アオハルVチューバー+YouTube公式動画〜第41回配信 いざ結婚式場へ!
いよいよ結婚式の日を迎えた。
「やっぱり眠れなかった」
エリスが言い、
「僕も」
このときほど、転ゲーを始めるのに緊張したときはなかった。
ベッドギアを被り、ベッドに横になる。
右耳のボタンを押して、ゲームスタート!
* * * * *
僕はバッターボックスにいた。
燕尾服を着て。
「あ、もう着替えちゃってる」
僕は慌ててタイムしようとしたが、大谷選手はストレートを投げ込んできた。
「ストライクワン!」
「ちょ、ちょい待ち、オータニさん。今日は大事な結婚式の日なんです!」
「ストライクツー!」
「なにしてんねん、ユメオ!」
一塁ベース上で、番長清原が怒鳴る。
「バット振らんと、ケツの穴から手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタ言わせたるぞ!」
そう言われても、集中できるものではなかった。早く場面を変えなければ。
「結婚式場へ!」
と叫んだが、急に場面は変わらない。大谷選手が得意のスプリットで空振り三振をとりにきた。
「そうはいくか!」
僕は落ちる球を上から思い切り叩いた。
すると硬球が、まるでゴムボールみたいに潰れて変形し、大谷選手めがけてジグザグに飛んでいった。
「危ない!」
放送席のエリウサが叫んだ瞬間、大谷選手が後ろに倒れ込んで間一髪でよけ、打球はセンターに抜けていった。
僕は一塁ベースを蹴って二塁へ。しかし二塁をまわったところで、清原選手の背中にぶつかった。
「なにすんねん! 目え背中についとんのか、ワレ!」
「急いでください! 新庄選手がレーザービームを投げてきます!」
清原選手が三塁に向かって突進すると、新庄選手の矢のような送球がサードの長嶋一茂選手へ……
ところが一茂選手は、ストライクの送球を後逸し、キャッチャーの野村克也選手がボールを拾いに走ることになった。
「ホンマにお前には泣かされっ放しや!」
「ラッキー! サンキュー、一茂!」
清原選手は三塁を蹴ってホームイン。僕も続けてホームベースを駆け抜けようとすると、
「待ちなさい、ユメオ!」
ホームの手前で、落合夫人が立ち塞がった。
「今さっき警察が来たわ。落合の車を盗んだのは、あんただったのね!」
「やべ、バレた」
僕は回れ右をして三塁へ。しかしそこでは一茂選手が、
「押忍!」
空手の構えをして待ち受けていた。
僕は直角に曲がり、一塁側に走った。
すると応援席から10メートルに巨大化したチュンチュンがネットを楽々登って越え、
「ユメオ」
僕をひょいとつまんで、落合夫人&ポリス軍の極悪連合の魔の手から救い出してくれた。
「はあー、ユメオ」
チュンチュンの1メートルくらいある唇から吐息が洩れた。
「もっと投げて、ねえ」
「悪い。野球は終わりだ。僕は今日、エリスと結婚式をしないといけないんだ」
「投げないなら食べちゃう!」
チュンチュンは僕を食べた。
うむ。転ゲーでは、異性同士が接触できないように設定されている。18禁に抵触しないために。
しかし食べる行為は、ギリセーフというか、盲点だったようだ。
チュンチュンの口の中は暗く、湿度と体温で蒸し蒸ししていた。
弾力のある舌が、僕を大きく持ちあげて、デコボコした上顎に押しつける。
「みなさん。真っ暗でよくわからないでしょうが、僕は今、チュンチュンの口の中にいます。レポートすると、天井が硬くて床がぶよぶよな、独特な匂いのするサウナにいるようです!」
♠︎ザクロ石:せっかくの燕尾服が、よだれでベトベトですね。
♣︎タマゴかけご飯:早く式場へ行きましょう!
♠︎糖尿病:結婚式当日に他の女性に食べられるのは、倫理的にどうなんでしょう?
♣︎顔しゃもじ:我らのチュンチュンの口に入るとは、男の夢を成就しましたね!
♣︎開発者:なにやってんの?
僕はチュンチュンの前歯を裏からドンドン叩いた。
「開けてください! こんなことしてる場合じゃないんです。お願いします!」
するとチュンチュンが歯をあけてくれたので、僕は唇のあいだから顔を出すことができた。
そしてチュンチュンは、僕をくわえたままグラウンドを走ると、外野のフェンスをまたいで客席を駆けあがり、ジャンプして球場の外に降り立った。
「待って! 新婦がまだ中にいるんだ」
そう叫んだとき、ウェディングドレスを着たエリウサが、後ろ足でピョーンと跳ねて場外に出てきた。
チュンチュンの肩に止まったエリウサに、
「放送席から跳んできたのかい?」
と訊くと、
「その女の口に入るのが、やっぱりユメオの夢だったのね。変態!」
鼻をガチャガチャみたいに捻じられた。
「痛てて。ゴメン、エリス。式場に着いたらシャワーを浴びてキレイにするから」
「それどころじゃないわ。パトカーが追ってくる!」
「くそー、警察め。チュンチュン、やってくれ!」
「フレ、フレ、ユメオー!!」
チュンチュンが次々とパトカーを蹴散らしてくれたため、僕は胸がスーッとした。
「フレ、フレ、ユメオ、フレ、フレ、ユメオー!」
チュンチュンがダンスしながら進むたび、足元の地面で、乗用車が潰れる小気味のいい音が響いた。
「チュンチュン、あれだ。あのお城みたいな建物が結婚式場だ!」
こうして僕とエリスのアバターは、無事に式場へと着いた。
あらすじ(第1〜3回配信のリンク有り)
第40回配信 相手に求める条件は、生きてることだけ
第42回配信 アオハルVチューバー、完結!