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技術で香港の苦痛を表現する / リンゴ日報 ブロックチェーン その先

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ブロックチェーンを用いて「管理者のいないアレクサンドリア図書館」をつくろうとしているプロジェクトがある。

今の香港では、政府に批判的なTシャツを着ているだけでも拘束されてしまう危険があるという。2020年9月の立法会の選挙では、国家安全維持法への不満から、民主派が過半数をとる可能性もあった。しかし、中国指導部が命じた大幅な法改正によってその可能性は潰された。

言論への弾圧の象徴的な出来事として、2021年6月に起きたリンゴ日報の廃刊がある。安全維持法を根拠に幹部らが軒並み逮捕され、資産凍結もされて、ウェブサイトもソーシャルメディアも消えてしまったのだ。

しかし、Arweaveというブロックチェーン上に、リンゴ日報の記事が次々とアップロードされている。

これは、データを特定の管理者(企業など)を必要とせず、「分散的」かつ「永久」に保存できるストレージ・サービスで、創設者は世界中の価値ある情報を管理主体なしに永久保存すること、(管理者のいない「アレクサンドリア図書館」の実現)を目標に掲げている。

香港政府は違法行為を煽る可能性のあるウェブサイトを削除する権限をもつのだが、この技術を用いた記事には手を出すことが出来ない(訴える相手がいない・そもそも消す技術的手段が無い、ため)。

報道によれば、記事をアップロードした21歳の技術者ホーさんは、「リンゴ日報を愛しているからではなく、やるべきことだからやっている。こんなに早くリンゴ日報が消えてしまうとは思っていなかった」と語る。



香港の民主化に対して新聞記事が残る(だけの)ことにどれだけの意味があるのか、と疑問に思う人もいるかもしれない。しかし、少なくとも政府に批判的な記事を、検閲されることも削除されることなく「存在させる」ことはできる。その存在そのものが、検閲に抵抗する意思の表現であり、またそれは、自由を弾圧されている香港の人々の苦痛を表現するものでもあるだろう。


だが、実際に香港で苦痛を感じている人が、それを匿名のまま個人的に表明する仕組みはまだない。彼らが勇気を出して苦痛を訴えれば、必ず命を危険にさらすことになってしまう。

「苦痛」を表明する手段として、人々はこれまで、声を張り上げて不満を叫んだり、あるいはじっと押し黙って態度を示したりといった原始的な行為しか許されていなかった。

もう少し進んだ方法として、選挙や投票もあるが、苦痛の解消には遠い場合も多い。ブロックチェーンを用いた苦痛の表明は、新しい技術の到来によって可能になったものであり、技術革新がもたらす社会変革の兆しを感じさせる。

しかし、それはまだ「表現」に留まっている。苦痛の匿名的な(個人を危険にさらすリスクなしでの)表明が、直接的に組織のあり方の変革を促すということは出来ないだろうか。私たちは、ブロックチェーンはその可能性を含んでいると考える。

たんなる「苦痛の表現」ではなく、苦痛が直接組織を変えるためのアイデアはないだろうか? たとえば、「感じた苦痛」そのものをブロックチェーン上に蓄積されるように記録し、それをトレースできるような仕組みをつくる。そこで記録された苦痛の蓄積が、無駄な仲介者を通すことなく、自動的に組織を更新していくような仕組みを想像できないか。AIが損失から勝手に学習していくように。

ここで、「無駄な仲介者」を通すべきではないという理由は、仲介者には、たいてい特定の傾向や利害関係があり、彼らに常に中立的であることを期待するのは難しいからだ。

さらに、人には認識能力や判断能力に限界があるので、情報量が膨大になると処理できなくなり、それが余計なバイアスを生んでしまう。

ここで書いたことの一例として、「苦痛のトークン化」という仕組みを提案したことがある。関心のある方は下の記事を参照していただきたい。


画像: The Harbour, Hong-Kong by John Thomson

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