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爆弾持ってるから無理


モスキートeriは時々テロリストになる。

度々お話しているが、
M.eriはすこぶる、
うんこに弱い。

今から私がお話するのは、
職員用トイレに向かうという、
至ってシンプルな出来事である。


「く と う て ん」


私は、年に数回「くとうてん」と、
病院コメディカルにご指摘を受ける。

「あ、eri、リハビリ入りたいんだけど、酸素ボンベ空っぽだよ、入れ替えないとリハ室いけないよ!」理学療法士の薗部くんだ。

「チェックが甘いよもう変えておいたおぬしの操作方法が悪いのだ点滴の更新で今ナースが向かっているからお待ち」

薗部は無言でポツーンとしている。

6階のトイレは満室だった。
eriは振り返らない。

階段で5階に降りる。

「eri!明日の監査までに記録全チェック終わったか、全科回って!終わってなかったらフォロー入ってあげて!!」
記録委員のボス、安城さんは、ストレッチャーで患者さんを搬送しながら話しかける。


「はいわかりましたよろこんでー」
eriは猛スピードで小走りをしている。
ちなみに、カーブを曲がる時、どうしてもドリフトをしたくなるのはなぜだろうか。
けっ、5階も満室じゃないか。
eriは4階まで階段を降りる。

「eri、術前訪問いったら、木村さんいないんだけど、見つかったら連絡くれる」オペ室の、佐伯さんだ。明日予約オペを控える患者様に会いにきたのだ。

「はいよろこんでーちなみに木村さんは一階の売店で弾性ストッキング購入中なので今会いに行けばあえますよぅー」

佐伯は口うるさい。
「おい、くとうてーん」
うるさいなぁこっちは忙しいのよ
句読点の前にお礼だろーが

6階、5階、4階、3階、2階


最終的に私は1階の外来に到着した、職員用トイレは満室だ。だからといって、患者様用トイレを使うわけにもいかない。

当院では、
お客様アンケートを定期的に実施している。
職員用トイレがあるはずなのに、患者トイレを使わないでほしいと言う声があったのだ。

職員1000人越え。
足りるわけがない。

しかし、eriは、律儀にその声を守ろうと、
今奔走している。

私のうんこ事情も限界を迎え始める。
よし、新館へ行こう。
新館の、別館に通じる渡り廊下を走る。
まだ新しい塗装剤の香りが時々鼻につく。

あ、やばいかも
eriは、速度を上げる。
懐かしいな、デュークやん

新館には健診センターが新しくオープンしたばかりだ。あとは、回復機病棟もそちらへ移転した。

小走りしながら、ラッキーとも思った。
人はあまりいないだろう、
そして何よりピカピカトイレだ。
大丈夫、eriは大丈夫。
廊下は広く、
床も壁も艶々と色気を出している。
eriは小走りながらも、
一瞬回復機病棟を目視してしまう。

目が合う。


「あ、eri」


やっちまった
消化器外科の小久保医師だ。


「いま、聞いちゃうよ、
外科行こうと思ってたんだよね」

はいはい報告ですねぇ〜〜

大丈夫
大丈夫

4ふん、4分あれば…
私は本日リーダーナースだった。
医師への報告義務がある。
でも、イマジャナイ…

ウィスパーにお知らせが届いた。

あの、出ちゃいますけど?
肛門がうづく。
話すしかない。4...いや、2分で完結に、よし。

「413室の林さんオペ後のアイテル酷いです縫合不全起きてます処置は洗浄含め診察後にしようとまだステイしてます採血培養必要ですねオーダーと結果で次第で点滴指示もらえれば拾っておきます420室小西さん家族へ連絡できる様にしてます急変に備えたIC準備できてますナースつけないかもしれません同意書に不備がない様に記録まで残してくださいね会議室抑えてますオペ前の時間ください昨日緊急入院の方3名指示でてませんレスqすっぽ抜けてますわ足立さんドレーン抜けそうですいつになったらみにくるんすか早くしてください午後から消化器ドクター不在なのであなたしかいませんオペ時間中に急変起きた時の申し送り医師間でしてくださいオンコール医師が今日不在です5分後わたしのピッチにお返事を細かい質問はメールにてすでに飛ばしてあるし掲示板も確認をわたしの352直通ですさようなら

私はその場から立ち去った。
指令が来たのである。

「eri〜 くとうてんつけてよぅ、もう一回言って〜」

背中でそんな声をかけられる。

私は振り返ることもできず、ぼそっと答えた。
「無理です爆弾持ってますから」
すれ違いの検査科の伊藤主任がギョッとした様にこちらを見た。

「まじかよ、コードグリーンじゃねーか」
それすらも、無視し、わたしは小走りする。

(※ちなみにコードグリーンとは、
テロのことである)


新館のトイレは空いていた。
お待たせ、うんこたち。

今なら点も、マルもつけられる。
抑揚をつけて、アナウンスしようじゃないか。

ガラリ。

検尿カップ置き場が右手にあることに気付く。
開いている。

ここは、患者様用トイレだった様だ。
人の気配がする。

小トビラと小トビラの空間よ。
謎の空間のコネクト。


”お疲れ様です”

と呟き、eriはそっと閉めた。
もう一度、小久保先生に会いに行こう。みんなに謝りに行こう。
便座に座りながら、少し反省する。

モスキートの爆弾は、でかい。


でかいという、結末です。


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