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『拝啓いつもそばにいた君へ』

君と出逢ったのは、忘れもしない小学6年生の春。
最終学年となった私たちは、この1年、なんらかのクラブ活動に強制的に参加しなくてはいけなくなって、私は渋々お絵描きクラブに入った。

イラストを描くのが好きだったし、その頃から内向的だった私は、外で活発に動き回るような、運動主体のクラブになんか入る気もなかった。
そこで出逢ったのが君だった。
君は当時私が好きだったカードキャプターさくらの小狼くんをスケッチブックに描いていて、私は大好きだった月とケロちゃんを描いていた。
お互いの絵を見た私たちは意気投合して、そこから一気に仲良くなったね。

週に1回のクラブ活動が終わると、どちらかの家で一緒に絵を描いて遊んだし、休み時間はクラスを飛び越えて廊下で話し込んだりもした。
卒業後、中学校では同じクラスになれたけど、結局、すぐに私は学校に行かなくなってしまったから、文化祭や運動会、学校行事を君と過ごせなかったのが心残りかな。

私が学校へ行かなくなっても、君は毎日、学校帰りに私の家に来たね。
他の友達と遊べばいいのに、と毒づく時もあったけど、本当は嬉しかった。
私を忘れないでいてくれている、その事実がとても嬉しかった。

ゲームをしたり、イラストを描いたり、流行りの歌の練習をしたり。たまに勉強を教えてもらうこともあったっけ。
君が「家に帰りたくない」と、ポツリとこぼした時はそのまま私の母に頼んで泊めてもらったね。
今まで黙っていたけど、知っていたんだ、私。
君が親から「あそこの家の子と付き合うんじゃない」と言われていたこと。

だから、私が君と付き合うと、君の迷惑になるんだと思って、少しだけ距離を置こうとしたこともあった。
でも、それを察した君は、初めて親に反抗した。
それまで親には絶対に逆らわない、いい子ちゃんで優等生だった君が、「親友のことを悪く言うな!」と、両親に食ってかかってくれたことを聞いた時。
申し訳ないのと同時に、とてもありがたくて。
私たちがお互いを、『唯一無二の親友』と、なんの躊躇もなく呼び合えるようになったのは、それからかもしれないね。

そして高校生になった私たちは、共に“音楽“という夢に出逢った。
バンドを組んで、売れて、バンバン稼いで。
いつかデカい舞台でライブをしようと約束したこと、覚えてるかな。

毎日練習して、私は喉から血が出るほど歌って、君は指先がボロボロになるほどベースを弾いて、売れてやろうともがいた日々は、楽しかった。

その約束は叶えられなかったけど、でも。
君と走り続けた夢への軌跡は、私にとって素晴らしい宝物だと思ってる。

オリジナル曲のメロディラインが気に入らなくて喧嘩したこと、お金を貯めて一緒にバカ高い機材を買ったこと、東京の下北沢まで君の使うベースを買いに行ったこと、初めて踏んだ舞台のこと、開演直前にドラムが抜けて、ベースとギターとたまたま持ってたタンバリンでなんとかしたこと。
路上ライブで歌った時の風の冷たさ、終わった後に食べるラーメンの熱さ、一緒にライブを観に行くたびに、「いつかここでやってやろう」と夢を語ったこと。

どれもこれも、今もキラキラ輝いてるんだ。

恥ずかしいから言わないけど、私、君のベース好きだよ。
スラップは今も下手くそだけど、前を見据えて、全身で音楽にのる君のパフォーマンスが好き。
あの時語ったみたいに、夢の舞台にはもう立てないけど、そうだな。それは来世の楽しみにしておこうか。
それまでは地元の小さい箱で我慢しとこうぜ。

君も私も大人になって、“君と私“じゃない大切な人が、私に出来た時。
君は「よかったね」と泣いてくれたね。
結婚式はあげないよ、と言っておいたのに、私が昔から通っていたカフェを貸し切りにしてくれて、盛大に祝ってくれたっけ。

ウェディングドレスもなくて、みんな普段着のままだったけど。
大きなケーキを用意してくれたね。
お互い友達少ないから、集まった人数はたかがしれているけど、でも、めちゃくちゃ楽しかった。
いきなり知らない人の中に放り込まれた旦那は、ビックリして固まってたけどさ。

だからさ、今、君に大切な人が出来て。
その人と共に、これからの人生を歩むと決めた君を見て、私はすごく嬉しいんだ。

「ああ、よかった」って、ようやく肩の荷が降りた気がする、って言ったら、君は怒るかな。
君をいちばんそばで見てきたのは私なのに、ってほんの少しだけ嫉妬するところもあるけど。
でも、きっと、君もこんな気持ちだったんだろうね。

仲良くやりなよ。
そんで、私と君が過ごしてきた時間より、もっともっと長い時間を、君の大切な人と歩むんだよ。
健康に気をつけて、無理なダイエットばかりするのはもうやめときな。

わかってる。君が君の大切な人と一緒に人生を歩み始めても、私たちの関係はなにも変わらない。
そんな小さなことで変わるほど、過ごした時間は軽いものじゃないから。
わかってるんだけどさ、まあ、少し寂しくなった、ってところかな。
だから、うん、また飯でも行こう。
惚気話でも聞かせてよ。

結婚おめでとう。大好きな親友へ。
リトより。

もしもサポートをいただけたら。 旦那(´・ω・`)のおかず🍖が1品増えるか、母(。・ω・。)のおやつ🍫がひとつ増えるか、嫁( ゚д゚)のプリン🍮が冷蔵庫に1個増えます。たぶん。