見出し画像

アオハルVチューバー+YouTube公式動画〜第35回配信 女の子に向かって好きと言うこと

「さっき話したのは、あくまでも理想論です。現実の僕は、エリスさんに対して、変なことを考えたりします。だから、本当に大切に想っているかと言うと、僕には自信がないのです」

「なんだ、そんなことか」

 お父さんがホッとしたように、膝を崩した。

「思春期なら、当たり前のことだ。僕なんか、思春期をとっくに過ぎたのに、年がら年中変なことを考えている」

「それはお父さんだけよ」

 今度のお母さんのツッコミには、冷たさがあった。

 だがお父さんはそれに気づかない様子で、

「例えばスーパーに買い物に行ったとして、キュウリを見てもナスを見ても、ビワを見てもマンゴーを見ても、変なことを考える。ましてや女の客が目に入れば、たちまち変な想像が始まる。それが普通の男じゃないか」

「普通じゃねーわ!」

 母と娘が、見事にハモってツッコんだ。

 だが僕にはわかっていた。お父さんが、僕のために進んでヨゴレ役を買って出てくれたことを。

 僕はそれに甘えて、ごまかすわけにはいかない。正直に、すべてをさらけ出すのだ。

「先日、エリスさんがトイレに行ったときに、用を足すところを想像してしまいました。こんなことを考えるのは、僕の人格に問題があるのではないかと、今すごく悩んでいるのです」

「……覗いた?」

「いえ、覗いてはいません」

「ならいいじゃないか。僕なんか、市営プールの更衣室で大胆なオバサンや女の子が着替えてたら、100パーセント覗くよ」

「さっきから、アンタのレアケースを話すんじゃないよ!」

 お母さんがキツめにどつくと、お父さんは怒られた子どものようにシュンとした。

「ユメオくん」

 お母さんが、真っ直ぐに僕を見て言った。

「思春期の男子が女子のトイレを想像することを、私は特におかしいとは思わないわ。ただ」

 僕はお母さんの鋭い目に、ヒヤリとするものを感じた。

「ただ、そういうことを口にするのは、変わってると思う。言われて喜ぶ女の子はいないし、だからどうすればいいのって、娘も困ると思うの。でしょ?」

「はい。もちろんそうです。どうしてほしいというのはありません」

「だったら、言わなくてもいいことは口にしない。うちのお父さんが、さっき覗きのカミングアウトをしたけど、あんなのマネしちゃダメよ。わかった?」

「はい。あ、あの……」

「なあに?」

「思春期の男子なら、女子のオシッコの音や匂いを知りたくなるのは、普通ですか?」

 お母さんが、天を仰いだ。

「ユメオくん」

「はい」

「そういうのって、思い詰めるようなことじゃないと思うの」

「そうですか?」

「夫婦になって、子どもも大きくなったら、オシッコとかオナラの音なんて、全然気にしなくなるから」

「そうなんですか?」

「そうよ。いちいち音だの匂いだの気にしてたら、同じ家に住めないでしょ。お互い空気みたいになるんだから。ユメオくん、結婚したいんでしょ?」

 僕の心臓は、ドクンと搏った。

「ちがうの?」

「いえ、そうです」

「そうしたら、今のうちに、なにを話すべきでなにを話すべきじゃないか、勉強しなさい。なにかを言いたくなっても、相手が嫌な気持ちになると思ったら言わない。正直もいいけど、それ以上に思いやりが大事。大丈夫、ユメオくんなら、絶対できるから」

「そうでしょうか?」

「自信を持ちなさい。人間は、成長できるんだから」

 お母さんはそう言ってニッコリすると、

「ちょっと話がある」

 恐い顔をし、お父さんをリビングから連れ出した。

 僕とエリス、2人だけになった。

「部屋に行こう」

 とエリスが言い、僕たちは2階に行った。

 いつもだと、エリスは机のパソコンの前に坐り、僕は準備ができたらベッドギアを被ってベッドに横になる。

 しかし今日は、エリスがベッドに坐って、その横に坐るようにと僕を促した。

 僕はそうした。するとエリスが距離を詰めてきて、僕の右手の上に、左手を重ねてきた。

 その手は熱かった。

 僕ののどは、カラカラになった。

(エリス、どうしたんだろう。こんなこと、1度もしたことないのに……)

 エリスの顔を見た。その瞳は、潤んでいた。

(そうか)

 僕は悟った。

 僕は今日、初めてハッキリと、エリスが好きだと口にした。

 好きという言葉には、魔力があるのだ。

 僕にしてみれば、ずっと思っていたことを正直に言っただけである。

 ただそれだけのことなのに……

 エリスは僕の手をキュッと握り、肩をくっつけてきた。

 ああ。

 女の子に向かって好きと言うこと。

 それは、女の子を女にしてしまう。

 こんな、僕みたいな、平凡でたいした魅力もない、幼馴染みのユメオくんに対しても、エリスは女になった。

 まるで、キスをされて、抱かれてもいいという態度である。

 エリスとの距離を縮めること。エリスに好きになってもらうこと。

 それが僕の目標ではあった。

 でも……

 それがこんなふうに現実になってみると、エリスに対して、申し訳ない気持ちが起こった。

(ゴメン、エリス。僕にはまだ、その準備ができてないんだ)

「女」になったエリスを受け入れられるほど、僕はまだ「男」ではなかった。

「エリス」

 僕は言った。

「さっきも言ったけど、いつか自信がついたら、交際を申し込みたい。でもまだーー」

 言葉の途中で、エリスが僕を、ベッドに押し倒した。

 好きで好きでたまらない、エリスの顔。

 それが今、目と鼻の先にあった。


あらすじ(第1〜3回配信のリンク有り)

第34回配信 そして告白へ

第36回配信 チッパイエリス


この記事が参加している募集

恋愛小説が好き

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?