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アオハルVチューバー+YouTube公式動画〜第34回配信 そして告白へ

 エリスの優しさに、涙が出た。

 僕は、お父さんから振られたモノマネで、とっさにHGをやるという、明らかな人選ミスを犯した。

 だからだろう。次に振られたエリスは、エドはるみさん(最終的にお父さんが当てた)の完コピに挑み、僕のミスが忘れ去られるような独特な空気をつくってくれた。

 あの「コォーーー!!!」の顔は、僕にとって、後光の射した女神の微笑みにほかならなかった。

「でも、エリス。よくエドはるみを知ってたな。世代じゃないと思ったが」

 お父さんが感心したように言うと、

「実は、直接は知らなくて、フジモンがやるモノマネで知ったの」

 それは僕のHGと同じだった。ザキヤマさんか誰かがマネしているのを観て、昔の動画を検索して知ったのだった。

「フジモンか。詳しくは知らないけど、離婚したんだろ?」

「ユッキーナとね」

「詳しくは知らないが、タピオカで揉めたんだろ?」

「みたいね」

「詳しくは知らないが、事務所総出でやりますねとか、いい年こいたばばあとか、認めなちゃい❤️おばたん❤️とか、メールで送ったんだろ?」

「パパ、詳しすぎない?」

「んでそのメールを縦読みすると、『たかし愛してる』になって、乾選手が『ゆきな大好き』って送ったんだろ。わりぃ女だなー」

 と、心から楽しそうに、お父さんは笑った。

「ところでユメオくん、今日は話があるんだろ?」

 いきなり直球が飛んできて、僕はうっと詰まった。

「まさかHGのモノマネをかまして、帰るつもりじゃあるまい?」

 すっかりお父さんにベースを握られてしまった。が、向こうからきっかけをくれたのは、むしろありがたかった。

「そうです。あれで帰るつもりはありません」

 僕はソファから降り、床に正座をした。

「僕はエリスさんのことをーー」

「待った! お母さんも横に来て、坐りなさい」

 僕の向かい側で、お父さんとお母さんも正座をした。

「僕は昔から、エリスさんのことが好きでした」

 エリスが席を立ち、僕とお母さんのあいだに坐った。

「それが初恋で、これまでずっと、エリスさんのことだけが好きでした。ほかに誰かを好きになったり、付き合ったりしたことはありません」

「エリスもこれまで、誰とも付き合ったことはないよ」

 お父さんがそう言うと、

「人の話の腰を折らない!」

 お母さんが、シュシュっと地獄突きをするマネをし、お父さんがやられたフリをしてのどを押さえた。

 僕は続きを話した。

「エリスさんには、これまでずっと、仲良くしてもらいました。そのおかげで、大げさですが、僕は人生を楽しく送れています。僕はエリスさんの話すことが大好きで、一緒におしゃべりするだけで、すべてが満たされるんです。本当に、感謝しています」

 お母さんが、目頭を押さえた。そのリアクションは予想外だったが、僕は同じペースで話しつづけた。

「僕はその関係を、ずっと続けたいと思いました。だからこそ、好きだということを、口にはしませんでした。それで男女を意識するようになり、これまでの仲良しな関係が崩れるのが、怖かったのです。それは僕にとって大問題でした」

 エリスの視線が、じっとこっちに注がれている。その表情を確かめたい気持ちに駆られたが、僕は我慢してお父さんの顔を見つづけた。

「しかし僕が、エリスさんに女性を意識しているのは事実です。ゲーム実況の配信を始めて、毎日部屋で2人きりになりながら、それを隠すのは不正直だと思うようになりました。だからこうして、お父さんとお母さんにも、僕の正直な内面を聞いてもらおうと思ったのです」

「ちょい待ち。のどが渇いた」

 お父さんがそう言って、缶ビールを呑んだ。その目元が赤いのは、酔いのせいかどうかはわからなかった。

「エリスさんが僕のことを嫌いでないのは、知っています。でも、だからと言って、すぐに付き合おうとは思いません。僕はまだ高校生で、なにも実証していません。1人の女性を幸せにできるかどうか、自分でもわからないのです。そんな状態で付き合うというのは、無責任なことだと、僕は思っています」

「えらいな。僕が高校生のころは、そんなことは思いもしなかった」

「でしょーね」

 とお母さんがツッコミを入れた。僕も将来、もし夫婦になってジョークを言ったら、エリスにこんなふうにツッコんでもらいたいと思った。

「だから、付き合ってくださいとは言いません。2人でVチューバーを続けて、お互い協力してなんらかの結果を残し、良いパートナーになれると確信したときに、改めて交際を申し込もうと思っています。これが僕の正直な気持ちです」

「ありがとうユメオくん。エリスのことを、大切に想ってくれて」

 お母さんが、エリスの頭を抱いた。エリスはお母さんに身を預け、満ち足りたような笑顔を見せた。

 しかし僕には、まだ言うべきことがあった。

 そしてこれこそが、本題と言ってもよかった。

「お礼を言われるのは、まだ早いかもしれません」

 僕の声に、なにかを嗅ぎとったのだろう。お父さんもお母さんも、真剣な顔をした。

 僕は息を吸い、ゆっくりと言った。

「僕は自分の性癖について、話さねばなりません」


あらすじ(第1〜3回配信のリンク有り)

第33回配信 娘さんをくださいと言いに行ったら、照れ隠しからモノマネ合戦になった件

第35回配信 女の子に向かって好きと言うこと


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