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行動診療科の受診の流れ

今回は行動診療科を受診する時の流れを説明します。私たち獣医師がどんな評価を行うかも少しご紹介します。なお、ここに書く流れや評価方法は私個人のスタイルで、行動診療科の獣医師それぞれで少しずつスタイルは異なります。
(診療風景の写真は飼い主の許可を得て掲載しています)

診療前の準備

①予約する

行動診療科は基本的に予約制です。動物病院に連絡し予約を取っていただきます。初診はご家族皆さまから情報をいただきたいので、できれば家族全員でご来院ください。

②事前に問診票に記入する

初診の前に日本獣医動物行動研究会統一フォーマットの問診票に記入していただきます。問診票の質問事項は問題行動の詳細、ペットがこれまで育ってきた経緯、現在の暮らし方、これまで問題行動を修正するために試したことなどです。全て回答するには15〜30分ほどかかります。問診票はご自宅で記入し、受診日の前日までにご提出いただくようお願いしています。

③その他の準備

必須ではないですが、以下の準備があると診察がスムーズです。
・過去に実施した血液検査等ペットの健康に関するデータがあればご準備ください。
・慢性疾患がある場合は、それを考慮しながら治療プランを立てる必要があるため、事前にかかりつけ動物病院で紹介状を作成してもらってください。
・もし撮影できたら自宅での問題行動を動画に撮影してください。噛みつく、引っ掻く、唸るなどの攻撃行動は動画撮影は危険ですので結構です。
・ペットの好きなトリーツやおもちゃがあれば診療時に持参してください。

初診 〜診断〜

初診では問題行動の診断とその説明、初回治療プランのお話をします。診療には2時間から2時間半かかります。
診断は、ペットが問題行動をする動機(心理)を見極めながら、獣医臨床行動学の知見に基づいて下します。

①問診

ペットは自ら気持ちを語ることができないので、ペットの問題行動の動機はペットの行動や周辺情報から推論していくことになります。必要な情報の多くは自宅で見られることなので、私たち獣医師はご家族が自宅で観察したことを聞き取りさせていただき(問診)、情報を得ます。情報は事前に問診票である程度いただきますが、その内容の確認と不足情報の追加聴取は診療内で行う必要があります。問診には大体30分〜1時間ほどかかります。

②行動観察

犬や猫の待合室、診察室、診察台それぞれの場所での振る舞い、ボディーランゲージ、トリーツへの反応(食べ方)など、受診時に自然に生じる行動からは、気質や特性に関する有用な情報を得ることができます。じっと見つめると犬も猫も緊張してしまうので、さりげなくを心がけながらも、細かく観察しています。この観察情報は診断の妥当性検証のために重要です。

診察台でのチュールの食べ方を確認

③身体検査

問題行動の原因が病気などの身体的な要因ではないかを確認します。例えば椎間板ヘルニアによる疼痛からの攻撃行動などは中高齢の犬で比較的よく見られます。他に皮膚疾患の掻痒、視覚・聴覚の低下、ホルモン疾患、てんかん発作、先天性の奇形、栄養的問題などが比較的よく遭遇する病気です。
犬や猫が許容してくれれば、視診、触診と、簡易の聴覚・視覚検査、神経学的検査を行います。拒絶する項目については、再診以降に回します。初診は通常犬も猫もとても緊張しているので身体検査は無理の無い範囲でとしています。

神経学的検査を行なっている様子

初診 〜診断の説明〜

問診と検査が一通り済むと、お時間をいただき診断書をまとめさせていただきます。それを基に診断名の説明、すなわち「なぜ問題行動をするのか?」という心理の説明をさせていただきます。この疑問を解消することが行動診療科の大きな役割の一つです。ご家族が動機を理解することは問題行動の治療の第一歩でもあります。

初診 〜初回治療プラン〜

行動診療科の治療は通常半年〜1年ほどかかります。その間は同じことを繰り返すのではなく、少しずつ課題を進めステップアップしながら目標到達を目指します。初回治療プランはその長い過程の第一歩です。

問題行動の治療方針は臨床行動学分野で築き上げられており治療は基本的にそれに則りますが、具体的なプランについては犬や猫それぞれの気質、特性、各家庭の事情に合わせ獣医師がオーダーメイドで作ります。
初回でどこまで進めるかは個々のケースで異なります。残念ながら初回の取り組みでは目に見えての効果は得られないということもありますが、ここで挫けず治療に取り組んでいただくと通常は半年以内には効果は出てきます。

再診

再診は治療初期は2週間〜1ヶ月ごとに、症状が安定してきたら数ヶ月おきに行います。再診は対面診療、オンライン診療、電話診療、メール診療と多様な方法があり、状況に合わせて選択していきます。(獣医師ごと動物病院ごとに選べる方法は異なります。)診療には30分〜1時間かかります。

診療内では、提案した治療プランの進みの確認と、次のステップの説明を行います。提案した治療プランがご自宅で実施困難であった場合は、一緒に確認し課題のクリアを目指したり、他の方法への切り替えをご提案したりします。

一緒にクリニックの外を散歩し屋外での情動反応を確認

問題行動の治療は他の診療科の治療と少し異なり、「ご家族が行うこと」がとても多いです。自宅環境の整備、日課や接し方の変更、トレーニングなどが治療の中心となります。お薬を使用することもありますが、それだけ問題が解決するということは殆どありません。ご家族にできるだけ無理のないようゆっくり進めていきますが、時間面、労力面でご家族の負担は避けられません。

トレーニングは診療内で獣医師が説明してご家族にご自宅で取り組んでもらう形になります。ドッグトレーナーと連携しているところもあり、その場合ドッグトレーナーのサポートを受けながら取り組むことも可能でしょう。しかし問題行動は、深刻であればあるほど、ご家族とペットとの関係づくりなど「他人では分担できないこと」が重要になってきます。ご家族自身の取り組みがとても大切です。
治療の内容についても追々ブログ内でご紹介したいと思います。

この記事を読んで行動診療科の診療を受けてみたいと思った方は、前回の記事で行動診療科について紹介しているので併せてご覧ください。

また私自身の診療場所などについてはこちらのホームページをご覧ください。診療のための問診票、紹介状のフォーマットはこちらからダウンロード可能です。

前回と今回は行動診療科の説明をさせていただきました。
ブログを読んで行動診療科に興味を持った方がすぐ参照していただけるように、そして自己紹介の意味合いも込めて、最初に載せさせていただきました。

次回から、このブログのテーマである犬や猫の見ている世界、感じている世界を紹介していきたいと思います。

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