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アオハルVチューバー+YouTube公式動画〜第33回配信 娘さんをくださいと言いに行ったら、照れ隠しからモノマネ合戦になった件

 雨降って、地固まる。

 エリスに部屋を追い出されて悩んだ結果、真剣な想いを伝えることができて、逆に2人の距離は縮まった。

「僕、お父さんとお母さんにも、キチンと話したいと思う」

 そう言うと、エリスが電話して、ご両親の都合を確かめてくれた。

「居間で待ってるって。パパもママも、緊張すると思うよ」

 エリスは嬉しそうだった。しかし僕に、それを喜ぶ余裕はなかった。

(誤解のないように、しっかり伝えないと。正直がいちばんだ。ありのままの気持ちを話そう」

 エリスの家につき、リビングに行った。

 お母さんはキッチンから出てこなかった。

 お父さんは、ソファーに坐ってビールを呑んでいた。

「なによ、パパ。昼間っから呑んでるの?」

「なーに、在宅ワークだからさ。今日はちょっと、仕事を早く切り上げたんだ」

 こういう場合、娘の父親は、酒を呑みたいものなのだろうか? 僕にはその心境はよくわからなかった。

「ユメオくん、なかなかいい調子じゃないか。100回も視聴されたら立派だよ。1年続けたら、5桁、いや6桁も夢じゃないぞ」

 あえて話題を、転ゲーのほうに振ってきた。僕も調子を合わせて、

「6桁っていうと、10万ですか? そんな数、全然想像もできません」

「謙虚だなあ、ユメオくんは。どう、ちょっと呑んでみる?」

「ビールですか? いえ、それはまだ……」

「やめてよ、パパ。もう酔ってる?」

「酔ってないですよ。俺を酔わせたら、大したもんですよ、ウン」

 あまり似ていない長州力のモノマネをし、リビングに微妙な空気が流れた。

(天才ゲームクリエイターは、行動の予測がつかない。果たしてこのあと、会話はどう進むのだろう)

「お父さん、恥ずかしいから長州のマネはやめて」

 お母さんが、和菓子とお茶を持ってリビングに入ってきた。

「もし長州のマネをするんなら、呑んでみな、飛ぶぞって言うのよ。若い子には、そっちのほうがわかるわよね、ユメオくん?」

「あの、長州さんは、よく知らないので」

 僕が正直に答えると、お父さんが突然、

「イヤアアア!」

 投げキッスのポーズをし、苦悶の表情で膝を押さえた。

「だ、大丈夫ですか?」

 すると一言、

「武藤は膝が悪い」

 それでようやく、これもモノマネだったことに気づいた。

「わかりました。神奈月さんがやる、武藤選手のモノマネですね。それなら知ってます」

「やあ、良かった。ムーンサルトをやりすぎて、膝を壊したんだよね。それを知ってるとはマニアックだね」

 すると今度はお母さんが、

「シュシュ、ブルブル。シュシュ、ブルブル」

 と言った。シュシュのときは、手で空手のようなポーズをし、ブルブルのときは、息を吐いて唇を震わせた。

「シュシュ、ブルブル。シュシュ、ブルブル」

「ねえ、ママ。なにそれ? 意味不すぎるんだけど」

「シュシュ、ブルブル。シュシュ、ブルブル」

「お母さん、なんかのマネか? ヒントはないの?」

「シュシュ、ブルブル。シュシュ、ブルブル」

「プロレスラー?」

(頷いて)「シュシュ、ブルブル。シュシュ、ブルブル」

「プロレスラーか。難しいな……あっ、わかった。ブッチャーだ!」

 お父さんが立ち上がって指差すと、お母さんは照れたように笑い、

「私のたった1つだけできるモノマネが、ブッチャーの息遣いと地獄突きなの。何十年ぶりかでやってみて、死ぬくらい恥ずかしかったわ」

 お母さんのテンションも、明らかにおかしかった。

(ご両親は、僕の想像の斜め上をいくほどユーモア好きだった。でも厳格なタイプより、このほうがグッと話しやすくて良かった)

「ユメオくんは、なにかできる?」

「え?」

 お父さんにモノマネを振られた。完全に虚を衝かれた形だったが、ご両親の懐に飛び込むには、下手でもなにかをやるべきだった。

「じゃあ、うろ覚えですけど」

 どうせやるなら弾けたほうが良かろうと、立ち上がって、思い切り腰を振った。

「オッケーイ! 見てくださーい。下半身中心に見てくださいよー!」

「ん、誰だ? 全裸監督?」

「セイセイセーイ。ちがいますよー。バッチコーイ!」

「やだユメオ……変態?」

「セイセイセイセーイ! 僕を忘れたんですかー。フォフォフォフォーーーー!!!!」

「あ、わかった。HGね!」

 やっとお母さんが当ててくれ、僕は変な汗を拭いながら、ソファに坐り込んだ。

(とっさのこととは言え、人選を誤った。エリスに変態と誤解されたら、ユーモアどころじゃないぞ)

「エリス、あとはおまえだけだぞ」

「私? 無理無理」

 エリスが首をブルブル振って固辞しても、お父さんは許さなかった。

「ユメオくんにだけ腰を振らせるわけにはいかない。おまえも乳首ドリルくらいやりなさい」

「パパ。今度その単語を口にしたら、マジで刺すからね」

 剣呑な殺害予告が飛び出したが、エリスは腹を括った表情で立ち上がり、

「ダンスタイムでーす!」

 唇と親指を突き出して、いきなり歌い出した。

「あ素敵な笑顔ねチャーミングー。ファッショングー。スタイルグー」

 誰だ? ずいぶん奇抜な歌とダンスだが、それが誰のマネなのか、僕には皆目わからなかった。

「友だちコンパをセッティングー。私は浮いてるキャスティングー。あー、グーググーググググーググーグググ」

 早くお父さんかお母さんか当ててくれ、と僕は切実に思った。そう、これこそ切実に名誉の問題だ。誰もこれを当てなかったら、彼女の名誉は傷ついてしまう!

「グーググーグググ、コォーー!!!」

 エリスは両手でLの字をつくるようなポーズをし、目をむき出したとてつもない変顔をした。

 リビングはそのとき、時間が止まったかのように、なにもかもが凍りついた。


あらすじ(第1〜3回配信のリンク有り)

第32回配信 心からの謝罪(K室氏との比較)

第34回配信 そして告白へ


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