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二拠点生活始めちゃう?物件探しの長く面白い旅

千葉がいいと夫がいい
熱海がいいとわたしがいう。

庭でバーベキューができるくらいの広いところ。が夫の希望。
古民家をかっこよくリノベした雰囲気ある家に住みたい。がわたしの希望。

要するに、深い考えはなく、ただただ雰囲気重視。東京と行き来しやすい場所、ということだけが条件だ。ちなみに、どちらの土地にも何の縁もゆかりもない。

二拠点生活がしたい、と夫が言い出したことに端を発する。コロナでテレワークが増えて出社が減ったのが大きなきっかけだ。週末とテレワーク時は都会を離れてみたいと。
コロナは収束しそうな気配になってきたが、夫の会社はテレワークは継続する方針とのこと。

今時の若者のすなる二拠点生活といふものを、我々もしてみむとてするなり。

まあまあ都会に夫婦二人暮らしのわたしたち。わたしにとってもわくわくする申し出だ。日常生活に刺激が欲しい今日この頃ゆえ。
流行りに乗ってみるか。


そんなわけで物件探しが始まった。とはいえ、切羽詰まった状態ではまるでないので、ゆるい。遅い。なにしろ、必要に迫られているわけではないのだ。
ネットで見かけていいなと思った物件にあれこれ思いを巡らせ、ひとしきり夢を膨らませ、値段をみて諦めるというパターンを繰り返す。

そんなふうに悩んだ時の座右の銘がある。
「人生成り行き」by立川談志

人生は面白い方を選ぼう。動こう。気になったところは実際に見に行くことにした。

1 千葉の物件 

古民家をリノベーション済みという物件を見に行くことになった。山武市ってどこ?って思ったけど、東京駅から早い電車に乗って、乗り換えて1時間半くらい。昔、キャンプで行ったところの近くだ…。

道路沿いにずっとと生垣が続いていると思ったら、そこが目当ての物件だった。
広い、広すぎる。都心の幼稚園くらいは余裕でありそうだ。奥に瓦屋根の平屋の大きな家がどーんと存在感を示している。いかにも昔ながらの農家さんという感じ。

車が置いてあるのに、人の姿が見えないので「こんにちはー」と声を張り上げると、不動産屋さんが、屋根の上からひょっこり顔を出した。不具合がないかのチェック中だったらしい。さすが、田舎の不動産屋さんは飾りっ気がなくてワイルドだ。都会の不動産屋さんは、たいていスーツ姿で慇懃でタバコ臭い。

玄関を開けると広めの土間。その先の広いリビングには憧れの薪ストーブ、高い天井、存在感のある梁、繊細な彫りの欄間。広い和室。外の古さと、中のモダンさの印象がまるで違う家だ。

古民家というと、傷だらけだけど、時を経たテカリが味になっている床。木の窓枠から差し込む遠慮がちな日差し、と思ってたら。
違う、全然違う。

広い。明るい。とにかく明るさに圧倒される。庭に面しているところは全部開け放せるので、陰影のないこと、さすが千葉!部屋にいても日に焼けそうだ。

建物的には申し分ない、と思ったけれど、即決に踏み切れなかったのは、駅からの距離と、下水道が完備じゃなかったところと、天井近くでぶった切られている太い柱が1本リビングにあったところ(建物の強度的にはもちろん問題はないらしいけど、ビジュアル面で気になった)、近隣全部が農家さんでご近所づきあい的なものはどうなのだろうということ…。あと、建付けの悪そうな雨戸の開け閉めが面倒そうなところ…など、まあそこまで気にしなくていいことをぐだぐだ考えたのは、まだ1軒目だし、他のところも見てみてからでもいいだろうと思ったから。
けれど、もたもたしているうちに、売れたという連絡がきた。

こんなのんびり電車で向かった。


2 熱海の物件 

おしゃれな古民家リノベ物件が、おしゃれな不動産紹介サイトに載っていたのをわたしは見逃さなかった。
逃してはいけない気がして、すぐに見に行く段取りをつけた。
平屋で駅から徒歩圏内、というわたしの理想の条件とは異なるけれど、写真の内装がかなり好みなので、相違点には強く目をつぶる。

駅から車でかなりかなり山をのぼっていったところにその物件はあった。すでに、別荘地。
観光で行った時には気づかなかったけれど、住処として見てみると気づくことがある。
熱海は海だけじゃない。山もごく近いのだ。歩いてみると、坂の多さに驚く。ほぼすべての家は、急な階段を上った先にあると言っても過言ではない。
旅先でなら思い出話にもなろうきつい急坂を日常とするには、足腰を相当鍛える必要がありそうで、ちょっと萎える。

山沿いにたたずむ山荘のような2階建ての物件は、シックな見た目がとても好みだった。もちろん玄関までには階段を上る。
大きな窓からは、山々が臨めて落ち着く。ただ、内装は、リノベーションの度合がなんとなく中途半端な感じ。がらんと広いリビングは、シンプルで使いやすそうと言えばそうだけど、蛍光灯で照らされた部屋は、町内会の集会所のような冷たさもあり、住む場所としてはピンとこなかった。

部屋の電気が蛍光灯なのが好みじゃない、と言ったら「そんなの自分で替えられるんだから不動産屋さんの前で言うな」と夫になじられたけど気になってしまったので仕方ない。
決定的にマイナスのポイントだったのは、すぐ裏が山だということ。後ろの山の斜面付きの物件だったのだ。地震が多発している折、やはり気になる。このご時世、山を持っている方がリスクなんじゃないだろうか。まあ、何十年もその山に立っている大きな木が、すぐにどうこうなる可能性は少ないんだろうけれど。

「この山の斜面を何に使えばいいんでしょう?」と聞いたら「うーん。しいたけ育てるとかですかねー」って不動産屋さん。しいたけは原木栽培がうまいけど、そりゃ。しろうとが手を出せるもんなんですか。
ちょっと保留。

最寄りの駅は小さくてかわいい。


3 千葉の物件

上総一ノ宮。サーファーたちにとって人気の場所で、東京オリンピックではサーフィンの会場でもあった。そんなわけで最近はいい気になっているらしい。物件価格的に。

駅からして、リゾート感があった。
ちなみに海の方へ向かうと、白やブルーを基調とした家が並んでいて、ここはハワイ?西海岸??という雰囲気。
千葉なのに。
もちろんそういう家の広い芝生の庭には大型犬が遊び、軒下にはウェットスーツが干してある。いかにもいかにもで、期待を裏切らない。おしゃれなカフェにも事欠かなそうだ。

ただ、わたしたち夫婦は、サーフィンはおろか、海のレジャー全般に無縁なのである。楽しいと思ったのは、潮干狩りくらいだ。体質的には九十九里より木更津なのだ。

しかし駅を挟んで反対側には、そんな浮かれた西海岸の風はまったく吹いていなかった。そして、わたしたちの目指す物件はこちら側にあった。上総一ノ宮という名前の由来は、そうお宮。物件は、その上総の国の一の宮、玉前神社からそう遠くない落ち着いたところにあった。

千葉の物件のいいところは、車を置く場所に困らないというところ。この物件も、どんな方向に停めても、2,3台は余裕で入りそう。
田舎のおじさんの家にきたような感じの見た目の物件でちょっと好みとは違う。庭には、きれいに刈り込まれた植木があり、灯篭がある。それなりに整った日本庭園だ。
家ももちろん和風建築。柱や天井や欄間など、素人目にも、いいもの使ってますね、丁寧な仕事してますね、というのがわかる。ただ、水回りを中心に全体的に手を入れる必要があって、自分の好きなテイストにするには、かなりお金をかける必要がありそう。

さらには和室に、神棚と仏壇が鎮座してらっしゃいまして、どうしたものかどうしたものか。
「外国の方はそのままインテリアとして楽しんでいらっしゃいます」と言われても、外国の人じゃないし。ちなみに、神棚をなくすときには、神主さんを呼ぶのが一般的だそう。

不動産屋さんが申し訳なさそうに「猫を飼っていたそうで、この辺りの柱に傷が…」と言っていたけれど、そこは一番愛すべきポイントだった。

ちょうど庭の梅の木が満開で、風情はあったけれど、お手入れが大変なのは一目瞭然。わたしたちにはtoo muchな物件ということでこちらは決定ならず。
屋根を見上げると、玄関の上の瓦屋根に前の持ち主様の苗字の入った瓦と大黒様が乗っているのに気づいた。やっぱり無理。

ご近所の様子はどうだろう、と道の向かいの魚屋さんに行ったら、すかさず「そこの家を見に来たの?」とお店のおばさん。そうか、そういう土地柄か。「いい家でしょう。でも、ちょっと高いよね。」とそこは小声で。そういう感じ、嫌いじゃない。

近くのお寿司屋さんでランチ。海の街の利点。



4 千葉の物件

古民家じゃないけどよさそうな家がある。と見に行ったのはいすみ市の物件。
民家しかない淋しい道だけれど車通りはそこそこある、そんな道沿いにある物件だった。近くにあるお店ははうなぎ屋さん一軒のみ。

敷地の広さには、ちょっとやそっとじゃ驚かなくなっていたのだが、今回は驚いた。
敷地の真ん中に大きな木があり、その周りのの芝の部分がドッグランになっている。
ドッグランなんて、公園とショッピングセンターでしか見たことないぞ。その昔、ドッグレース場と勘違いしていて、いつになったらレースが始まるんだろう、とぼんやり眺めていたあの、ドッグランだ。
素敵。けれど、うちには犬はいない。むしろ苦手。

2年前に建てられたばかりのモダンな家は、ウッドデッキにサンシェード。見た目も素敵だし、中も使いやすそうだし、THE注文住宅という感じのこだわりが随所に感じられる建物。

千葉はちょっとと思っていたわたしだけれど、古民家がいいと思ってたわたしだけど、正直心が動いた。
夫は、キッチンがIHなこと以外は完璧、とかなり乗り気。わたしもドッグランでミニブタでも飼ったらかわいいかな、わたしがハンモックで揺れててもいいな、なんて思い始めた。

ただ、どうしてこんな素敵な物件をすぐに手放したの?という疑問もわいてきた。

近所に面倒な人がいるとか?それともあの井戸に何か…?そう、家の雰囲気にはまったくそぐわない井戸が敷地のはじにあったのだ。丸く石が積んである穴の、かなり深いところに黒く水面が見えた。

翌週に熱海の物件を見に行く予定だったので、それと比べてからにしよう、と思っていたら、1週間もしないで決まってしまったとのこと。さすがにいいと思う物件はみんないいと思うのだ。

ちなみに、井戸をふさぐときには、神主さんを呼ぶそう。

波はいつまでも眺めていられる系。



5 熱海の物件

思い描いている古民家というのはなかなかなくて、中途半端に手が入った中古住宅が多いことがわかってきた。この物件もそうだった。
坂を上り息がきれたところで、さらに追い打ちをかける階段をようやく上ったところにある平屋の物件は、なぜこんな間取りなんだという不思議な間取り。
もう使わなくなって日が経っているのだろう。部屋のあちこちに虫の死骸があって絶望的な気分で部屋を見て回る。

魅力的だったのは、リビングからの山の眺め。それから外廊下の先にあるお風呂。タイルが昔のままで、レトロな雰囲気を残していて、しかも温泉が出る。
かなり手を入れれば好みになるんだろうか、という期待が持てる。持てるぞ。持っているぞ。


タイルとお風呂の形に心を鷲掴みにされた



6  熱海の物件

インターネットで物件情報を見て、来たー!と思った。わたしの探していた木造平屋の築年不明の趣ある建物。これこれこれこれ、これよこれ。
興奮しながら見に行った。
崖上に立つ、部屋から海が見える建物。

不動産屋さんが鍵を開ける。どうぞ、と言われて、いざ家の中へ。
あれ、おばあちゃん、出かけちゃって留守なの?というくらい、生活感が残っていて、思わず、おじゃまします、と声をかけてしまう。

クリーニングから戻ってきた洋服、テーブルの上の食器、挙句の果てには家族写真、孫が描いたと思しき似顔絵、仏壇の中もそのまま…。
人の家におじゃましに来た感じしかしない。

多分、お住まいになっていた方が亡くなって、すぐに売りに出されたのだろう。そう思ってもいやな感じはなかったのだけど、せめてある程度は片付いていないと、まったく自分達がここで生活する場合のイメージができない。

とはいえ、建物の雰囲気、台所の調度や天井、年季の入った床や柱のテリ、手を入れれば、かなりいい感じになるのではないだろうか。と思ったら、不動産屋さんが首を横に振った。
「戸を閉めても、壁との間に隙間ができてるんですよね。それから、建物の半分は床が傾いてますね」
リフォームでなんとかならないんですか、と聞いたが、「うーん、ここは難しいでしょうね」とのこと。
ならばなぜ、サイトに載せた…、という言葉はグッと飲み込んだ。

夫は床の傾きを確認しようと、床に置いてあったゴルフボールを手にしようとしたら、それは棒の付いた肩たたきで、「うわっ、死んだおじいちゃんの触っちゃったよぉ」と悔やんでいた。

庭に出ると、雨樋には猿のものと思われる小さな足跡がついていた。誰も取ることのない夏ミカンがたわわに実っていた。

残念だけど、ここは諦める以外の選択肢がなかった。


東洋のモナコ、熱海。


他にも、不動産屋さんのお勧め物件(もちろん、お値段は高め)や、リノベ前のお化け屋敷のような朽ちかけている古民家を見たりもしたのだけれど。いずれも、帯に短したすきに長し。


さて、いつまで悩んでもしょうがない。完璧に好みの物件などない、ということは十分にわかった。
ということで、結局、わたしたちが選んだのはどれでしょう。

熱海の、坂と階段の上にある、中途半端に古い、謎の間取りの、虫の死骸のいっぱい落ちていた物件だ。
山の見える風景と温泉は、マイナス点を物ともしない魅力があった。

気に入らない部分は、リフォームの会社の人が変えてくれるに違いない。なんならわたしたちもやるし。左官体験もしたし。むしろやる気満々だ。
虫は夫がとうにかするだろう。
というわけで、ウキウキと購入を決めた。

これにて、意外と楽しかった物件内覧の旅は終了した。実際に物件を見に行き始めてから、半年ほどの旅だった。


もう、引越しているので書くけど、熱海の生活は、やっぱり坂と階段がキツい。ものすごくキツい。けれど、楽しい。
はあはあ言いながら坂を上りつつ、千葉の海沿いの町だったら、ずっと平らだったなあと・・・と思うこともある。きっとどこも住めば都だ。

けど、ね、そのうち、今の選択は必然になると思うのだ。それが熱海。わたしたちの選択。

おしまい

***

その後の引越しの騒動についてはもう書いてしまったので、これからはリフォームと熱海での生活について綴っていきますよ。














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