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アオハルVチューバー+YouTube公式動画〜第42回配信 アオハルVチューバー、完結!

 式場に着いたら、シャワーを浴びて、新しい燕尾服を着た。そう都合よく式場にシャワーがあるのは、転ゲーがプレイヤーの願望を叶えてくれる設定になっているからである。

「入場は派手なのがいいな」

 一言そう言っただけで、僕はステージの下からドゴーンと飛び出され、マイケルジャクソンよろしくピタッと着地した。

「ユメオーっ!!」

 チュンチュンとエドはるみの黄色い歓声が飛ぶ。エドはるみはグーググーをやりすぎ、酸欠でぶっ倒れて運ばれた。

「コォーーーーッ!」

 エドはるみの腕はL字型に硬直し、危険な感じの大きなイビキをかいていた。

「続いて、新婦、見参!」

 プロレスのリングアナふうの男が、エリスを呼び込む。するとバージンロードに七色のスポットライトが当たり、お父さんに手を引かれてエリスが入場してきた。

 お父さんは泣いていた。そして純白のドレスで一歩一歩進んでくるエリスは、この世のどんな宝石よりも美しかった。

 その宝物を、僕はお父さんから受け取った。

 僕は自然と跪いていた。

「一生、あなたを愛します」

 と、エリスに愛の告白をすると、

「セイセイセイセイセイセイ!」

 奇抜なボンテージファッションに身を包んだ神父が、暑苦しく僕らのあいだに割って入った。

「それは僕、ハードゲイのセリフですよ、フォーーーーーーッ!!!!」

 そう叫ぶと、イヤらしく腰を振って僕とエリスの周りをまわり、

「男ユメオは、女エリスを、病めるときも健康なときも、どんな晩でも愛すると誓ってしまいますか、フォーーーー!!!」

「誓います」

 神父の腰振りはスピードを増し、
 
「オッケーイ! 病気の晩でもアイラブフォーー! では指輪の穴に、指を入れちゃってくださいよー、フォーー!!!」

 僕たちは指輪の交換をし、互いに見つめ合った。

「キッス、キッス、キッス、キッス、キッス!」

 参列者のあいだから、手拍子が湧き起こった。

「キスしちゃえよ、ユメオ!」

 テーブルからジャイアンが立ち上がって声を張りあげると、

「キャー、ユメオさんのエッチ!」

 しずかちゃんが、小学生らしからぬケバい嬌声をあげた。

 エリスが目を閉じた。

 僕はその顔に、ゆっくりと顔を近づけた。

「ん?」

 するとエリスの身体が、まるで磁石が反発するようにスッと離れた。

「ワハハハハ!!」

 エリスのお父さんが、僕を指差して笑った。

「転ゲーでは、男女は接触できないのだ。そんな願望を叶えさせたら、18禁になってしまうからな。ユメオくんの指摘したとおりさ、ウハハハ!」

「じゃあ男同士なら、誓いのキッスをできますか? バッチコーイ!」

 お父さんは神父にキスされそうになり、全速力で会場を逃げまわった。

 と、そのとき、正面の扉がバーンと開き、

「ユメオ、逮捕よ!」

 落合信子夫人率いるポリス軍団が乱入した。

「警察め! きさまらの出る幕じゃないわ、ボケっ!!」

 頼りになる漢(おとこ)、番長清原選手が僕のために一肌脱ぎ、バットを振りまわしてポリスを片っ端からKOしてくれた。

「ケーキ、入刀!」

 リングアナふうの男のコールで、天井まで届くような超巨大なケーキが運ばれてきた。

「わー、嬉しい、ユメオ!」

 エリス(のアバターのエリウサ)が、興奮してピョンピョン飛び跳ねた。

「わたし、ケーキに顔を突っ込んで食べるのが夢だったの!」

 そう言うなり、まだ入刀してない巨大ケーキに、顔をズポッとうずめた。

「むしゃむしゃむしゃ……ああ、最高!!」

 ケーキから出てきたエリウサの顔は、生クリームだらけになっていた。

「ねえ、見て、ユメオ。どう? 私の顔、サンタみたいに白いヒゲが生えちゃった」

「新婦としては、前代未聞だね」

「ヒゲが生えたら、男に見えない?」

「レディらしくはないね」

「じゃあ抱いてみて。男同士なら、接触できるはずよ」

 言われるまま、僕はエリスを抱きすくめた。

「できたね。転ゲーは、見た目に騙されるみたい」

「キスして」

 一瞬躊躇したが、僕はとうとう、エリスのほっぺにそっと口づけをした。

「みなさん」

 僕は、込みあげる感動を必死で抑え、

「初めてのキッスの味が、こんなに甘いとは知りませんでした。甘ーーーーい!!!!」

♢ぐーぐー:おめでとうございます!

♠︎仮面人:結婚おめでとう!

♣︎風雲降り龍:ユメオさん、羨ましいです!

♡糸車:エリスちゃん、かわいい!

♠︎ザクロ石:末永くお幸せに!

♣︎タマゴかけご飯:純愛成就!

♠︎糖尿病:これからも応援します!

♣︎顔しゃもじ:今度は口にチューして!

♣︎開発者:涙涙涙涙涙orz

 祝福のチャットの嵐に、僕は震えが止まらなかった。

 こうして、夢を叶えてくれる転ゲーは、僕の唯一の夢を本当に(バーチャルに?)叶えてくれた。

 それを視聴者様たちと共有できた瞬間、僕は心から、青春(アオハル)Vチューバーになって良かったと思ったのだった。

 * * * * *

 さて。

 むろん、現実の結婚はまだだった。

 それどころか、交際も始まっていない。

(エリスに交際を申し込むのは、Vチューバーとしてもっと実績を積み上げてからだ)

 そう決めていた僕は、「結婚式」の翌日もゲーム実況の配信をした。

 今度は趣向を変え、RPGふうの異世界に転生してみた。

 そのほうが、視聴回数を伸ばせると思ったのである。

 しかし、なかなか思い通りにはいかなかった。

 視聴者の要求は日に日に厳しくなり、僕はビギナーモードから鬼畜モードに切り替えて、命懸けでハードなミッションに挑戦しつづけた。

 その過程は、いつかまとめて、文章にしたいと思っている。それを発表するときのタイトルは、「リアルタイム☆ファンタジー」というのを考えている。おそらくは、分類不能な変テコな小説になるだろう。

 しかしそれは、また別の話だ。僕とエリスが最終的に付き合って結婚したかどうかも、皆様のご想像にお任せしたいと思う。

 では。

 最後に僕から質問です。

 今、こうして語りかけている僕「ユメオ」は、現実のユメオでしょうか、それとも転ゲーの中のアバターのユメオでしょうか?

 あまりにも完璧なバーチャルリアリティゲームだと、自分でもそれがわからなくなるのです。

 わかったら、みなさんどうか教えてください!

  《「アオハルVチューバー」・完》


あらすじ(第1〜3回配信のリンク有り)

第41回配信 いざ結婚式場へ!


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