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夫が脳梗塞になったときの話 その8

ストレスがたまってきた

リハビリ病院に転院して1週間。
相変わらず、夫は飲み込みの練習が続く。
嚥下リードというゼリーを口に含んでごっくん。だけど、ごっくんまではできても喉から下にはいかないので、口から出す。それの繰り返し。

部屋の人ともまったく仲良くなる様子もない。
ただ、常に大声で誰かの名前を叫んでいるおじいさんが叫んでいる名前が、奥さんでも家族でも看護師さんでもない、誰だかわからないという情報だけは得たようだった。

ストレスが溜まってきているのは、よくわかった。
わたしが着替えを持って病院に行くと、
「持って帰る分はそこにあるから。帰っていいよ。」とすぐ追い出しにかかる。

親に対してもそうだった。今までちゃんと向き合ってこなかった息子と(今更)腹を割って話そうと、ほとんど毎日のように病院に来る義父母に、はらはらするほど素っ気ない。

あげく、「親に、来ないでって言ってくれない」とわたしに言う。

言えるわけないじゃないか。

義妹を通じて、「大変だから来なくていいって言ってるよ。あんまり心配かけたくないんじゃない。」とやんわり伝えてもらったが、逆に遠慮してると受け取ったようで効果はなかった。

ピリピリ。

友人たちからお見舞いに行きたいとの話もあったけれど、インフルエンザが流行中の時期だったので、病院が家族以外の面会を禁じていた。
わたしはちょっとホッとしてた。おじいちゃんおばあちゃんと同じ入院着で、鼻からチューブを挿してる夫を見せたくないという気持ちが強かった。

そんなわけでSNSだけが夫の楽しみ。
ろくに話をしない分、Facebook経由で夫の状況を知り、それを義妹経由で義父母に伝える、なんてこともあった。
夫が家にある写真のデータをスマホに送って欲しいといってきた。もちろんFacebook用だ。
送ったところ「ありがとう」という返事があった。
ちなみに、ありがとうという言葉をもらったのは、このときだけだ。

ある日、義母が持ってきたのは親戚からのお見舞だった。
親戚みんなに伝えたんだな。そんな袋の数。
「おじさんが、嫁さんが血圧の管理もしてくれなかったのか、って言ってたわ」って言う言葉とともに渡された。
ああ、そう言いたいんだ。
でも、わたしがいくら何を言ったって、聞くような息子じゃなことはご存じですよね、っていう言葉は飲み込んだ。

わたしだってストレス溜まってるんですよ。
その日は別の意味で泣けた。

つづく

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