見出し画像

閑話休題「岸辺露伴MoMAへ行く」~記憶の固執に固執せよ~

「美術なんか興味ない」
そんなあなたも時計がグニャリと溶けたような絵といえばわかるだろう。
溶けた時計をモチーフにしたシュルレアリスム絵画で有名になったサルバドールダリの名作が「記憶の固執」である。

そんなに有名な絵だから偽物があったらすぐわかるだろうと思うかもしれない。実際にネット上にあがっている絵、美術書に印刷されている絵を複数並べて見ると違和感を感じる人もいるのではないだろうか。

これが私の手元にある「西洋絵画の巨匠 (3) ダリ/岡村 多佳夫著/小学館」に掲載されている「記憶の固執」である。

そしてこれが某WEBサイト掲載の「記憶の固執」である。

「オイオイオイオイ、ずいぶん違うじゃあないか。」
というのが私の感想だが、皆さんはどう感じただろうか。
もちろん印刷やディスプレイでの表示では正確な色は表示されないというのは美術界の常識である。

それにしてもだ。

ネットサーフィンで集めたネット上にあふれる「記憶の固執」の画像236点、および国会図書館にある書籍を調べた画像38点から不鮮明なもの147点を除いて、調査した結果、色の明暗、濃淡だけではない違いに気づいた。
よくわかる特徴は次の3点
1.空のグラデーションの空色と黄色の間に白が挟まっているか否か。
2.ダリのサインの有無
3.画面中央の生物が白いものと茶褐色のものがある。
この特徴によって世の中にあふれている「記憶の固執」は少なくとも2種類に分類されるということが判明したのだ。

この点についてどのように考えるか我々はダリの著作権を管理するダリ美術館および「記憶の固執」が飾られているニューヨーク近代美術館(MoMA)にEメールにて連絡を取った。
あまり期待はしていなかったが、10日後なんとMoMAの広報担当Tim Brown氏から返事が来た。

『非常に面白い話ですが、残念ながら私は印刷による色彩の違いだと考えています。』
それはそうだろう。やはり、にわか美術ヲタクの考えるようなことは誰もが通る妄想の域を出ないのだろう。
しかし、メールの文章は以下のように続いていた。
『考えられるとすれば、サルバドールダリの作品は著作権が切れていないため、商用に掲載しようとすれば権利料をダリ美術館に支払わなければなりません。ひょっとしたら「記憶の固執」の模写作品を掲載することで権利料を支払っていないケースがあるかもしれません。権利関係の厳しい現在では考えにくいことではありますが。また一般的な話にはなりますが、古典作品であれば修復の過程で作品自体が変わってしまうものも珍しくありません。』

なるほど。YouTubeで解説動画を上げるとしても、著作権の切れていないピカソ作品などはピカソ美術館に権利料を支払わなければいけないのは有名な話だ。
「古典作品の修復」についてはフェルメールの「窓辺で手紙を読む女」が修復によって背景にキューピッドの絵が出現したという事例もある。しかし、ダリは近代作品。そこまで改変や修復されるとは考えにくい。
さて、もし商用掲載に耐えられるほどのスーパーコピーともいえるような贋作があるとしたら。誰が何のために。

居ても立っても居られず、我々はニューヨークへ飛んだ。
ニューヨーク近代美術館で見た「記憶の固執」は思いの外小さかった。手持ちの画集と色合いなどを比較していると後ろから声をかけられた。
そこにはTim氏とひとりの紳士がいた。彼の名前はLeon Black。
ニューヨーク近代美術館で長年理事を務めていた男だと紹介された。

ニューヨーク近代美術館(MoMA)にて展示中の「記憶の固執」

彼の話によると、
「ダリ美術館が権利を持っているとはいえ、現物はニューヨーク近代美術館に存在しているため、画像の入手にはニューヨーク近代美術館で撮影しなければならない。もちろん、その手間も手数料もバカにはならない。そこで「記憶の固執」を全て自由に使うことができるようにするためにダリ美術館自身がもう1つの「記憶の固執」を作ったことがある」ということ。
「そして、それは現在日本にある」ということを聞いた。
「もちろん全ては噂に過ぎないが。」と付け加えるのを忘れなかった。

なんとまた日本に逆戻りとは。

ちなみに、日本は民法192条による善意の即時取得が認められているため、「所有権の怪しい美術品について一度日本での取引を介することで正規の所有者を作り出すことが可能」というのは『闇マーケット』でよく言われる話である。
そして日本に戻ると共に捜査も振り出しに戻った。


我々は期待と不安を抱えながら新たな手がかりを求めて日本に帰国した。ニューヨークでの出来事が何を意味しているのか、Leon氏の言葉に秘められた謎を解明するために、再び調査を始めることにした。

日本に戻り、さっそくダリの名画「記憶の固執」について詳しく調べ始めた。我々はダリ美術館に連絡を取り、その「もう1つの記憶の固執」が存在するという情報の真偽を確かめようとした。しかし、やはりダリ美術館側からは一切回答は得られず、事実の証拠を掴むのは容易ではなかった。

一方で、我々はダリの作品に関する資料を徹底的に調査し、ダリが過去に制作した他の作品においてもそのような別バージョンや著名な模写または贋作が存在するのかを探り始めた。その中で、ある噂を耳にすることになった。それは、ダリが自身の作品を模写することで知られていたこと、そしてその模写作品が一部のコレクターや美術愛好家の間で出回っていたことに関するものだった。

「なんてこった。本人の手によるモノだったら単なる贋作という話じゃあないぞ。どうりで、そこには本物にしかないリアリティがあるっ!」

我々は模写作品に着目し、ダリの名画「記憶の固執」の模写の中に真作として流通しているものが存在する可能性を追求した。通常模写は美術の勉強として行われるものと美術館の土産物として売られているようなものがほとんどである。しかし、今回の模写作品には確実にダリ自身の手によるものが含まれており、これが複数の「記憶の固執」の違いを説明する鍵である可能性があると考えた。

綿密な捜索の末、我々はついにそのような模写作品を発見した。それは、日本の某美術コレクターによって所蔵されていたもので、ダリ本人が制作したと言われる「記憶の固執」の別バージョンであった。この模写作品は、元の作品とは微妙に異なる色彩やディテールを持っており、我々の調査結果とも合致していた。 某美術コレクター氏の証言によって、この模写作品がLeon氏が言及していたもう1つの「記憶の固執」である可能性が高いことも明らかになった。

その作品を是非観てみたい。そう思う方も多いだろう。通常そのようないわく付の美術品は美術館の倉庫などに眠っていることが多い。この作品も某私立美術館の保管庫で現在も眠っている。

ここまで読んでいただいた上で申し訳ないのだが、その場所をここで明らかにすることはできない。




つくりばなし

関係者諸氏のご厚意で一枚だけ撮影させていただいた「もう1つの記憶の固執」と共に

この記事が参加している募集

404美術館

夏の思い出

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?