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映画「グリーンブック」 ~ 社会派エンタメの面目躍如(いろいろ加筆しました)

2019年にアカデミー賞作品賞などを受賞したアメリカ映画「グリーンブック」の感想です。
公開当時、観たいなと思いつつ、ぐずぐずしている間に上映が終わってしまった作品だったので、テレビ放送があると知り、いそいそと録画して視聴しました。

以下、ネタバレあり です。


ちなみにタイトルになっている「グリーンブック」とは、黒人用旅行ガイド(利用可能な施設等を掲載)のこと。当時、「黒人が不快な思いをせずに旅行できるように」という趣旨で刊行されていたらしい…。このような冊子自体差別意識がこじれていた証のように感じられ、複雑な感慨をおぼえます。

人種差別が公然とまかり通っていた1962年のアメリカ。ニュ-ヨークで暮らす、がさつで無教養だが口は達者なイタリア系白人のトニーが、南部へのコンサートツアーを企画していた知的な黒人天才ピアニスト、シャーリーの運転手兼用心棒として雇われ、「グリーンブック」を手に、差別の根強い南部諸都市への演奏旅行に出ます。

出自も性格も社会的立場も異にする二人が、当初は反目しあうも、二カ月に及ぶ旅を通じて友情をはぐくんでいく過程を描いたロードムービーで、実話に元づいた作品です。
トニーの実の息子であるニック・バレロンガが製作・脚本を手がけ、父親とシャーリーの友情の物語を映画化したのだそうです。

苛烈な差別(今も米社会の実態はあまり変わらないと聞きますね。トランプ前大統領の数々の暴言や、彼を支持する人々が多くいることを考えると暗澹たる気持ちになります)が、沢山のエピソードを重ねて描かれ、自分の中の半ば無意識な差別感情も意識させられるので、観ていて少々辛いです。
そんな辛さを和らげるのが、随所に挟まれるユーモア(トニーに強いられてシャーリーがフライドチキンを初めて口にするシーンの面白いこと!)と、いささか楽観的ながら、終盤の爽快な理想の実現です。これらの要素ゆえに当作品は「表面的だ」とか「現実的でない」といった批判にも相当さらされたようですが、日常生活において肌身で人種差別を感じる機会の少ない日本人には、この映画の匙加減は、社会派エンターテインメント作品として丁度良かったのではないかと感じました。

露骨な差別に直面しても常に背筋をしゃんと伸ばしているシャーリーの凛とした品のある言動と、粗野だけれど人間としての器の大きさや率直さも備えているトニーの茶目っ気。凸凹コンビネーションがいつしかかみ合い、自分にないものを持つ相手に自然と敬意を抱くとともに、「マジョリティーではないが単純にマイノリティーとも言い切れない、曖昧な立場」という共通点を見出していく間、二人の変化していく様が実に面白く、
「寂しい時は、自分から先に手を打たなきゃ」
なんていう名言(byトニー)も飛び出します。
そしてラストシーンへ。
トニーの妻の台詞、それにトニー夫妻がシャーリーとかわす抱擁、笑顔がとても素敵で、後味がよかったです。

「手紙」とか「翡翠の石」とか「警察官に止められる」とか「家族で過ごすクリスマス」とか、細かな伏線がいろいろと効いていて、作劇の妙を味わえる作品でした。

アメリカの中間選挙の結果は、分断が進みながらも、かろうじて踏みこたえているアメリカ社会の現状を映し出しているようです。
これからどうなるのでしょう?
……と、よそ様の国情を心配している場合ではなさそうです!
古来から言いならわされているとおり
人の振り見て我が振り直せ ですかね。

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