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白じゃないなら黒、というわけでもなく

1人,また1人と降りていき,電車内には数人の乗客を残すのみとなった。
ついさっきまで満員で,持っていたバッグをぎゅっと寄せて立っていたとは思えないほどがらんとしている。
目的地は終点。このまま目を閉じていても確実に辿り着くとわかっていたけれど,なんだか眠る気にならなくてぼんやり景色を眺めていた。

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暑いから少しくらい涼しくなってくれたらいいのに,と毎日のように思っていたが,いざ涼しくなってみると秋の訪れを察知して物悲しい気分になった。そうなることを望んでいたはずなのに,望みが叶うと寂しくなるなんて随分勝手だな,と思う。

口にした望みと,実際の気持ちには少しずれがあるのかもしれない。
本当はずっと暑くてもいいから夏が終わらないでほしかったのかもしれないし,自分から終わらせた関係性だって,この先も続いていくことをどこかで信じたかったのかもしれない。

「Aはいや」の反対側にあるのは必ずしも「Bがいい」ということではないと,頭ではわかっている。オセロのように白と黒しかなければ,反転するだけでいいが,実際はそんなに白黒はっきりしたものなんて,ほとんどないような気がする。だから,私が望んでいたことは対極にあることではなく,もっとグラデーションした中にあるんだろうと思う。

白が嫌なのは黒がいいからでしょ?と決めつけてしまうのは簡単だ。
そこには,想像力を働かせる必要がない。
けれどその安直さは時に誰かを傷つけるかもしれないということは,忘れないようにしたいと思う。ちゃんと知ろうとせず,全部わかった気になるのは愚かで危ないことだ。

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目的地の駅に着くと,遠くに三日月が見えた。
気づけば今度は「月がこんなにも綺麗に見えるなら秋も悪くないな」なんて思っているのだから,やっぱり人の心って難しい。





そのお気持ちだけで十分です…と言いたいところですが、ありがたく受け取らせていただいた暁にはnoteの記事に反映させられるような使い方をしたいと思います。