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第八話 産業医との交渉

熱い思いを持って、ベンチャー企業で働く人たち。
縁の下の力持ちである人事の方々がこのような人たちを支えている。
ベンチャー企業に入社2年目の江川千里の産業医採用への挑戦は続く、、、

※このシリーズを初めて読む方はこちらからご覧ください。


これは産業医に限った話ではないが、人事労務である千里は、従業員の採用の際には必ず、

「一度の面接では相手の人柄がわからない」
「求めるスキルがあるか、その練度がどのくらいなのかがわからない」

という問題があることを痛感している。

お金を払う以上はなるべくいい人材を採用したいが、
相手の<人柄>と<スキル>は、まさしく運みたいなもので、実際に働きはじめてみるまで関知できない。

その点、唯一、事前になんとかすることができるのが<人件費>なのだ。

「やっぱりダメもとで交渉してみるしかないわね…」

というわけで、千里は以前従業員に紹介してもらった産業医と再度Zoom相談を行ってもらうことにした。

その産業医はこちらの要請に快く応じてくれた。ありがたい。いきなり値引き交渉というのも行儀が悪いので、まずは世間話の延長で紹介会社の料金について聞いてみることからはじめる。医師はさすがに産業医だけあってその辺の事情に詳しかった。

「紹介会社に支払う料金は月に4~7万円くらいだと思いますよ。だいたい料金体系が決まっていて、これは私たちにも動かせないんです」

やはり紹介会社の値引き交渉はシステム的に無理なのか。最初から予想できていた千里は、ふと思ったことを聞いてみた。

「先生も紹介会社に登録していらっしゃるんでしょうか?」

ええ、と医師は頷いた。

「とはいえ、紹介会社に頼らずこうして自分で動くことも多いです。あそこは紹介料を取ったりサポートやフォロー体制を充実させた上での値段設定なので、企業によってはお財布的に厳しいこともあるんです。個人であればなにかと融通も利かせられますしね」

紹介会社だと無理。個人であれば融通が利かせられる。
やはりここだ、と千里は思った。

「先生個人と契約をする場合、弊社に対して何かしら調整していただくことは可能でしょうか」

どきどきしながら切り出すと、医師は千里の思いを汲んでくれたようで、一つ提案をしてくれた。

「2ヶ月に1回、30分の訪問であれば、月額3万円でお引き受けできますよ」

えっ。
千里はぱちりと瞬いた。
思っていた以上の譲歩である。ベンチャー企業にとってそのお値段は非常にありがたい。だが。

「2ヶ月の1回の訪問で全てカバーできるのでしょうか…」

産業医の仕事は「職場巡視」「健診管理」「産業医面談」と多岐に渡る。<2ヶ月に1回、1時間>ではなく<2ヶ月に1回、30分>で本当に大丈夫なのだろうか?

「貴社の規模なら職場巡視は10分で終わりますし、健康管理も10分ほどで完了できます。産業医面談は従業員人数50名程度であればほとんど発生しませんし、若いベンチャー企業であれば2ヶ月に1回の訪問で充分カバーできますよ」

そうなのか。千里は医師が話す内容に目から鱗が落ちる思いだった。
実際、2ヶ月に1回の訪問で月額3万円というのはかなり魅力的だ。
ダメもとで交渉してみるって、すごいし強い。そんなことを思いながら千里は笑顔でZoom相談を終わらせた。

■次回予告

紹介会社には一旦待ってもらい、交渉した知人産業医に一度会社に来てもらうことにした千里。最終的に選んだのは…。<次の話にすすむ>


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