験17年目の獣医師です。 前回のnoteでは 愛犬愛猫の最後にした便を動物病院に持ってきてください! という話をさせていただきました。 今回からはいよいよ動物病院でのお話をしていきます。 ご家族から持ってきてもらった便を使用し、動物病院では主に以下の3つの便検査を行っています。 ① 肉眼的検査 ② 便検査 直接法 ③ 便検査 浮遊法 以下に3つの便検査に関して簡単に説明をしていきます。 ① 肉眼的検査 肉眼的検査はその名の通り、見た目から得ら

動物病院での犬と猫の病気:下痢(5) そもそも下痢とは?

千葉市で働く臨床経験17年目の獣医師です。 前回のnoteでは 動物病院での便検査の概要 について解説をしました。 今回は便検査の有用性についてより理解してもらう上でも そもそも下痢とはどのような状態なのか? についてお話をしたいと思います。 そもそも下痢とは 過剰な水分を含んだ便のこと を言います。 正常な便に含まれる水分の量は約70%と言われています。 これに対して水分を80%以上含む便のことを「下痢」と言います。 ちなみに「水下痢」と言われるような

動物病院での犬と猫の病気:下痢(6) 小腸性下痢と大腸性下痢

千葉市で働く臨床経験17年目の獣医師です。 前回のnoteでは 下痢とはどのような状態なのか? について解説をしました。 今回は下痢の治療をしていく上でとても大事なポイントである 小腸性下痢 と 大腸性下痢 の違いについてお話ししようと思っています。 そもそもですが、動物は口から食べ物を食べて胃や腸を通り、お尻から便を排泄します。 主に小腸では食べ物に含まれる栄養素(三大栄養素といわれるタンパク質、糖質、脂質)の消化と吸収を、大腸では主に水分の吸収と便の排泄を

動物病院での犬と猫の病気:下痢(7) 小腸性下痢と大腸性下痢の原因について

千葉市で働く臨床経験17年目の獣医師です。 前回のnoteでは 小腸性下痢と大腸性下痢の違い について解説をしました。 今回は 小腸性下痢と大腸性下痢の原因 についてお話をしたいと思います。 前回のNOTEでお話しした小腸性と大腸性の下痢の違いによって、大まかな部位の特定ができます。 そして実はもう一つ下痢の原因を特定するうえで大切なことがあります。 それは 急性な症状か、慢性な症状か ということです。 急性の下痢とは、突然下痢が始まりその症状も強く出

動物病院での犬と猫の病気:下痢(8)  下痢の診断方法について① 問診と身体検査

千葉市で働く臨床経験17年目の獣医師です。 前回のnoteでは 小腸性下痢と大腸性下痢の原因 について解説をしました。 今回より何回かにわたり 私が実際行っている動物病院での下痢の診断方法について についてお話をしたいと思います。 動物病院に下痢をしてしまった愛犬愛猫がやってきました。 まずは動物の顔色や呼吸状態などの見た目の様子を確認し、緊急性がないと判断されれば通常の診察を始めていきます。 (緊急性がある場合はゆっくり診察しているとそれだけ病態が進行するか

動物病院での犬と猫の病気:下痢(9)  下痢の診断方法について② 便検査

千葉市で働く臨床経験17年目の獣医師です。 前回のnoteでは 下痢の診断方法の 問診と身体検査 について解説をしました。 今回は下痢の診断における便検査についてお話ししたいと思います。 3.便検査 身体検査の後は便検査を行います。 便検査に関しては以前概要をお話ししました。 ご覧になったことがない方は参考にしてください。↓ ご家族が便を持ってきているときは、まずは肉眼的検査により見た目から得られる情報を得ます。 便の肉眼的検査に関しては教科書的には次のよう

動物病院での犬と猫の病気:下痢(10)  下痢の診断方法について③ 血液検査

千葉市で働く臨床経験17年目の獣医師です。 前回のnoteでは少し脱線してしまい、 動物病院の一次診療と二次診療の違い についてお話をしました。 今回は話を元に戻し、 下痢の診断における血液検査についてお話ししたいと思います。 4.血液検査 前回のNOTEの繰り返しになりますが、私のような一次診療を行っている町の動物病院では、大部分の下痢がここまでの問診、身体検査、便検査により原因の推測ができ、その原因に合わせた治療をすることで下痢は治ってくれます。 ここまでの

動物病院での犬と猫の病気:下痢(11)  急性膵炎について

千葉市で働く臨床経験17年目の獣医師です。 前回のnoteでは 血液検査でわかる下痢につながる病気の「中毒」 についてお話をしました。 今回は血液検査でわかる下痢につながる病気の「膵炎」についてお話をします。 2⃣ 膵炎 何かしらで膵臓に炎症を起こし、強い腹痛と吐き気下痢が止まらなくなってしまうとても怖い病気です。 そもそも膵臓の本来の役割とは ・消化液の分泌 ・インスリンなどのホルモンの分泌 になります。 その膵臓が何らかの原因で炎症が起きると、膵臓から分

動物病院での犬と猫の病気:下痢(12)  慢性膵炎について

千葉市で働く臨床経験17年目の獣医師です。 前回のnoteでは 血液検査でわかる下痢につながる病気の「急性膵炎」 についてお話をしました。 今回は慢性膵炎についてお話をします。 前回お話をした急性膵炎は、強い吐き気や水下痢などが続くので診断されることも比較的多い病気です。 若い犬や猫でも突発的に起こる可能性があります。 一方の慢性膵炎は主に老犬、老猫に多い病気です。 慢性膵炎は、膵臓が萎縮したり線維化することによって起こる炎症で、長期間かけてゆっくりと進行して

動物病院での犬と猫の病気:下痢(13) 蛋白漏出性腸症

千葉市で働く臨床経験17年目の獣医師です。 前回のnoteでは 慢性膵炎 についてお話をしました。 今回は血液検査でわかる下痢につながる病気の「蛋白漏出性腸症」についてお話をします。 3⃣蛋白漏出性腸症以前にもお話ししましたが、大部分の下痢がここまでの問診、身体検査、便検査により原因の推測ができ、その原因に合わせた治療をすることで下痢は治ってくれます。 そしてここまでの治療で治らなかった下痢に関しての次のステップとしては血液検査を実施することになります。 蛋白漏

動物病院での犬と猫の病気:下痢(14) 蛋白漏出性腸症のつづき

千葉市で働く臨床経験17年目の獣医師です。 前回のnoteでは 蛋白漏出性腸症 についてお話をしました。 「低アルブミン血症」の鑑別診断の結果、やはり蛋白漏出性腸症が一番疑わしい。 そうなった場合は、ご家族に次の段階へのお話をするようになります。 それは 内視鏡による病理組織検査を行うかどうか のお話です。 なぜ病理組織検査を行う必要があるのか? これからその理由を説明したいと思います。 難しい病気の名前なども出てきますが、そのあたりは読み飛ばしてもらっ