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『わたしの妄想旅行』

旅行に行きたい。

温泉に入って、おいしいご飯を食べて。
観光地に遊びにいって、いろんなものを見る。
旅館でもホテルでも。
キレイな部屋で、優雅にのんびりと過ごす。

ああ、なんて素敵で贅沢な時間だろう。

今でこそ“パニック“という爆弾を抱えている身だから、なかなか腰が重くなったけど。
パニック障害を発症する前は、私は旅行が好きだった。

温泉も好き。
テーマパークも好き。
日本全国津々浦々。
推しに会いに旅に出るのも好き。

けれど家庭をもって、自分で自由に使えるお金自体が少なくなって、なによりもまず生活費を考えなきゃいけない立場になって。

独身時代のように、気軽に旅に出かけることはなくなった。

もちろん、パニック障害になってしまったせいで、“ひとりでどこかに行く“ということがほとんど出来ないから、ひとり旅なんてもってのほか、って理由もある。

そもそもひとりで旅に出るのなら、今はそのぶん旦那や母と一緒に遊びに出かけたいし、せっかく旅行にいくならみんなで一緒に行きたい。

とはいえ現実は厳しいもので。
3人分の旅費を工面するのも大変だし、そもそも全員が休みを合わせるのもめちゃくちゃ難しいし、それこそ数年に1回、旅行に行ければいいくらい、なんだけど。

そんな暮らしをしていれば、やたらフラストレーションがたまる。
「行きたいいいいい」って気持ちが先走って、どうにもこうにも収まりがつかないときがある。

そんなときにどうするかというと。
私は妄想の中で旅に出るのだ。

可哀想なやつ、と言うなかれ。
妄想なら誰にも迷惑をかけないのだからいいじゃないか、と思う。

まずはなにも書かれていない、まっさらなノートの1ページをめくって。

いちばん上にデカデカと、行きたい場所を書く。
“熱海“とか、“長野“とか。
“箱根“とか、“金沢“とか。
今、自分が行きたい場所を書く。

そこからが旅の始まり。
朝の電車に乗って出発して、現地に着くのは何時で、そこからどこに行って、なにを見るのか、ひとつずつ、スマホで調べながら書いていくのだ。

ランチはどこのお店がいいかなあ。
おやつはどこで食べようかなあ。

評判を調べたり、実際に訪れた人のブログを見たり。
そこに載っている写真を眺めているうちに、自分もその場にいるような気がしてくる。

泊まる場所はどこにしようか。
ここは夕食が洋食だから母が嫌いかな、とか。
ここは大浴場がしょぼいからなしかな、とか。
洋室だと旦那が嫌がるから、和室の部屋でとか。

思いを巡らせる時間は、自由だ。

そうして、最後の最後。
何時何時の帰りの電車にのって、自宅に帰り着くところまでを書いて。
私の妄想の旅は終わる。

悲しいかな、妄想でも手が届かない場所に泊まったりはしないで、自分たちの身の丈にあった予算の旅館を選んでしまうけれど。

だってこれは、所詮妄想だけど。
いつか叶えられる妄想だから。
いつか、叶えてやりたい妄想だから。

だから、みんなで一緒にその場にいることを想像できない場所は、選びたくない。

一泊ウン十万のスイートルームなんて無理だし。
おセレブな方々が泊まるような高級旅館は逆立ちしたって無理だから。

身の丈にあった場所でいい。
ちょっとだけ広い部屋で、美味しいご飯が出てくるなら、こじんまりとした旅館でいい。

そんな場所なら、いつか行ける。
うん、いつか行こう。
その“いつか“は、今のところいつになるかわからないけど。

でも、きっと。いつか。きっと。
そんなことを考えながら、私はいつもノートを閉じるのだ。

もしもサポートをいただけたら。 旦那(´・ω・`)のおかず🍖が1品増えるか、母(。・ω・。)のおやつ🍫がひとつ増えるか、嫁( ゚д゚)のプリン🍮が冷蔵庫に1個増えます。たぶん。